第22話 高貴なる令嬢① 姫崎視点
「やはり、異世界にもワタクシほどの美人はいませんわねえ。はぁ……ワタクシって罪な女ですわ」
ワタクシこと、姫崎聖羅は生まれ持っての絶世の美人。クラス、いえ学年、いえ学校全体でもワタクシの美貌に叶う女子はいませんでしたわ。
そして、それは異世界に来ても同じことでした。ワタクシの美貌に惚れたウォーラン公爵にすぐさま求婚され屋敷に迎え入れられましたの。
ある日、ワタクシたちが退屈していたところに、ちょうどゴブリンの行商人が宝石を売りに来たので屋敷に迎え入れたのです。さっそく、私と
「ねえ、悠乃! 見て、このネックレス、おっきなエメラルドがついてますわ。キレイ。ワタクシに似合うかしら?」
「えぇえぇ、とっても似合うと思うわ。聖羅ったら本当に宝石が好きよねぇ」
「お嬢様方にはどれもお似合いですヨ? ささ、どれでも好きに見てください。私たちゴブリン族が命がけで採掘した珠玉の宝石ばかりですかラ!」
「悠乃もほら、好きなの選んだらどう? どうせウォーラン卿が全部買ってくれますから」
「うわぁ、出た。聖羅って本当に悪いよねえ。この家の財産食いつぶす気じゃん? 能力で操ってるんでしょ? きゃはは」
「ふふ、ワタクシの能力、
「ほんっと、怖いよねその能力。別に男だけじゃなくて女でも、聖羅のことが気に入ってれば操れるんだもんね。あたしは聖羅の性格知ってるからかかんないけどさー」
「ふふ、ワタクシの能力なんてそれほどでも。悠乃の能力には負けますわ。触れただけで相手を動物に変えてしまうんですもの」
「はは、まあねぇ。でも一応これも精神力すり減らすんだからね。けっこうキツイのよ」
ワタクシと悠乃は小さい頃からの幼馴染で、ずっといっしょでした。ですからこの世界でも力を合わせて幸せになりますわ。バカな男たちを利用するだけして、なんでも好きなものを手に入れてみせますわ。
「選ぶのも面倒なので、この宝石全部いただきますわ」
「へ、へい!? まいどあり。お代は600万ゴールドになりますが……」
「そうですか。武夫ー! ウォーラン卿を呼んで来てくださる? 買っていただかないと」
「姫様、あのー……ウォーラン卿は朝から出かけていていませんが……」
「え、そうですの? どうして早く言わないの、武夫」
「ご、ごめんなさい……」
「しょうがないわねえ。これだと宝石が買えませんわ」
「別に、勝手に金取ってきて使えばいいんじゃん?」
悠乃はたまに乱暴な物言いをするので、ワタクシも困ります。
「悠乃、ワタクシ、ドロボウのような真似はしたくありませんわ。あくまで男性に買ってもらわないと」
「はいはい、聖羅はそういう性格よね。じゃあどうする? 宝石は諦める?」
「あのー、お金払ってもらえないようなら、私はもう行きますので……」
ゴブリンの行商人が、あまりにも失礼な言い方をするのでワタクシはカチンときましたわ。
「あら、失礼ね。はぁ……しかし、ゴブリンってどうしてこうも醜いんでしょう? あなた、動物のようなかわいい姿になりたくはない?」
「はぁ? お嬢様、何をおっしゃってるんで?」
「悠乃? ヨークシャーテリアなんかどうかしら?」
「はいはい、わかったわよ。ヨークシャーテリアね」
ワタクシは、悠乃に能力を使ってゴブリンの行商人を犬に変えるようにお願いしました。行商人自体がいなくなれば、ここにある宝石は全てワタクシのものなんですから。
ビュン! ビュン!
「ねー、聖羅。これって結局ドロボウしてることになってない?」
「そうですか? まあ固いことは言わずに、今はあの的に当てることだけ考えましょう」
ワタクシたちは、ヨークシャーテリアに変えたゴブリンを庭に放し、どちらが先に矢を当てるかの競争を行っていました。
「キャンキャン! キャン!」
「あの犬、見かけによらず俊敏ね」
「悠乃、先に当てたほうが一番大きな宝石をもらえるということでいいかしら?」
「へいへい、どっちでもー、てかどうでもー」
ビュン! ビュン! ビュン!
「ピギャーッ!」
ゴブリン犬の断末魔が響き、あっけなくゲームは幕を閉じました。もちろん勝ったのはワタクシですわ。狙った獲物は逃しませんもの。
「見て見て、悠乃!? このおっきなエメラルド! 素敵ですわ〜」
「ほんとね」
「武夫、残りの宝石屋敷に運んでおいてくださる?」
「は、はーい。姫様」
武夫に宝石を運ばせて、ワタクシと悠乃は中庭でお茶をすることにしました。
すると門の方から一体のゴブリンが走ってくるのが見えました。
「聖羅、なんかきたよ?」
「今日はゴブリンをよく見る日ですね。はあ……見た目が醜いから嫌いですわ」
さっきのゴブリンよりも一回り小さなそのゴブリンは、何かを必死に探しているようでした。
「ピグッ! ウキー! プギ!」
どうやら人語を話せないようです。口から唾を撒き散らしながら何かを必死で訴えかけてくるその態度は、とても見てられるものではありませんでした。
「気持ち悪いですわ。悠乃、相手をしてあげて」
「えー、なんであたしー?」
「ピギ! ピギ!」
小さなゴブリンは、悠乃に近寄りながら何かを強く訴えています。
「うわ、きったねー! ドレスにツバとんだわ。最悪じゃーん……てめえ!」
逆上した悠乃は、ゴブリンに向かって弓を構えます。
「こいつ、殺そ」
「あら、いいですね。また狩りゲームですね。ワタクシも参加しますわ」
こうしてワタクシたちの午後のひとときは過ぎていきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます