第53話 これから

 次の日。

 唯人は不安を押し殺して学校に向かった。


(やばい。校門に先生が居る……)


 校門では朝の挨拶活動をしている一年生の学年主任。

 寂しくなってきた頭が特徴だ。


 唯人は激しく暴れる心臓を抑えながら、学年主任の前を通る。


「お、おはようございます」

「おはよう。昨日中止になった補習授業をやるから、ちゃんと出席するんだぞ」

「は、はい」


 特になんてこともなかった。

 当たり前のように挨拶を返される。

 これは……セーフだろうか。


(退学になったときは学校にも入れさせて貰えなかったよな。たぶん大丈夫か……)


 唯人はホッと息を吐いて玄関に向かった。

 靴を履き替えて廊下を進む。

 教室の前に秤と桐華が居た。


「唯人くん、おはー」

「おはようございます」

「おはよう。二人とも」


 二人と挨拶を交わしながら唯人は席に向かった。

 隣に座っていた佐藤が、にやりと桐華を見た。


「よぉ。桐華さん。昨日は大変だったんだろ?」

「そうなんだよねぇ。唯人くんが助けに来てくれなかったらヤバかったよ……」

「唯人が助けに行けたのは、俺のおかげでもあるんだが?」

「……何が言いたいのかな?」


 バッと佐藤はスマホを見せてきた。

 そこには通販の購入画面。見ている商品はバニー服。

 どうやらサイズを選ぶ段階のようだ。


「桐華さんには唯人の前でバニー服を着てもらう。この間の恨みを晴らさせてもらうぜ……」

「うわぁ。そうやって女の子に無理やりえっちな服を着せようとする人だったんだね」


 桐華は蛆虫でも見るように、佐藤を見下した。


「彼女さんにもそうやって着てもらったの?」

「ちげぇよ!? アイツには土下座して何とか来てもらったんだ!!」

「土下座までしたんだ……」


 まさか、そこまでするとは唯人も驚きだ。

 よっぽどバニーが好きなのだろう。


「女性に無理やり卑猥な服を着せるなんて……最低です」

「がふっ!?」


 秤からの絶対零度の一撃。

 佐藤は胸を抑えて呆気なく倒れた。

 どうやら、バニー計画は上手くいかなそうだ。


「それよりも、なんか騒がしくないか? 昨日の事件のせい?」


 バニーの話よりも、唯人には気になることがあった。

 妙に教室が騒がしい。

 昨日の事件が尾を引いているのだろうか。


「ああ、それもあるんだが、もう一個事件があってよ」

「もう一個?」

「なんと、このクラスに転校生が入るらしいんだ!」


 佐藤はグッと親指を立てた。

 転校生。つまりは新しいクラスメイト。

 もしかしたら、友だちになれるかもしれない。

 唯人はドキドキと胸を高鳴らせた。


「転校生かぁ。どんな人なんだろうか」

「噂だけど、女の子らしいよ?」

「……嫌な予感がします」

「……奇遇だねぇ。私もだよ」


 なんだかぼやいている秤と桐華。

 しかし唯人の耳には届いていない。

 自分の世界に入り込んでいた。


 異性となると友人になるのは難しいだろう。

 異性の友人はハードルが高い。

 唯人では友だちになる自信が――いや、よく考えると異性の友人の方が多かった。


 わちゃわちゃと話していると、朝のホームルームの時間が迫っていた。

 秤と桐華は自分たちの教室へと帰っていく。

 

「はーい。ホームルーム始めるぞー」


 ガラガラと扉を開けて担任が入って来た。

 普段であれば生徒たちは大人しくなるところだが、今日は逆。

 佐藤がバッと立ち上がった。


「先生、転校生が入るって本当ですか⁉」

「ああ、流石にもう知ってるか。じゃあ、先に挨拶してもらうか。入っていいぞ」


 ガラガラガラ!!

 勢いよく扉が開く。入って来たのはの女子生徒。

 堂々と教卓の前に進むと、腕を組んで仁王立ち。


「俺の名前は『雷鳴寺レイヤ』だ!! ちょっとばかしヤンチャしてたら兄貴に怒られて、この学校に通うことになった。よろしくな」


 転校生は唯人も良く知っているレイヤだった。

 唯人は驚きから、金魚のように口をパクパクとする。

 レイヤは唯人を見るとニヤリと笑った。


「よぉ唯人。驚いたか?」


 唯人はぶんぶんと首を縦に振る。

 驚きすぎて声も出なかった。


 さらに、クラスの視線が唯人に注がれる。

 女子は二人の関係を探るような、どこか期待する目。

 男子は唯人を睨みつけていた。『三人目だと……⁉』という声がドコからか聞こえてきた。


「唯人の青春は、なかなか賑やかになりそうだな」


 佐藤が呆れた目で唯人を見た。

 やれやれと肩をすくめている。わざとらしくて痛かった。


「うん。きっと寂しくはないだろうね」


 唯人はこれからの学生生活を想像して、心臓が高鳴った。

 きっと、楽しい青春になるだろう。

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最強ぼっちのやり直し青春無双!!~二周目の学園生活では美少女の友だちができました!~ こがれ @kogare771

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