第50話 トラック転生

「こいつはウチで扱ってる主力商品の一つでなぁ」


 滝沢は語りながら拳を振るった。

 桐華は剣で受け止めるが、吹っ飛ばされる。

 空中でくるりと回転して着地した。


「中毒性、幻覚症状、人格の凶暴化。いろいろと副作用は強いんだが――」


 ズドン!!

 滝沢は地を蹴ると、一瞬で桐華に近づいた。

 拳を振るう。

 一発ではない。二発、三発。連続で拳を叩きつける。

 桐華は剣で受け止めるが、ミシミシと腕が悲鳴を上げていた。


「こんな風に、強力な力を発揮できるようになる!!」


 滝沢は両腕を振り上げる。

 桐華に向かって勢いよく叩きつけた。


「桐華さん!!」


 ズドン!!

 秤の火球が滝沢に炸裂。

 しかし、それでも拳は止まらない。


「危ねぇ!!」


 レイヤが桐華に飛びつく。

 二人が居た場所に拳が下ろされる。

 ドッガン!!

 叩きつけられた地面に小さなクレーターが生まれた。


「はっ! 薬使って強くなったつもりかよ!!」

「使えるものは使う。それが俺のやり方だ」


 軽口を叩くレイヤ。

 しかし体へのダメージは低くない。ふらつきながら立ち上がった。

 秤は二人に駆け寄った。

 そして怪我のひどいレイヤに回復魔法をかける。


「大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかな」


 滝沢はにやにやと秤たちを睨んでいる。

 秤たちに仕掛けてくる様子はない。

 自分の勝ちは揺るがないと思っているのだろう。

 あるいは、余裕を持って勝つことで自身の強さを証明しようとしているのか。


「ちなみに、今はどれくらい強いと思う?」

「俺の予想じゃ。A級だな」

「甘井さんと同じですか……」


 そう考えると、勝利が遠のくように感じる。

 入学すぐに行われた模擬戦でも勝つことはできなかった。

 秤たちの奮闘に、勝利を譲ってくれただけだ。


「だけど、勝ち目が無いわけじゃねぇ」

「どうしてですか?」

「俺もチームの頭張ってるから分かるが、あの手の薬は副作用によるデメリットも大きい」

「つまり、本物のA級よりは隙がある?」

「そういう事だ」


 秤はギュッと杖を握った。

 勝ち目がある。ならば負けるわけにはいかない。


 ここで秤たちが負ければ人質にされる。

 秤たちが捕まれば、唯人は反撃することができない。

 そうなれば、恨みを持っているらしい滝沢たちは、唯人に想像もつかないような非道なことをするだろう。


「……私に策があります。任せてもらっても良いですか?」

「りょーかい!」

「しゃあねぇ。譲ってやるよ」


 三人は顔を見合わせると、こくりと頷いた。

 その様子を見た滝沢は、ゴキゴキと首を鳴らした。


「どうやら、作戦会議は終わったみてぇだな。かかってこいやガキ共ォぉォォォ!!」

「薬漬けのおっさんが調子に乗んなよ!」

「私たちの方が強いからね!」


 ダッと走り出す二人。

 滝沢は両腕を振り上げる。


 ズドン!!

 滝沢の拳は、桐華の剣とレイヤの拳によって受け止められていた。

 二人はギリギリと拳を受け止めながらも、笑顔を作った。


「よゆーよゆー」

「薬使ってこの程度かよ」


 ギリギリと滝沢が歯を食いしばる。

 滝沢は拳を振り上げた。

 桐華にやったように、ラッシュを仕掛けるつもりだ。


「二人とも散開してください!」


 バッと滝沢から離れる二人。

 滝沢の拳は空を切った。


「桐華さんは引き付けて、レイヤさんはかく乱してください!」


 桐華は正面から、レイヤは背後から滝沢に飛び掛かる。


「ガキの浅知恵が!」


 滝沢は地面を踏みつける。

 バキバキとコンリートの地面が割れた。

 床が崩れて桐華とレイヤのタイミングズレる。


「まずはテメェからだ!」


 滝沢は後ろに回し蹴り。

 レイヤはその攻撃を両腕で受け止めるが、ズドンと空中に投げ出される。


「次はテメェだ!」


 滝沢は桐華の剣を掴んだ。

 抜き身の刀身を素手で掴んでいるのに、滝沢の手からは血も流れない。

 グイッと剣ともに桐華を引き付ける。

 空いた片腕を桐華に叩きつけようと――。


「注意力が散漫です。薬の悪影響はしっかりと出ていたようですね」


 桐華の後ろに、ぴったりと秤が付いていた。

 滝沢がレイヤに回し蹴りを食らわせている間に潜り込んだ。

 秤の杖は滝沢の胴に向けられている。


「どうして後衛のテメェが⁉」

「アナタに一撃を食らわせるためです。ゼロ距離を味わってください」

「ま――⁉」


 杖の先端が強く光った。

 ズドン!!

 秤の杖から赤い閃光が迸る。


「グオォォォォォォ!!!!!?」


 まるで閃光に押されるように滝沢は吹き飛ぶ。

 そしてトラックの正面を貫いて、勢いよく荷台へと突っ込んで行った。


「トラックにぶつかるとは、お気の毒さまです」

「そのまま異世界に吹っ飛んじゃえ!」

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