第21話 山田武夫の秘密
「ちょっと、気になることがあってさ。山田、ちょっとお前と話がしたい」
「マズいよお、部外者が勝手に入っちゃ……、僕は姫様の護衛を任せられてるんだから立場的には君を追い出さないといけないんだよ?」
「お前はそんなことはしない。優しいやつだ。そうだろ?」
「もう、まいったなあ。それで、何の用?」
「いや、ほら、この世界でクラスメイトたちが何してるのか気になってさ。山田はこの屋敷でいったい何をしてるんだ?」
「な〜んだ。だから今言ったでしょ? 姫様、あ、姫崎さんの護衛をしてるんだって」
なぜ、姫崎にそこまで入れ込むのかわからない。さっき山田が何か能力を使ってまで彼女を守ったのも間違いなさそうだ。3人の能力がそれぞれなんとなくわかったが、いまいち関係性が見えてこない。どうして素直で優しい性格の山田が、あんなイカれた二人といっしょにいるのか。何か弱みを握られているのだろうか。
「なんで、姫崎? 仲良かったっけ?」
「仲はまあ、
山田は、頬を赤くしてモジモジと話している。姫崎に気があるのかもしれない。
「お前、姫崎のこと好きなの?」
「え! ええええぇぇ!! ……なんでわかるの!?」
「やっぱり……そりゃわかるよ」
「へへ、でもね、たぶん両思いなんだ」
「……は? 姫崎とお前が?」
(マズい。否定するような失礼な言い方だったか?)
「そうそう、だってさ、ワタクシの側を離れないでほしいって言われるんだよ?」
武夫はおれの嫌味っぽいセリフもまったく読み取ってなかった。まさに我が道を行く、の精神だ。
「ふーん、側にいてくれって言われるのか。そうかぁ」
まあおそらく姫崎が山田を好きなんてことはないだろう。クラスの男子からも人気だった姫崎のことだ。山田が自分に気があることを見抜いて体よく利用しているだけに違いない。恐ろしい女だ。
「お前頼りにされてるんだな、防御系の能力なのか?」
「え、能力のことは人に喋らないほうがいいって言われてる。だから言えないよ」
「そうか。それはまあそうだな」
おれも能力のことを喋りたくはないので、これ以上は詮索しないことにした。
「それより、よく屋敷に入ってこれたねぇ。影山」
「まあ、たまたまだな。なぁ。そういえば犬になった先生はどこ行った?」
「あー、そういえばいないね。外で見失ってから戻ってきてないかな」
「ふーん、先生はどういう経緯で犬になったんだ?」
「なんか、
犬に変えた? なるほど、さっきの堂島の能力か。先生も被害者だったってわけだ。おそらく堂島は能力を試したくて、先生に使ったんだろう。
「でもなんでか、完全に犬にはなりきれなくて、顔だけ人間っぽくなっちゃってさ。喋れたし、おもしろいよね」
「お前ら、ふざけすぎだろ……」
「でも、体が犬に変わった時にケガが治ったみたいで、先生案外感謝してたよ」
ケガが治っただって? なるほど、別の生物に変身することによって体の異常もリセットされるということかもしれない。
「先生も大変だったんだな。どこ行っちゃったんだろうな」
「さあねぇ、まあ興味ないし。姫様が遊び相手として飼ってただけだからね」
「興味ないってお前、姫崎のことしか考えてないのかよ」
「僕は姫様の専属護衛だから、ね!」
「そ、そうか……」
(こいつ、姫崎に入れ込みすぎ、まさか姫崎って……)
姫崎の能力はおそらく他人を操る能力かもしれない。姫崎は山田に自分だけの護衛をさせている。その山田は防御、防衛タイプの能力。護衛をさせるにはうってつけってわけだ。
(まずい、さっきの復讐にきた男性。家族を殺してこいと姫崎に言われていたが……あれが能力で操られてるんだとしたら……)
「山田、おれもう行くわ。じゃ! おれが来たことは秘密にしてくれると助かる」
「いやいや、無理だよぉ。姫様にちゃんと報告するからね」
(ち、そうだろうな。こいつ、姫崎にいいように使われてやがる……)
おれは逃げるようにして屋敷を後にした。しかし山田はまるで護衛の意味をなしてないように思える。彼がおっとりしたやつで本当によかった。
そして、さっきの男を探して通りを走っていると悲鳴が聞こえてきた。さっきの、姫崎たちが殺した武器屋の主人のいた通りだった。
「なんだ、こいつ突然! イカれたのか!?」
遠くからさっきの男が槍を振り回しているのが見えた。
「あなた! 正気に戻ってぇ! おねがい!」
そんな言葉が通りから聞こえてきた。その直後暴れている男を止めるために、他の人から矢が放たれて、矢が胸に刺さった男は倒れた。
(くそ、遅かったか)
おれが到着したのと、男が絶命するのは同時だった。
「ううぅ、主人が急に私たちを殺そうとして……ううぅ」
奥さんだろうか。男にすがりついて声を上げていた。
(なんてこった。姫崎の能力はここまでさせるのかよ……あいつとんでもねえヤツだ)
おれはその場に集まった人々に詳しく話を聞いた。それでようやく事情がわかってきた。
姫崎と堂島、あの二人は
屋敷で働いている公爵家に代々伝わる人間たちは、おそらく姫崎の能力で従わされている。ウォーラン公爵もそうだったように。
おれは、姫崎と堂島をどうにかしたいと思い、ターニャの元へ帰り彼女に相談した。
「わかった。ボクも涼介に協力するよ。何かできることがあったら言ってくれると嬉しいな」
「ありがとう。だが屋敷の中に入るのはおれだけにする。危険すぎるからターニャは外からサポートしてくれると助かる」
おれはこの日、姫崎と堂島を止める決心をした。
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