第41話 留守番電話

「ふん、ふんふーん♪」

 

 ルンルンと鼻歌を歌いながら、陽菜は街を歩いていた。

 行き先は黎明高校。

 唯人の通っている学校だ。


 陽菜は嘘をついて早退してきた。

 唯人の下校時刻に合わせて、校門前で待ち伏せをするつもりだ。


(校門前で女の子が待っている。男なら嬉しいシチュエーションよね♪)


 不安そうに周りを見回す女の子。

 その子は自分を見つけると、パッと笑顔を咲かせて駆け寄って来る。

 これにグッと来ない男は居ない。

 いくら唯人のようなズレた天然でも、キュンと来るはずだ。


(あれ、間違えて学校の裏に出ちゃったわ……)


 そこは人気の少ない道。

 黎明高校の裏手だ。

 陽菜は校門に向かおうと足を動かす。


「おい、もっと速く走れ!」

「す、すいません……」


 静かな道に響く怒鳴り声。

 何事かと顔を向けると。


(え、なにアレ……誘拐⁉)


 黎明高校の男子生徒が、女子二人を背負って走っていた。

 向かう先は大型のバン。

 車から人相の悪い男が顔を出して、怒鳴り散らしていた。


 陽菜はとっさに体を隠す。

 明らかに犯罪だ。

 通報しようとスマホを取り出す。


(しかも、背負われてる二人って唯人の友だちじゃない!?)


 見覚えのある二人。

 秤と桐華だ。

 それならば、このまま通報するよりも唯人に連絡したほうが良い。

 警察では来る前に連れて行かれてしまうが、学校に居る唯人なら間に合う。

 陽菜を助けた時のように、さっさと誘拐犯を倒してくれるはずだ。


 スマホからコール音が鳴る。

 一回、二回。しかし、唯人は電話に出ない。


「早く出てよー……あんたの友だち連れてかれちゃうわよ⁉」


 秤と桐華が、車に担ぎ込まれようとしている。

 もう間に合わない!

 陽菜がそう思った時だった。


 ドン!!

 車に影が走りよると、男子生徒が吹っ飛んだ。

 そのまま秤と桐華を担ぐと、車から飛び退いた。


「よぉクズ。お前とは妙に縁があるな」


 秤と桐華を助けたのは、赤毛の美少女。

 二人を米俵のように抱えて、男子生徒を睨みつけていた。


「おいガキ。その女二人、こっちに渡せ」


 車からヌッと出てきたのは白いスーツの男。

 見るからにヤバい筋の人だ。

 鋭い目つきで美少女を睨んでいる。


 しかし、美少女は臆することなくニヤリと笑った。


「気色悪いのがうろついてると思ったら……あんたら、どこぞの極道だろ? 女二人誘拐とか、情けないことやってるんだな?」

「ガキが語るんじゃねぇよ。さっさとこっちに寄こせ」

「はっ! そんなカッコ悪いことできるかよ。かといって、コイツ等を守りながら、アンタの相手をするのは難しそうだから――!」


 ダン!!

 美少女は勢いよく走り出した。

 男たちとは真逆方向に全力疾走だ。


「ッチ!! なにぼさっとしてやがる。追いかけろ!!」

「は、はい!」


 白いスーツの男が車を叩くと、中からスーツ姿の男たちがわらわらと飛び出してきた。

 そして、美少女の逃げた方向に走り出す。


「オヤジ、荒井の奴が居ません」

「あぁ? 逃げ出したか。放っとけあんなガキ」

「うす」


 白いスーツの男が車に乗り込むと、バンは走り去って行った。


 まるでフィクションのような出来事だった。

 取り残された陽菜は、夢でも見ていたようにぼんやりとしてしまう。


 唯人にかけていたスマホからはコール音が止まり、留守番電話の案内メッセージが流れていた。

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