第42話 だらだら

 補習は授業の途中で中止となった。

 学校の裏手側で事件が起こったらしく、警察がやって来たからだ。


 唯人がスマホを開くと、陽菜から大量のメッセージが届いていた。

 補習中は音声を切っていたため気づかなかった。

 そのメッセージを呼んだ唯人は、スマホだけを持って廊下に飛び出した。


 廊下に出ると、佐藤とすれ違う。

 彼も事件の話を聞いたらしく、慌てた様子だ。


「おう、唯人。聞いたか――」

「ごめん!」

「何してんだ!!!?」


 窓から飛び出した唯人。

 何事もなく着地すると、学校の裏手に走った。


 裏の道には、多数の警察。

 警察に混じって見知った顔が居た。


「唯人!! なにやってたわけ⁉」


 陽菜が慌てて駆け寄って来る。


「ごめん。補習中で……」

「ちょっと、マジでヤバいんだって!!」


 陽菜から詳しい話を聞く。

 秤と桐華がさらわれた。

 ヤバそうな人たちと、黎明高校の男子生徒が誘拐をしようとしていた。

 だが、赤毛の美少女によって救われて、二人をどこかに連れ去ったらしい。


「……とりあえず、二人は無事だと思う」

「なんで、そんなことが分かるのよ?」

「昨日、その赤毛の人に会ったんだ……今日も会いに来るようなことを言ってた」


 唯人はつい昨日のことを思い出す。

 赤毛の美少女――レイヤは今日も会いに来るようなことを言っていた。

 唯人に会いに来たところで、その事件に出くわしたのだろう。


「そして、悪い人じゃなかったと思う」


 レイヤは子供のために親身になって行動していた。

 彼女が悪人とは思えない。

 秤と桐華を連れ去ったのは、純粋に二人を助けるためだろう。


「それに実力も申し分なかった。そこらのごろつきに捕まってる可能性は低いと思う」


 唯人の見立てでは、レイヤの現在の実力はB級探索者ほど。

 その実力者が全力で逃げたのならば、捕まえるのは簡単じゃない。

 例え捕まえられたとしても、レイヤの抵抗によって大きな事件になっているはず。

 しかし、そんな話は入って来ていない。


「なるほどね。とりあえずは安全地帯に逃げ込めた可能性が高いと……」


 陽菜は不安を吐き出すように、ため息を吐いた。

 そしてキッと唯人を睨むと、その頬をつねった。


「そして、アンタはまた女の子を引っかけてたのね?」

「い、いやいや、誤解だって……特別に仲良くなったわけじゃ、たぶんないし?」

「なんで疑問形なのよ……」

「彼女の距離感がよく分からなくて」


 レイヤは妙に唯人との距離感が近かった。

 かと思いきや、別れ際には殴られそうになった。

 唯人とは人種が違い過ぎて、いまいち彼女の気持ちが分からない。


「じゃあ、たぶん好かれてるわよ」

「なんで?」

「あんた、人の好意に鈍すぎるから」


 そう言われると反論できない。

 実際に唯人は人の気持ちへの理解力に乏しい陰キャ野郎だ。

 秤や桐華も、気が付いたら友だちになってくれていた。


「そ、それよりも! 誘拐に関わってる男子ってどんな人だった?」


 唯人はごまかすように、声を上げた。


「え、そんなこと聞いてどうするの? まさか、自分で二人を探しにいくつもり?」

「そのつもりだけど……?」

「いやいや、アンタが強いのは分かるけど、もう警察に任せた方が良いんじゃないの?」

「警察かぁ……」


 唯人はあたりの警察を見る。

 近所の人に聞き込みをしたり、タイヤ痕を調べたり、なにやら動き回っている。

 そのほとんどから――やる気が感じられない。

 どこか、だらだらとしている。

 特にひどい人などは、物陰でタバコを吸っていた。


「……陽菜さんって、高校から探求都市に来た人?」

「そうだけど、それがどうしたのよ?」


 唯人は言い辛そうに口を開いた。


「うーん。この街の警察は――」

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