第33話 外れた道で

「テメェ等、ガキ一人探すのに、どんだけ手間取ってんだ!? あぁん⁉」


 どんがらがっしゃん!!

 蹴られたオフィスチェアが宙を舞う。

 重力に従って落ちると、オフィスデスクに乗せられた小物を弾き飛ばしながら転がった。


 そこはデスクの並べられた事務所のような場所。

 しかし、びしりと気を付けをして並んでいる男たちは、勤勉なサラリーマンには見えない。

 壁には真っ黒な墨で『極道』と書かれた作品が飾られている。


 並んだ男たちの一人が、震えながら口を開いた。


「す、すいません。なにぶん、情報が少なすぎるので……高校生ぐらいの男ということしか分からないのでは……」

「あぁ!?」


 並んだ男たちの前には、真っ白なスーツに身を包んだ男。

 名前は『滝沢たきざわ』。


 滝沢は口を開いた男を殴り飛ばす。

 ズガン!!

 殴られた男は数メートル吹っ飛んで壁に叩きつけられた。

 腹を抑えながら苦しそうにうめいている。


「ごちゃごちゃ言わず、死に物狂いで探せや。俺たちの面子が潰されてんだぞ?」


 滝沢はわざとらしくカツカツと足音を鳴らして、苦しんでいる男に近づく。

 その太い足を振り上げると、男の顔面に向かって振り下ろした。

 ガン!!

 蹴りは音の顔をかすめて、壁を叩きつけた。

 薄っすらと壁にひびが入っている。


「ヤク積んだトラックが、馬鹿な高校生に切られたせいでなぁ!!」


 それはしばらく前のことだった。

 滝沢が手配していた『商品』を積んだトラックが、真っ二つに両断された。

 運転手がよそ見運転をして、事故を起こしそうになったところで、高校生によって切られたらしい。


 それが原因で『商品』の取引が明るみになり、滝沢が利用していたルートが使えなくなった。

 滝沢たちはなんとか尻尾を切って逃げ切ったものの、損害は大きい。

 この落とし前をつけさせるために、トラックを切った高校生を探していた。


 ガチャリ。

 事務所のドアが乱暴に開かれた。

 入って来たのは、他と同じようにガラの悪い男。


「滝沢のオヤジ。お忙しいところすいません」

「なんだ」

「例の高校生が見つかりました」

「なに?」


 男がスマホを取り出すと、滝沢に見せる。

 それはSNSに上げられた画像。

 そこには地雷系の格好をした少女と、その少女に抱きつかれて慌てている男が写っている。


「家でケツ持ってるバーで暴れた男です。以上に強い高校生ってことで気になって、トラックを運転してたバカに確認したら当たりました」


 滝沢はニヤリと笑うと、画像に写っている高校生を睨みつけた。


  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「この間のアイツ、マジでヤバかったよなぁ」

「投げ飛ばす間に指輪切るとか、どんな手品だよって感じだよな」


 港にある古ぼけた倉庫。

 すでに使われていないガランとした場所。

 ゲームコーナーで秤たちをナンパした男たちが、グダグダと話していた。


「あいつ、マジでトラック切った奴なんだろうな――うぉ⁉」


 ドスン!!

 上から何かが降って来た。

 その衝撃で土ぼこりが舞う。


「なに、面白そうな話してるじゃん」

「あ、レイヤさん!? 天井のはりで昼寝してたんすか⁉」


 土ぼこりが消えると、降って来た者の姿が見える。

 キラキラと光る長い赤毛。

 モデルの様に線の細い体。

 よく整った顔立ちもあって、ニコリと笑うと美少女アイドルのようだった。


「お前らが話してる人。強いの?」


 レイヤは不良グループ『|夜流愚零武(ヤルングレイブ)』の総長だ。

 総長といっても、|夜流愚零武(ヤルングレイブ)は何をする組織でもない。

 ただ集まってバカ騒ぎしたり、他の不良グループと喧嘩をする毎日だ。


 そんな日常に、レイヤは飽きが来ていた。

 刺激を求めていた。


「めっちゃ強いと思います。レイヤさんほどかは分からないですけど……」

「ふーん……良いじゃん。ちょっと挨拶に行こうじゃねぇか」


 レイヤは猛獣のような笑みを浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る