第12話 友人
お昼時間の終わりごろ。
唯人は、なぜか日課となっている桐華との昼食を終えた。
教室に戻ると、少し騒がしい。人口密度が高い。
原因はすぐに分かった。
「やぁ、唯人くん。この間のスタブ以来だね」
「あ、朝風さん。どうもです」
さわやかイケメン男子の朝風がやって来ていた。
どうやら、その友人グループも共に来ていたらしい。
ワイワイと教室が盛り上がっている。
「……唯人くんは、桐華と昼休みを過ごしてるんだっけ?」
「え? あ、はい」
どこで知ったのだろうか。
陽キャは友人が多い分、耳が早いのかもしれない。
「
「えっと、初耳です」
「そっか……実は一年生を集めて、ちょっとした食事会をする予定なんだ。まぁ、ファミレスだけどね」
(はぇー。そんなのやるのかぁ)
唯人にとっては他人事だ。
どうせ誘われない。行ったところで誰と喋るわけでもない。
唯人は知っている。
この手の食事会やら飲み会やらに、陰キャは顔を出すべきではない。
そう、あれは唯人がS級探索者に上がったばかりのころ。
若い高位探索者たちを集めたパーティーが開かれたことがある。
主催者側としては、若い探索者たちを労うと共に、新しい出会いの場にして欲しかったのだろう。
友情にしろ愛情にしろ、新しい出会いは人を豊かにする。
唯人だって、友人が出来るかもと思い、喜んで足を運んだ。
結果は地獄だった。
誰も話しかけてくれない。誰にも話しかけられない。
すみっこの方で黙々と食事をするしかなかった。
周りがワイワイと騒がしい中での孤独はキツイ。
知っている顔も多かったのが、余計に辛かった。
もう二度と、あんな体験はしたくない。
(うん? なんか朝風さんに見られてる?)
唯人が地獄を思い出して震えていると、朝風に見つめられていることに気づいた。
なんだろう、顔に何か付いているのだろうか。
「……良かったら、唯人くんも来ないかな?」
「え、あ、はい……行きます……」
真の陰キャは断れない。
なぜなら、流されることしかできないクラゲのような生き物だから。
『イヤだ』と言って流れに逆らったり。話を振って、新しい流れを作ることが出来ないのだ。
「そうか。場所と時間は――」
(嫌だー!! 行きたくないよぉー!!)
そう心の中で叫ぶ唯人。
それはそれとして、場所や時間はしっかりと覚えておいた。
なぜなら、別の友だちに時間と場所を再確認することが出来ないから。
いつだって、ぼっちは自分を頼るしかないのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いちおう、誘っておいたけど?」
屋上へと続く扉の前。
そこは人気が少ないため、絶好の密談スポットになっている。
そんな場所に、朝風と荒井が集まっていた。
「ありがとよ。これであのぼっち野郎に恥をかかせられるぜ」
黎明学園には、中等部が存在する。
二人は中等部からの友人関係。
中等部時代には、学年を支配するトップカーストに位置していた。
もちろん、高等部でも同じように学年を、いや高等部を支配するトップカーストを狙っていた。
そんな彼らは、唯人が気に入らない。
「いつもみたいに、裏でシメるのじゃダメなの?」
「無理だ。アイツからは嫌な予感がする……」
「まさか、模擬戦中に気絶したのが彼のせいだと思ってるわけ?」
「そうは思わないが……無理だ」
模擬戦中の荒井の気絶。
それは唯人のせいではなく、荒井が興奮しすぎたせいではないかと結論付けられていた。
しかし、殺気を向けられたことが効いたのか。
荒井は無意識のうちに、唯人を怖がっていた。
「それで、君の作戦。本当に上手くいくわけ?」
「安心しろ。中等部の陰キャに協力させて考えた。ぼっちを陽キャのグループに放り込んで放置するのが一番効くらしい」
悪魔のような嫌がらせだ。
実際、唯人には、効果はばつぐん。
身体的な強さの割に、弱すぎるハートは一瞬で折れることだろう。
「そんな情けねぇ姿を見せれば、秤だって見限るはずだ」
「……どうかなぁ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(……死にたい)
黎明高校の近場にあるファミレス。
その端っこの方の席で、唯人は黙々と食事を取っていた。
同じ席に人は居ない。安定のぼっちである。
しかも、ファミレスは貸し切りだった。
ファミレス経営会社の社長と、朝風の父が知り合いらしい。
簡単に借りることが出来たと、朝風は言っていた。
おかげで店の中は、元気な高校生たちによって華やいでいる。
しかし陰キャぼっちには辛い環境だ。
まるで太陽にさらされたカビ菌みたいに、唯人の精神はじくじくと滅菌される。
(二週目の高校生活を送っても、ぼっちはぼっちなんだなぁ)
二週目の青春なら、もっと上手くやれると思っていた。
しかし、現実は失敗続き。
やっぱりクラスメイトと仲良くなれないし、こんな場でも話しかけてくれる人はいない。
友だちと呼べるような人もいない。
人に話しかけるのは怖い。話しかけられるのも怖い。
逃げ続けて一人ぼっちだ。
(やっぱり、探索者やってる方が向いてたのかも……)
辛くてみじめな思いをするならば、高校生活を送る意味もない。
中退して探索者になる。
そっちの方が贅沢な暮らしはできる。
もう、青春なんて――
「ごめーん! ちょっと遅れちゃったかな?」
「……お待たせしました」
騒がしくファミレスに入店したのは、秤と桐華だ。
桐華はキョロキョロと店内を見渡す。
「桐華! 天野さん! こっちこっち!」
「お、あっちだって、行こうか」
朝風の呼びかけに反応する桐華。
秤の手を取って、朝風の元へと歩き出した。
「私は帰って勉強をしたいのですが……」
「秤ちゃんは、もうちょっと人間関係を気にしたほうが良いと思うなぁ」
朝風が居るのは六人掛けのテーブル席。しっかりと二人分が開いている。
ちなみに、荒井の顔もあった。
「はは、天野さんは真面目だね」
「なぁ、秤ちゃん。そろそろ連絡先教えてくれねぇ? 抹茶白玉パフェ奢るからさ」
「……」
「こら荒井くん、物で釣ろうとしないの。秤ちゃんも迷わない!」
「……迷ってません」
ワイワイと弾む会話。
秤と桐華が席に座ろうとした時。
「……秋月さん?」
唯人と秤の目が合ってしまった。
自分がぼっちで居るところなど、見られたくなかった。
……いや、散々見られてるかも。
「えぇ? あぁ、お前来てたんだ?」
荒井がニヤニヤと唯人を見る。
その目は嗜虐的に歪んでいた気がした。
「存在感なさすぎて気づかなかったわ」
みじめすぎて、ちょっと泣きそう。
このまま店を飛び出して帰りたい……。
いや、本当に帰ろう。そして学校も辞めちゃおう。
唯人が荷物をまとめようとした時だった。
「秋月さんが居るなら、私はそっちに座ります」
「ハァ⁉ ちょっと待てよ秤!!」
秤の腕を掴もうとする荒井。
しかし、それを秤はスルリと避けた。
「……何度目の忠告か分かりませんが、私のことを馴れ馴れしく呼ばないでください」
そう言い渡すと、カツカツと足音を鳴らして唯人の前に座った。
「じゃ、じゃあ、私も秤ちゃんの方に行くね。皆とはいつも一緒に居るし……」
桐華は朝風たちを気にしながらも、秤の隣に座った。
そして、こそこそと秤に話しかける。
「秤ちゃん、あれはマズいよ。荒井くんとは表面上だけでも仲良くしといた方が良いって……」
「いやです。薄っぺらい友情ごっこをするために学校に通っているわけではありません」
「うぐっ!! そのナイフは私に刺さるなぁ……」
そんな二人のやり取りをぼんやりと眺める唯人。
どうして、二人は唯人の席に来てくれたのだろうか。
「秋月さん? どうしたんですか?」
「いや、なんでこっちの席に来てくれたのかなって……」
秤はきょとんと首をかたむけた。
「どうして? 友人と食事をするのがおかしなことですか?」
友人。
秤はそう言ってくれた。
唯人としてはびっくりである。たまに学内で会う知り合いくらいの認識だった。
いったいいつの間に……どこから友人判定だったのだろうか。
「あ、その顔は……唯人くん。さては私たちのこと友だちだと思ってなかったな?」
「……桐華さん。秋月さんの表情変化が分かるんですか?」
「まぁねー。基本的に無表情だけどさ。お昼ご飯を食べながら、ずっと観察してたから」
「お昼ご飯……? その話、初耳ですけど?」
「あぁー……そうだっけ?」
お喋りに興じる二人。唯人はその会話に入れていない。
しかし、不思議と輪の中に入れている気がする。
これが友人というものなのだろうか。
(もうちょっとだけ、学校生活を頑張ってみようかな……)
「あ、これは喜んでるときの顔だ!」
「……違いが分かりません」
☆あとがき
いつも読んで頂きありがとうございます。
フォローや星など、とても励みになります。
ここまでは事前に書置きしていたものになります。
次回からのストーリーは未定。
なので、感想などを頂けると話の方向性を決めるのに参考になります。
とりあえずは、日常と言うかラブコメに寄せてく予定。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます