第26話 見守り隊

「ねぇ、唯人くん。明日もダンジョンに行かない?」


 隣に座った桐華が、ちょんちょんと肩を叩いてきた。


 昼休み。

 いつものように物置となっている教室で、唯人たちはご飯を食べていた。


 明日は祝日。

 桐華はダンジョン探索に向かいたいらしい。


「良いですね。ぜひ行きたいです」


 秤も『がんばるぞい!』って感じのポーズで乗って来た。

 先日のダンジョン探索の後から、なんとなく二人はやる気に満ちている気がする。


 なにか良いことがあったのだろうか。

 そのやる気を手伝いたいが、明日は先約が入っている。

 佐藤と約束した合コンだ。


「ごめん。明日は約束があって……」

「……唯人くんに約束?」


 桐華は可愛らしく首をかしげた。

 『約束する人が居たの?』なんて思われていそうだ。


「うん。クラスの子に誘われたんだ」


 『合コンに行くんだ!』とは言わない。

 わざわざ公言すると、陰キャがはしゃいでるみたいで恥ずかしいから。


「……女の子ですか?」


 秤の質問で空気がひりついた気がした。

 桐華は笑顔。秤はいつものようにクールな表情。

 なのに、肌がひりつくような熱気を感じる。


「いや、男子だよ」


 嘘は言っていない。

 約束をした相手は佐藤。男子生徒だ。

 最終的には合コンなので、女の子とも遊ぶのだが。


 唯人が男子と答えたら、いつもの緩い雰囲気に戻る。

 気のせいだったのだろうか。


「そっかぁ、先約があるなら仕方ないかぁ」


 桐華はにこにこと笑った。

 しかし目が笑っていない。ジッと唯人のことを観察している。

 ……何か悪いことをしただろうか。唯人の心臓がドキドキと早くなった。


「……ねぇ秤ちゃん。ちょっと飲み物でも買いに行こうよ」

「分かりました」

「あ、じゃあ俺も……」

「唯人くんの分は買ってきてあげるから、待ってて?」

「え? わ、分かった」


 秤と桐華は立ち上がると、教室から出て行ってしまった。


  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「やっぱりクロだよ。合コンだって」


 桐華はスマホをポケットにしまった。

 唯人のクラスメイトに連絡。

 唯人が合コンに誘われていた情報をゲットしていた。


「まさか、唯人さんに嘘をつかれるとは……」

「あの感じは、合コンに行くことを恥ずかしいと思ってそうだけどね」

「恥ずかしいなら、初めから行かなければ良いのでは?」

「隣の男子に頼み込まれたらしいよ」

「なるほど……」


 秤はジッと考え込むと、神妙そうに口を開いた。


「……唯人さん、大丈夫でしょうか?」

「唯人くんは女の子に騙されそうだよねぇ……」


 桐華としては、そこが心配だった。


 唯人は生粋の陰キャだ。

 そんなのは少し仲良くなった人間なら、誰が見たって明らかだ。

 当然ながら女性への免疫もない。


 合コンにやって来るような肉食女子からすれば楽な獲物。

 ドードーよりもあっさりと捕食できるだろう。

 そして陰キャの心をもてあそび、金品を貢がせるのだ。


「ねぇ、こっそり付いて行ってみない?」

「もしものときには、止めに入るのですね?」


 相手の女の子が普通そうなら、止めはしない。

 桐華たちには止める権利もないのだから。

 だが、もしもヤバそうな女の子だったのならば、友人として止めに入るべきだ。


 二人は目を合わせて、ゆっくりとうなずいだ。

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