第20話 不死身の令嬢


「見つけたぞ! この悪魔め! 殺してやる!!」


 透明化してウォーラン公爵の屋敷に忍び込んだおれは、中庭でパーティをやっている姫崎の様子を側でうかがっていた。その時、中庭に怒号が響く。


「何事だ! 誰だ貴様は!」


 ウォーラン公爵がそう叫んだ。その先には槍を持った男が立っていた。どうやら塀を乗り越えて中庭に侵入したらしい。塀の側にいる男はゆっくりと歩きながらこちらに近づいてくる。


「その悪魔のような女が、俺の親友を殺した! イノシシのような姿に変え、おもちゃのようにして殺したんだ! 俺は決してそいつを許さない!」


 どうやらこの男が言っているのは、さっき姫崎と堂島が殺した武器屋の主人のことらしい。屋敷に忍び込んで復讐にきたようだ。事情を知らないウォーラン公爵は姫崎をかばうようにして、男に対して立ちはだかった。


「貴様! いったい何を!」


「どけ!! ウォーラン卿! お前には関係ない。俺が殺したいのは横の女だ!」


「セイラが!? 何をしたというのだ一体。どちらにしろこんな暴挙、許されんぞ!?」


「黙れ黙れ! 俺がどうなろうと、その女だけは殺してやる!」


 男はそう言うと槍を構えて、姫崎に向かって突撃してきた。


 おれは透明化したまま様子をうかがっていたが、別に姫崎がどうなろうと知ったこっちゃないので傍観することにした。


「キャア! 助けて、ウォーラン卿!」


「任せろ!」


 ドンッ!


 ウォーラン公爵は突撃してくる男の前に立ちはだかるも、あっさりと突き飛ばされた。


「死ねえぇ! 悪魔ぁ!」


 グサッ!


 男の突き出した槍が深々と姫崎の腹に刺さる。


「ふふ、ふははは! やった! やったぞ!? 親友のカタキだ!」


「気は済んだかしら? あなた言ったわよね。自分はどうなってもいいって」


「え、え……なぜ無事なんだ……」


 なんと、槍が突き刺さっているはずの姫崎は平気な顔で立っていた。それどころか体からは血も出ていない。


(なんだ? 姫崎はなんで無事なんだ。どういうことだ?) 


「ワタクシにはそのような暴力は効きませんわ」


 姫崎が男に手をかざすと、男の目は一瞬で虚ろになった。


「ほわぁ……」


「満足したかしら? それじゃあ、ワタクシにしたことを、自分の大切な人にもどうぞしてきなさい。きっと喜ばれるはずですから」


 姫崎は優しい口調で恐ろしいことを言い放った。すると男は姫崎の体に刺していた槍を引き抜き、フラフラと立ち去っていく。誰も彼に近寄ろうとはしなかった。


 槍を引き抜かれた姫崎の体からは、やはり出血のあとは見られなかった。


(あいつ、不死身か? そういう能力なのか?)


 だが、姫崎があの男に何か言って行動を操ったのは間違いない。能力が2つあるということなのだろうか。


「聖羅は優しいねえ。あんなゴミクズ、殺しちゃえばよかったのに。あたしが動物に変えてもよかったんだけどさ」


「あら、あの方が楽しくってよ。彼は今から自分の家族をきっと手にかけるでしょう。その光景を想像しながら食べる食事は最高ですわ」


「相変わらずぶっ飛んでんね〜、聖羅は。あたし以上だわ。悪魔ってのもあながち間違ってないよね、ウケるw」


「あら、ワタクシは悪魔と呼ばれることは嫌ではないわ。だってこんなキレイな悪魔がいるなんて素敵じゃない? ウォーラン卿もそう思いませんこと?」


「あ、ああ。僕もそう思うよ。君のような強くてキレイな女性は本当に悪魔のようだよ。ところでそのキズは大丈夫なのかい?」


 姫崎は近くに立っている山田を見ながら答えた。


「あら、なんともありませんわ。武夫が代わりに受けてくれましたので、うふふ」


 近くに立っている山田の服、腹の部分に血のシミがあった。


「ひ、姫様は僕が守りますので、うぅ」


「武夫のやつダイジョブ〜? 無理してんじゃーん? きゃはは」


「僕はだいじょうぶです! つ、強いので!」


「さすがね。武夫。今度からもワタクシを守ってくださいね」


「はい、わかりました!」


(山田のやつ、何してんだ? 姫崎のダメージを代わりに受けたのか? そういう能力なのか?)


「武夫、今度あたしらに近づいてきたバカがいたら、立ってるだけじゃなくてぶっ殺しちゃってよ! あんたほんっとにトロいんだから!」


「え、ええぇ、うん、わかったよ。堂島」


「本当にわかったの? いい? ぶっ殺すのよ! いくら聖羅のキズを肩代わりできるからって実際に聖羅の体に槍が刺さっているところなんて見たくないわよ」


悠乃ゆの、その辺にしてあげて。武夫も頑張ってくれているのだから。ね、武夫」


「ふ、ふごぉ! がんばりまっすぅ!」


 山田は嬉しそうに背筋を伸ばした。腹をみるともう血は止まっているようだ。


(姫崎のキズを肩代わりしたらしいが、もうキズが治ったのか? そんなに浅いキズには見えなかったが……)


「では、パーティはこの辺でお開きにしよう。みんなありがとう!」


 ウォーラン公爵が締めくくりの挨拶をしてこの場はお開きとなった。


 おれはスキを見て山田に話しかけるために、屋敷の中へとついていった。




 そして、山田が一人になったところで、おれは透明化を解いて姿を現した。


「よぉ、山田」


「え、ええ! 影山! なんで屋敷に!?」






──────────────────────


あとがき


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次回、山田の目的、姫崎の能力とは……

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