第35話 異世界に降り立つ流れ星① 雨宮視点
「へっへ、あの女はまだまだ金を引っ張れそうだぜ」
あのジュリアンという女剣士はオレに惚れている。一度臨時パーティを組んだ時にたくさん褒めてやったら、固定パーティを組みたいと言い出した。だから病気だとウソをついて治療代を騙し取ることにした。
オレこと
クラスメイトの
異世界に来てから、こんな感じで金を貢いでくれる女を10人ほど作った。オレは日々、そいつらのご機嫌を管理して、すねたりしないようにあしらってやっている。これも立派な仕事みたいなもんだ。
この世界でもバカな女たちを利用して、生きていくことに決めた。女神が能力をくれた時も魔王を倒せとか言っていたが誰がやるもんか。世界の平和などどうでもいい。
しばらくすると、扉がノックされた。また別の女がやってきたのだろう。
扉を開けようとすると、向こうから勢いよく引っ張られた。
「ちょっとリュウくん! 私以外にも女がいるんでしょ!? こんなにお金あげてるのに、いつになったら私のところにきてくれるの?」
(ちっ、めんどくせーのが来たな。オレが本気で自分といっしょに住むと思ってやがる)
内心そう思っていたが、顔には出さずに対応した。
「よぉ、サラじゃん。どうしたんだよ。怒っちゃってさ、らしくないよ?」
「ごまかさないで! いくらあげたと思ってるの! いつになったら私といっしょになってくれるの?」
この女は道具屋の娘。ポーションを買いに行った時に接客してくれたので容姿を褒めてやったら、簡単にオレのことを好きになった。二人の結婚資金とウソをついて金を貢がせている。
「まあまあ、わかったわかった。オレ忙しいからさ。明日の夜でもまた顔を出してくれる? その時ゆっくり話そうよ。な?」
「ちょっと! 私は今話がしたいのよ!」
「うるせーなあ! ちょっと黙れよ! こっちにも都合があるんだ。また明日の夜に顔出せっつてんだろ! わかったな!?」
サラを突き飛ばして扉を閉めた。
「っけ、クソが! あの女、奴隷商に売り飛ばしてやる! 言うことを聞かなくなった女は売り飛ばして処分してやるぜ!」
オレはさっそく奴隷商と掛け合うために、奴らのアジトに向かうことにした。
町の外れの薄暗い裏通りを奥へと歩く。この町には暴力や犯罪をいとわない闇ギルドのような組織があるらしい。オレはそいつらと取引するためにアジトを探していた。
路地裏でタバコを吸っている下っ端のような見張りがいたので声をかけた。
「おい、お前。この辺りで人買いを探してるんだ。案内しろ」
「はっ? なんだぁ!? 小僧てめぇ!」
そいつは、いかにも下っ端のようなセリフを吐きながら、煙を吐き出した。そして、おもむろに側に置いてあった角材を手に取る。
「小僧。口のきき方を教えてやるよ」
そう言って、角材をオレの頭に振り下ろしてきた。
ズギャ!
──鈍い音がした。だがオレはノーダメだった。
「バカか、おっさん。そんな攻撃効かねえんだよ! オレは女神に選ばれた勇者だぞ! 身の程を知れ!」
オレはその下っ端をボコボコにして、アジトに案内させた。後でわかったことだが、そいつは下っ端ではなく、組織のボスの右腕だったらしい。
「ガキのくせに、妙な能力を持ってやがるそうだな。異世界人か?」
人身売買組織、
「まあね。あんたたちと取引きがしたい。女を何人か買い取ってくれ」
「ガキのくせに偉そうな口聞きやがって……殺されてえか?」
「おいおい、オレの強さはさっきそこの下っ端に見せたはずだぜ。正直、その気になれば今すぐ全員やれる。でも、ここでもめてもお互い得がねえだろ。どうせあんたたちの金はここにはないんだし。だからちゃんと取引してやろうって言ってんだよ」
「がははっ、おもしれえガキだ。おい、フランク! お前、下っ端呼ばわりされてるぜ」
フランクと呼ばれたルチアーノのボディガードは、唇を噛み締めながら下を向いていた。さっきオレにぶん殴られた顔が真っ赤に腫れている。
「明日の夜できるだけ女をウチに集めておくから。頃合いを見て引き取りに来てくれ。そうだ。睡眠薬みたいなものはないか? あったらコトがスムーズにいくんだが」
「……用意させよう。しかしガキのくせに人身売買をたくらむなんざ、末恐ろしいぜまったく」
「アッハハハ! せっかく異世界転移したんだ! 世界のために働くなんてまっぴらごめんだ! 好きなことして生きていくぜ!!」
それから、軽い打ち合わせをして、睡眠薬を分けてもらい、オレは組織のアジトを後にした。
明日の夜、うちにバカ女どもを呼んで、まとめて組織に売り飛ばしてやるぜ。
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