第18話 令嬢の戯れ
姫崎と堂島は通りのど真ん中を馬車でゆっくりと進んでいる。おれは透明化しながらそんな二人の行動を追いかけて見ていた。
「ワン公どこいった!? 本気で逃げやがって、おもしろくないじゃーん!」
「あとでお仕置きしないといけませんわねえ」
二人は犬の姿をした先生を弓で撃ちながら追いかけ回す遊びをしていた。どうして担任の先生が犬の姿になっているのかわからないし、遊び相手にされているのかもわからない。
その時、建物から男が一人出てきて馬車の前に立ちはだかった。
「おぉい、止まれ! お前ら、町中で弓を構えて何をやっている!? 危ないじゃないか!」
突然現れたその男はスキンヘッドで屈強な体付きの武器屋といったところだ。町中を我が物顔で進む二人の行動を注意しようと、我慢できずに飛び出したのだろう。
「なにこいつ、あたしらに言ってんの? うざっ、ちょー萎えるじゃーん」
「あらあら、おじさま。どうされましたの? 今お話を伺いますわ」
二人は意外にも素直に、落ち着き払った動作で馬車を降りて男に近づいていく。
「お前ら、町中でボウガンを撃つな! 人に当たったらどうすんだ? この通りで好き勝手させるわけにはいかねぇんだよ!」
「おっさん、なんの動物が好き?」
「……は? 何を言ってんだ。俺の話を聞いてるのか?」
「こいつ暑苦しいし、単細胞っぽいから、イノシシでいいか」
堂島はそう言ってその男に近づき、体に触れた。その瞬間、なんと男はイノシシに変身したのだ。通りで見守っていた人々から悲鳴が上がった。
「フゴッ! フギーッ!」
イノシシの姿になった男は、何が起こったかわからずその場でキョロキョロしている。
(今のは! 堂島の能力か! 人に触ることで動物に変化させるのか!? なんて危険な能力もってやがる……)
イノシシにされた男は、混乱しているようだ。しかし喋ることができないためむなしく泣き続けている。
「ブギー! フゴフゴ……、プギーッ!」
「きゃはは! ウケるw 見てこの馬鹿面! 元々の姿にソックリじゃーん!」
体つきは完全にイノシシだが、顔にはさっきの主人の面影が少し残っている。ようやく先程の謎が解けた。担任の先生の犬になった姿も、この堂島の能力のしわざだったのだ。
「さ、お楽しみの時間ですわ」
横で黙って見ていた姫崎がイノシシになった主人に手を伸ばし頭を撫でた。
「ふふ、これであなたはワタクシのおもちゃですわ」
姫崎がそう言うと、イノシシはおとなしくなりキョロキョロするのをやめた。
(姫崎のやつ何をした? 何か能力を使ったのか?)
姫崎と堂島は馬車に乗り込み、また手に弓を構えた。
「さーさー、ハンティングさいかーい! お、目の前にでかい獲物はっけーん!」
ビュン!
堂島はそう言って躊躇なく、イノシシになった男に向けて矢を放った。放たれた矢はイノシシの側の地面に突き刺さる。その瞬間、イノシシは飛び上がって駆け出した。
「あんまり早く逃げちゃダメですわー。ワタクシを楽しませてくださいな」
イノシシは逃げる動作をするものの、離れすぎるとまた近づいて、という動作を繰り返していた。本気で逃げようとするものの、何かに縛られているようにまた馬車に近づいたりしていた。
そんなイノシシの姿を見て笑いながら弓を放つ二人。さっきの犬になった先生もそうだったのか。彼女たちはこうして獲物を作り上げてはハンティングと称して遊んでいるのかもしれない。
(こいつら何してんだよ……めちゃくちゃじゃねえか)
しばらくして、姫崎の撃った矢がイノシシに当たった。
「ピギー! プギー!」
痛みでバランスを崩し倒れこむイノシシに次々と矢が刺さる。
「やった! 仕留めたじゃーん! キャハハー!」
ビクビクと痙攣しているイノシシに、更に何本も矢を放ちながら二人は大笑いしていた。
「聖羅、早く仕留め過ぎちゃったねー。あのイノシシ、どうしよっかー」
「んー、クサそうですし、壊れたおもちゃは捨てておきましょう。それより、そろそろ帰りましょうか」
「そうだねー」
二人がそう言うと、馬車は少しスピードをあげて通りを駆けていく。おれは見失わないようになんとか追いかけた。
馬車の後をついていくと、とても大きな屋敷に入っていった。
(あいつら、なんでこんなお金持ちの屋敷に……どうなってんだ?)
中庭で馬車を降りる姫崎と堂島。二人のそばには一匹の猫が寝転んでいた。
(あの猫、なんか見たことあるなあ……そうだ!!)
(あの時の猫だ。間違いない! ってことはここはウォーラン公爵の屋敷か)
すると突然、姫崎が猫を蹴飛ばした。
ゲシッ!
「フギャッ」
猫は吹っ飛んで、グッタリと横たわる。
(姫崎! なんてことしやがる……)
「ワタクシ猫が大嫌いですの。武夫! この不快な生き物を捨ててきてくださる!?」
「わかりました。姫様」
そう言って、倒れている猫を抱えたのは、さっきまで馬車の御者をしていた男だった。さっきから思っていたが、こいつも何やら見覚えがある。
彼は猫を捨てるために門の外へと向かう。猫が気になったおれは追いかけた。
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