第46話 ターニャの失踪
明け方、宿で寝ていたところ、ブレッドさんが慌てて呼びにきた。
「涼介くん! 大変だ! ターニャがさらわれた!」
ターニャ失踪の一方を聞いたおれが獣人地区に行った時は、辺りは騒然となっていた。
事情を聞いたところ、どうやら組織的な犯行のようだ。真夜中に突然、複数の輩が家に押し入りターニャを連れ去ったらしい。家の人たちは危害を加えられたわけではないが、屈強な輩によって抑えつけられていたとのこと。
「なんて不甲斐ない、私は娘を……ターニャを守ることができなかった。涼介くん、奴ら何者なんだろう、以前ここを襲撃した郷田というヤツらとなにか関係が……?」
「事情はわかりました。郷田たちとは別ですが、今回の件もおれのクラスメイトがやったんだと思います」
心当たりはある。細井、間違いなくあいつだろう。先日の襲撃も細井の息がかかっていた。理由はわかんねえ。おれのところに直接こればいいものを。
しばらく、集まってきた人たちに話を聞いてみたが革新的な情報は得られなかった。とりあえず、町へ行こうとして一人になった時、見計らったようにナイトが側にやってきた。
「リョウスケ、僕も連れてってよ」
そう言いながらすり寄ってくるナイトの体毛を撫でながら、おれは言った。
「ナイト、力を貸してくれるか」
「もちろんさ。僕も外から一部始終を見ていたよ。奴ら、ターニャを馬車に入れて逃げていったよ。けっこう特徴的な黒馬だったから、今なら匂いを辿れるかも」
「そうか。馬車の匂いか! よく言ってくれた。いっしょに探しに行こう!」
「やっぱり匂いがけっこう残ってる!」
おれはナイトに乗り、町を駆け抜けていた。ナイトはどんどん町の中心に向かっている。なんとも意外だった。
賊がさらったのなら、町を出て森か荒野に向かうものと思っていたが、まさか町の中心に向かうなんて。
「ついた。ここで匂いが途切れてる。リョウスケ、ここって……」
ナイトが案内してくれた場所。そこは町の中心にそびえ立つ城、そこへ向かう跳ね橋の前だった。
今は橋が上がっているので城へ行けない。だがここで匂いが途切れているということはそういうことだろう。
「もう少し日が昇ったら橋が降りて渡れるようになる。だが、真正面から入っても追い出されるだけだろうな」
まさか、細井が城の関係者だとは思わなかった。なぜ城の者たちが秘密裏にターニャを攫うのか。全くもってわからない。
「ナイト、堀の向こう側へ連れてってくれないか。ターニャは城にいる」
「城って、ほんとに? どうして城の人がターニャを連れていくの? ターニャは何も悪いことしてないよね」
「ああ、もちろんさ。それは心配ない。だがここで引き返すわけにはいかない」
その時、後ろに人の気配がした。
「影山くん、みーっけ! 何してんの? こんなところで」
振り返ると、そこにはクラスメイトの
「月見里! ジュリアンさん! どうしてここに!」
「町中で影山くんを見かけたから、慌てて追いかけてきたんだよ〜ん。あ、別に好きとかそういうんじゃないからね!」
「カゲヤマ、なにかあったのか? すごく険しい表情をしているぞ」
二人は思い思いにおれのことを心配してくれたようだ。
「そっか、二人はいっしょだったのか?」
「今ジュリ姉といっしょにパーティ組んでるんだよ、意外でしょ? えへへ」
「そうなんだ、カゲヤマにはパーティを断られてしまったからな。彼女を誘ってみたんだ。ヤマナシの後方支援はとても頼りになっているぞ」
月見里は黒魔法を操る能力の持ち主だ。その目で見たことあるが、かなり高レベルな後方支援スキルを持っている。
ジュリアンは屈強な男に勝るとも劣らない剛腕剣士だ。その太刀筋は素人目にはまったくわからないほどだった。
彼女たちがいっしょに組んでいることも驚きだったが、今おれを追いかけてくれたことがもっと驚きだった。
「実は、問題が起こってな。二人なら話してもいいか……」
「どうした、カゲヤマ、水臭いぞ。何があったか話してくれ」とジュリアン。
「そうそ、絶対なにかあったんでしょ。顔がぴえんって言ってるよ?」と月見里。
おれは二人に事のいきさつを話した。
「絶対ヤバいじゃんそれ、一人でどうにかしよーとしてたの?」
月見里は呆れながらそう言った。
「そういうことなら私たちも力になれる。もっと私たちは頼ってくれていいんだぞ、カゲヤマ」
二人の言葉は心強かった。そんな二人に今回は遠慮なく頼ることにした。
「しかし、カゲヤマ、どうやって城に入るんだ? 跳ね橋が降りてきたところで正面から行っても追い返されるだけだろうな」
ジュリアンの考えはもっともだ。しかしおれには切り札がある。それも2つだ。
「透明になります」
「透明になれるのって影山くんだけでしょ? ミミたちはどうするの?」
「全員で透明になるんだ。実は、おれの透明化能力は、おれの体に触れている者たちもいっしょに透明にできるようになったんだ」
「そ、そうなの!? すごっ!」
「すごいじゃないか、カゲヤマ」
「え、そうだったの? それは僕も知らなかったよ」
最後にしゃべったのはもう一つの切り札であるナイトだ。そして月見里とジュリアンはナイトのことを知らないため目を丸くしていた。
「こ、この犬、今喋ったのか……」と恐る恐る声をかけるジュリアン。
「犬じゃない。僕は猫、どうして間違えるかな?」
「ひっ!? やっぱり喋った!」
ジュリアンの怖がる表情は特に印象的だった。月見里は意外とすんなり受け入れている。
「このねこちゃん、かわいいねー、名前なんていうの?」
「僕はナイト。やれやれ、高貴なる神獣族なんだから、気安く触らないでほしいなあ」
「やだっ! このねこちゃんモッフモフじゃん! 一生触れるう〜!」
とりあえず、おれたちは3人+1匹で城への侵入作戦を決行することにした。
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