第28話 もやもや

 唯人たちはファミレスを出て、ショッピングモールへとやって来ていた。

 そこのゲームコーナーでわちゃわちゃと遊んでいる。


「ちょっとあの人、唯人くんにべたべたしすぎじゃないかな⁉ 唯人くんは怖がりな生き物なんだから、もっと適度な距離を保たないと!!」

「まるで珍獣あつかいですね」


 その様子を、桐華と秤が監視していた。


 唯人と陽菜はクレーンゲームをしている。

 陽菜のために唯人はぬいぐるみを取ろうとしているらしい。

 しかし、陽菜が抱きつくような体勢をとっているため、唯人はやり辛そうにしている。


「しかも、なんで唯人くんはクレーンゲームなんてデートみたいなことしてるのかな⁉ 私たちとは恐竜を撃っただけなのに!!」

「そのゲームを選んだのは、桐華さん自身じゃないですか……」


 プンプンとエキサイトする桐華。

 それに対して、秤は冷静に二人を見つめていた。


 遠目から見る限りでは、二人はカップルのように見える。

 ちくりと、秤の胸が痛んだ。


「特に問題はなさそうですね。私たちが干渉する必要は無いのでは?」

「いいや。ダメだね。あんな量産型地雷を私は認めないよ」

「兵器みたいな呼び方は止めてあげません?」


 桐華は妙に陽菜のことを敵視している。

 どうしてだろうか。秤は首をかしげる。


「……もしかして、同族嫌悪ですか? 桐華さんも彼女も似たような雰囲気です」


 どちらも明るく、常に笑顔で気配りができる。

 服装の趣味こそ違うが、性格は似ている所がある。


「ちょっと秤ちゃん? 私だって怒るんだよ?」


 桐華はビシっと陽菜の事を指さす。


「あれは養殖。偽物だよ。私は天然だから、全然違うから」

「たぶん本物は、天然とか養殖とか言わないと思いますよ」

「秤ちゃんはどっちの味方なの⁉」


 どっちの味方か、秤の答えはハッキリしている。


「どちらの味方でもありません。唯人さんが幸せなら、それで良いと思います」

「うわぁ……激重のファンみたいなこと言ってる。放っといても地中にめり込んで行きそう」


 秤の発言に、桐華はドン引きしていた。

 ちょっと距離を空けられる。


「でも、想像してみてよ秤ちゃん」

「何をですか?」

「あの地雷系と唯人くんが付き合ってるところ」


 想像しろと言われても、秤は困る。

 人と付き合ったことなどないので、想像に使うサンプルが無い。


「唯人くんは真面目なところがあるから、なによりも彼女を優先すると思う。私たちと遊ぶ時間はずっと減るだろうね」

「……」

「その時間を使って、唯人くんは地雷系とイチャイチャするんだよ。手を繋いで出かけたり、キスをしたり、もしかしたらもっと先まで行くかも」


 秤はその様子を想像する。

 鉛を飲み込んだように、胸が重くなった。


「嫌じゃない?」

「………………別に、気にしませんけど?」

「素直じゃないなぁ」


 秤は胸のモヤモヤを吐き出すように、深く息を吐いた。


「私たちには唯人さんの邪魔をする権利がありません」

「どうかなぁ? 私はあの地雷系はろくな性格じゃないから、止めるべきだと思うね」

「その確証ができたら、私だって手伝います」

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