第13話 勉強会

「唯人さんは勉強が苦手なんですか?」


 昼休み。

 物置になっている教室で、唯人はご飯を食べていた。

 隣には秤。さらにその隣には桐華。

 ここ数日、三人でお昼を過ごしている。


「うん。数学の小テストが散々だった……」


 流れで数学の小テストの話になり、唯人は勉強が苦手なことを話した。


「二人は成績良い方だったよね?」

「人並み程度には」

「私は主席合格だよ!」


 秤は淡々と呟き。桐華はアピールでもするように宣言した。

 はぁ。唯人はため息を吐く。


「……やっぱり、塾に行った方が良いかなぁ」

「唯人くん、その必要は無いよ!」

「え?」


 桐華はどこからかメガネを取り出す。

 スチャっと装着。クイクイと動かした。

 インテリぶってるバカっぽい動作だ。


「私が勉強を教えてあげよう!」

「それは……すごくありがたいけど……」


 唯人としてもありがたい。

 しかし、桐華は陽キャクイーン。人に勉強を教えている時間があるのだろうか。


「神宮司さんに時間取ってもらうのも悪いかなぁ……」

「水臭いこと言わないでよ! 今度の休みに勉強会をしよう!」

「あっ、はい」


 流れを作られたら、陰キャでは断れない。

 『はい』以外の選択肢はないのだ。

 別に断る理由もないのだが。


「……では、私も微力ながらお手伝いします」


 秤も参加してくれるらしい。

 桐華と二人では気まずかった唯人だ。ありがたい。


「じゃあ、場所はどこにしようか。ファミレスか、誰かの家か」


 桐華の発言に唯人は考える。


(この場合、教えてもらうから自分の家を提供したほうが良いのだろうか……もしくは出向くべき?)


 細かいことが気になる。

 そんな陰キャあるあるを発動していた。


「すいません。私の家は人を呼べるほど広くありませんので……」

「私も人を呼ぶのは気まずいんだよねぇ……」


 ふと気づくと、二人の視線が唯人に向いていた。

 お前の家はどうなんだ。ということだろう。


「あ、俺の家は大丈夫。人を呼んでも問題ない……はず」


 最低限の掃除はしている。

 人を呼べないほどの問題は無いはずだ。


「よし、じゃあ次の土曜日は唯人くんの家で勉強会だ!」

「何かお菓子を持っていきますね」

「良いねぇ! 私も何か用意しとくよ!」


 勉強会が決まった後で、唯人は気づいた。


(あれ、女の子を部屋に呼ぶのって人生で初めてだ……)


 そう考えると、謎に緊張する唯人だった。


  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 あっという間に土曜日。

 部屋の掃除を終えた唯人は、ソワソワと秤と桐華を待っていた。

 つい先ほどスマホにメッセージが届いた。


「そろそろ来ると思うんだけど……来た!」


 ぴんぽーん。

 鳴らされたインターホン。唯人はいそいそとドアを開いた。


「お待たせー!」

「お待たせしました」

「い、いらっしゃい」


 唯人は二人をリビングに通す。

 二人とも勉強道具が入っているであろうバッグのほかに、手土産らしきものを持っていた。


「私が持ってきたのはケーキだよ。三人分買ってきたから、後で食べよう!」


 桐華はケーキの箱をテーブルに置いた。

 箱に印刷されたロゴを見て、秤が声をあげた。


「え、高級店じゃないですか……本当に食べて良いんですか?」

「私も食べてみたかったから、ついでに買ってきたんだ。気にしないで食べてよ!」


 唯人もそのロゴには見覚えがあった。


(ああ、手土産で何度か貰ったことあるやつだ。ショートケーキが美味しいんだよなぁ)


 唯人は友だちが居なかったとはいえ、S級探索者だった。

 接待などで、手土産を貰うことも多い。

 この手の高級スイーツはなじみ深い物だった。


「……桐華さんの後に出すのは恥ずかしいですが、私も持ってきました」


 秤は気まずそうに、テーブルの上に物を置いた。

 それはハンカチで包まれたお弁当箱だ。

 ハンカチをほどくと、弁当箱の中身が見える。


「手作りの、おはぎです……」


 秤は顔を赤くしながら、お弁当箱を差し出す。

 手作りのおはぎと、高級ケーキ。どうしても貧乏くさく見えてしまうだろう。

 秤としては恥ずかしかったのだろうが。


(と、友だちの手作り! 初めての経験だ!!)


 唯人は内心で大歓喜。

 食べなれた高級スイーツよりも、友だちの手作りのほうが新鮮味があった。


「ま、負けた!!」

「桐華さん!?」


 がっくりと桐華が膝をついた。

 それに驚く秤。


「女子力の差を見せつけられた!!」

「い、いえ。ただのおはぎですよ?」

「私は料理もできないよ!!」

「そ、それは……頑張ってください……」


 騒がしくも勉強会が始まった。

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