第34話 恋は盲目


月見里やまなし、だよな?」


「え、あ、影山くん?」


「ああ、久しぶり。といっても全然喋ったことなかったけどな」


「うーん、そうだね。さっきはどうしたの? 急に話しかけてきたよね。ビックリしたよ」


「いや、なんかほら。おれも冒険者やってるからさ、他のパーティを見て勉強になったから素直に言ったんだよ。本当に」


「ふーん。そうなの? なんかタイミング良すぎって感じでビックリしたよ。ミミの能力、よくわかったね。あんまりこの世界でも使ってる人いないらしいよ」


「ああ、珍しい能力だなーと思ってさ」


 まあ近くで見ていたからな。適当にごまかしておく。


「それより、さっきの人たちは固定パーティじゃなかったのか? なんで臨時パーティに入ってたんだ?」


「あー、えっと、それはね」


 月見里は少しめんどくさそうに目線を斜め上に向けた。たぶん言いたくないことなのかもしれない。


「本当はパーティをいっしょに組みたい人いるんだけどさ。ちょっとタイミング悪いみたいで。だからミミは臨時でやってるんだよね」


「そうか」


 言っている理由がよくわからず、おれは生返事をした。


「てかさ、影山くんも異世界こっちに来てたんだね。ガッコー来てなかったのに、なんか不思議ー」


 痛いところを突かれる。


「今何してるの?」


「ああ、おれもぼちぼち冒険者やってるよ。ぼっちだけにな」


「ぷっ、なにそれ。そっか。じゃあミミは行くところあるからさ。またね」


「ああ」


 結局、彼女の事情がよく飲み込めなかったが、ここまで来たら尾行を続行することにした。おれは透明化して、彼女の後をついていった。




 月見里は10分ほど歩いたところにある、大きな家の前まで来た。彼女は髪の毛を少し気にする素振りをしてから、扉をノックした。


 すると、扉が開いて男が顔を出す。


 その男はなんと雨宮だった。雨宮あまみや流星りゅうせい。クラス一番のイケメンで、女子たちから圧倒的な人気があった。学校外でもアイドル活動のようなことをしていると聞いたこともあるくらいだ。


「にゃほ〜、雨宮くーん! 買ってきたよ? 欲しがってた異世界コスメ!」


「お、マジで? 嬉しいなあ! この世界コスメ無いから困ってたんだよなあ」


「高かったけど雨宮くんに喜んでもらいたくってフンパツしたんだよぉ〜」


「いや〜、助かるよ。ミミちゃんマジ天使、大好きだよ」


「えっやだ! ウソ、うれぴ〜! 買ってきてよかった〜」


「どこで買ったの?」


「秘密通りの専門店街。いろんなお店があっておもしろかったよ。今度いっしょにいこ〜よぉ?」


「そうだな。それで、クエストの報酬は?」


「う、うん。はいこれ」


「なんか少ないね。これじゃミミちゃんとの冒険の資金がいつになったらたまるのか不安だなあ」


「ごめんね! ……ミミ、もっと頑張るから!」


 おれは困惑していた。透明化したまま二人の会話を盗み聞きしていたが、なんだか別の世界の話を聞いてるみたいだった。


(なんだ? なぜ雨宮にお金を渡しているんだ?)


 月見里もおれと話していた時とは別人のように甘えた声で雨宮と話している。これがイケメンとの対応の違いなわけか。


 現実世界でも、イケメンで陽キャな人種はどこか違う雰囲気を漂わせていたが、それは異世界こっちでもいっしょだった。整った中性的な顔立ちの雨宮は、涼しい顔をして、月見里に見送りの言葉をかける。


「じゃあね。やることがあるからそろそろ戻らないと。なあ、ミミ。また顔を見せてくれるか? オレのためにいつも可愛くあってくれよな」


「きゅんきゅん♡ うれぴ〜!! 雨宮くんのためにミミもお金稼ぎ頑張るね!」


「ああ、じゃあまたな。君の瞳は一等星☆彡」


 雨宮は意味不明な決め台詞のようなことを言うと、扉を閉めた。


 結局の所月見里は何をしにきたんだろうか。自分がクエストで得た報酬を雨宮に渡すというのはなんなのか。二人の関係性がわからないため断定はできないが、月見里は雨宮に貢いでいる。いや、雨宮が貢がせているといったほうが正しいかもしれない。


 月見里は、来た道を引き返していった。おれはそんな彼女の背中が寂しそうに思えた。おれは月見里よりも雨宮が気になったのでしばらくここに留まって観察することにした。




 しばらく、雨宮の前にいると、また女性が現れた。クラスメイトではない、現地人の女性だ。動きやすいハーフメイルを着用して背中には両手剣を携えている。おそらく彼女は剣士だろう。女性らしい丸みを帯びた体つきではなく、屈強な戦士の体つきそのものだ。


 彼女が扉をノックすると、またもや雨宮が顔を出す。


「リュウセイ! 来ちゃった。すごく会いたかったぞ!」


「ジュリアン! オレも会いたかったぜ! 顔を見れて嬉しいよ」


「ふふ、リュウセイは、いつも上手いな。これ、少しばかり病気の足しになればと思って、使ってくれるか?」


「助かるよ、いつも。さっそく医者に行ってみる」


 なんと、またもや女が現れて雨宮に金を差し出していた。ジュリアンという女は嬉しそうに雨宮と話をしている。雨宮がこうやって女に金を貢がせていることは間違いなかった。


「なあに。いつかリュウセイが元気になったら、いっしょにパーティを組んでくれると嬉しいんだ。私といっしょに魔王を討ち滅ぼそうじゃないか!」


「もちろんだ。ジュリアン! 君とならできる気がするよ。じゃあオレは少し休むからこれで!」


「ああ、また会いに来てもいいか?」


「うん、もちろんだよ!」


 ジュリアンは去っていった。


 おれは、雨宮がジュリアンと話しているすきに家の中に侵入することに成功していた。

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