第45話 細井の暗躍 細井視点②


 王宮にて。


「さ、西園寺くん。すまない……増山のやつ、失敗しやがった。あれほど油断するなと言ったのに……あんなヤツを信じた僕がバカだった。この失敗は必ず取り返すよ」


 僕は窓際にいる西園寺くんに向かって、必死に弁解をしていた。


「口数が多いな。細井くん」


 彼はゆっくりとこちらを振り返る。そして、その目を僕に向ける。全てを見透かすような恐ろしい目。


「ご、ごめん」


 僕は思わず目をそらしながら謝る。ついそうしてしまうのだ。そうしなければいけないような、そんな不安に駆られてしまう。


「失敗を、取り返す……か。取り返す物は失敗だけでなく、他にもあるんじゃないか?」


「えっ?」


 僕はイヤな予感がする。影山たちに僕の生成した魔石を取られてしまったことは言ってないのに、西園寺くんが知っているはずないのに……。


「細井くん、まさかバレてないとでも? 俺は全てお見通しだよ。その上で君からの報告があると期待していたんだが、まさか隠し通そうとしていたのか?」


「ご、ごごご、ごめん。そ、そんなつもりじゃ……」


 僕は彼の目を見つめていた。見続けることしかできなかった。それくらいに彼の眼力は凄まじかった。そらすことなど許されないほどに。


「細井くん」


「は、はい」


「俺は、失敗したことに怒ってるんじゃない。失敗を低く見積もって隠そうとしたことに怒ってるんだよ」


「ご、ごめん……」


「君の魔石の強力さは俺も評価している。だからこそ簡単に奪われてしまったという事態を危惧しているんだ」


「う、うぅ」


 僕はぐうの音も出ずに黙って聞くことしかできなかった。


「そうだ。いいことを思いついた。影山の大切な物を奪おう」


「えっ! た、大切な物って?」


「ふふふ、わかるだろ?」


 恐ろしく、感情のこもってない、それでいて非情なまでのトーンで彼は僕に問いかける。わかるはずがない。彼の考えてることなんて。わかってたまるか。


「なんだい、今度は僕に何をしろって言うんだい?」


「ヤツがいつもいっしょにいる娘をここに連れてくるんだ」


「あ、あの獣人族の女を……」


「そうだ。あの女は影山のアキレスだ。細井くん、これは重要な任務だ。君にしか頼めないんだよ?」


「わ、わかった! やるよ! 必ず成功させる」


「期待しているよ」


「任せてくれ! 西園寺くん!」


「ふふ、影山、お前の大切な物を奪った時、お前はどんな表情を見せてくれるんだろうな。楽しみだよ」


 西園寺くんは窓の方に向き直り、そんなことをブツブツとつぶやいていた。




 僕は、その日の晩のうちに城の兵士たちを数人連れて獣人地区へと向かった。城の兵士たちは、そのほとんどが西園寺くんの手によって操れるようになっている。これはクラスメイトである姫崎ひめさき星羅せいらの誘惑能力だ。なぜ彼が姫崎の能力を使えるのか、それは彼の資質によるものが大きかった。




 西園寺さいおんじ典孝のりたか、父親は国会議員、母親は財閥の娘という家庭に生まれたまさに超エリートだった。勉強はもちろん、運動神経にもすぐれ、親が超金持ちという親ガチャSSRを引いたまさに完璧な生徒だ。


 スポーツ、文芸、格闘技と、何をやらせても超一流の才能を発揮する彼だったが、どの部活にも属していなかった。人の作った組織に入ること、人の言うことを聞くことを嫌う彼は部活動というものに興味を持てなかったのだ。


 そんな彼が異世界に来て得た能力は強力だった。それは他の人の能力をものにできるというものだ。まさに生まれ持っての天賦の才を持ち合わせた彼らしい能力。


 才能の資質ギフテッド、それが彼の能力。他人の能力を見たり、詳細を聞いたりするだけで使えるようになるというとんでもない能力だ。


 だが僕の魔石生成など、一部の能力はコピーできないようだ。だからこそ僕の能力は彼に重宝されている。それなのに奪われてしまうという致命的なミスを犯してしまった。


「今度は絶対に失敗できない。西園寺くんの信頼を取り戻さないと……!」


 僕は自らの手で生成した魔石を握りしめ、自分を奮い立たせた。


 そして夜の町へ出た。

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