第21話 スライムは燃やせ

 亀のような巨獣。

 その背中にぽっかりと空いた穴へと唯人たちは入っていく。


 洞窟のような場所だった。

 ごつごつとした茶色い岩肌。

 日光は差し込んでいないが、十分に明るい。

 岩肌から露出したガラスのようなものが光っているからだ。


「どうもー、みんな見えてるかな? 音とか問題ない?」


 桐華がカメラに向かって話しかける。

 カメラの上には配信の確認画面が投影されている。

 そこから多数のコメントが配信に寄せられていることが分かる。


『問題ない!』

『見えてるよー』

『騎士風の衣装にあってるね!』

『キリカちゃんがんばれー』


(視聴者数は――だいたい百人か。桐華さんの友だちが見てくれてるんだろうな)


 いくら桐華や秤が美少女でも、配信初心者だ。

 そうそう視聴者は付かない。

 視聴者のほとんどは、桐華のリア友やSNSで繋がった人だろう。


(むしろリアルで会う可能性のある人たちが見てる方が緊張するかも……)


 もしかすると、これも友だちゲットのチャンスなのかもしれない。

 ここで自分をアピールできれば、桐華経由で友人が増えるかも。

 唯人はピシリと背筋を伸ばした。


「と言うわけで、ダンジョン配信をしていく桐華と――」


 桐華は秤の腕を取って、カメラの前に引っ張る。

 秤は不思議そうにカメラを見つめていた。


「秤ちゃんも自己紹介して?」

「秤です」


 秤のそっけない自己紹介。

 しかし、それはそれで受けてるらしい。


『クールな感じでイイね!』

『ハカリちゃんも頑張れー』

『魔女っ娘最高!!』

『ハカリちゃん、めっちゃタイプなんだけど!www』


 コメント欄では、秤を応援しているコメントが多数。

 掴みは悪くないようだ。


「はい。唯人くんも!」

「え、俺も?」


 桐華がカメラを操作して、唯人へとレンズを向ける。

 そうなっては無視するわけにもいかない。


「ゆ、唯人です。よろしくお願いします」


『よろしくー』

『キリカちゃんかハカリちゃんと付き合ってるの?w』

『美少女二人とダンジョンとかうらやま……』


 秤に比べてコメントが盛り下がったが、そこまで感触は悪くない。

 問題なくやっていけそうだ。


「自己紹介も終わったし、ガンガン行こう!」


 桐華はそう言って、ずんずんとダンジョンの奥へと進んで行った。

 唯人たちもそれに付いて行く。

 少し進むと、モンスターが立ちふさがっていた。


 桐華はのんびりと呟く。


「スライムだねぇ」


 大きな水滴のようなモンスター。スライムだ。

 

 ぷるん!

 スライムは大きく震えると、一気に跳びはねた。

 全身を使った体当たりだ。

 狙いは最前列に居た桐華。

 

「おっと!」


 桐華は盾を使って難なく受け止めると、腰の剣を抜いた。


「とりゃあ!」


 ぼよん!

 刃はスライムを貫くことはできない。

 ボールをバットで打ったように、スライムは弾んで行く。


『効いてないー⁉』

『スライムには魔法が効くよ!!』


「やっぱ、物理攻撃は効きづらいなぁ」

「私の出番ですね」


 秤は機械仕掛けの杖を構える。

 杖の先がガシャンと駆動。キュインキュインと唸る。

 そして杖の先から、火球が飛び出した。


 火球は真っすぐスライムに飛ぶと、見事に着火。

 ぷるんぷるんと震えるスライム。

 今度は見事に効いている。


「スライムは熱変化に弱い。習った通りですね」

「このダンジョンはスライムが多いから、魔法が得意な秤ちゃんが大活躍だね!」


 今回のダンジョン探索の目的は、『桐華の配信』と『秤の特訓』だ。

 秤の魔法の訓練をするなら、魔法が効きやすい敵が多い方が良い。

 そこでスライムの多いダンジョンをチョイスした。


 燃えていたスライム。

 やがて動きが止まると、光の粒子となって消えた。


『ナイス!!』

『ハカリちゃん強い!』

『魔法当てられるの羨ましぃ!』


 からん!

 消えたスライムの元に、小さな宝石のようなものが落ちる。


「本当に『魔石』になって消えるのですね……」


 秤は不思議そうに宝石を拾った。

 それは魔石と呼ばれる物。

 モンスターたちの核みたいなものだ。


 モンスターは倒されると、魔石となって消えてしまう。

 初めて生で見た秤には、不思議な光景だろう。


「初討伐おめでとう。秤ちゃん!」

「ありがとうございます」

(この調子なら、俺は下手に手を出さない方が良いかなぁ)


 今回の目的は秤の特訓。

 唯人が片っ端から切り伏せていては意味がない。

 下手に手を出し過ぎないようにしようと考えていると。


「ぴぎゃぁぁぁぁぁ!!!?」


 洞窟に声が響いた。

 南国に生息する、変な鳥の鳴き声みたいだ。


「……人の悲鳴ですか?」

「ぽいかも?」

「とりあえず様子を見に行かない?」


『新種のモンスターかもwww』

『助けに行ってあげてー!』


 唯人たちは半信半疑ながらも、叫び声の方へと走り出した。

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