第27話 自称お嬢様の腐れ縁 堂島視点


 あたしこと、堂島どうじま悠乃ゆのは、ワガママお嬢様の姫崎ひめさき星羅せいらの腐れ縁だ。しかし、あの自称お嬢様の自分大好きっぷりには困ったものだ。


 自分が贅沢したいあまり、能力を使ってウォーラン公爵を手籠めにして、公爵家であるこの屋敷を乗っ取ったのだ。まあ、おかげであたしもいい生活をさせてもらってるんだけどね。




 ふと、夜中に目が覚めたあたしはトイレに向かった。異世界というのは文明も元いた世界ほど発達してないので夜は基本的に真っ暗だ。ランプの明かりが薄暗く灯る廊下をあたしは歩いていた。


「あー、夜中のトイレはいつまで経っても慣れないなあ。ホント怖いわ」


 かと言って聖羅に付いてきてもらうのもしゃくだし、武夫は男だしな。だいたい武夫は聖羅にゾッコンだから、あたしの言うことにはあんまり反応しない。ノロマだし、マジうざいわ。


「よし、この角を曲がればトイレがある。もうすぐだ」


 そして、角を曲がった瞬間目の前に何かがいた。


「きゃっ! ええぇ! ビックリしたー! なにっ!?」


 なんと、そこにはゴブリンがいたのだ。昼間に屋敷の周りを取り囲んでいた奴だ。聖羅の能力によって操られ屋敷の見張り役か、もしくは待機命令が出ていたはずだ。


「ちょっと、あんたさ! ビックリさせないでよ! 何してんのこんなところで!」


 あたしは腹が立ったので思いっきりゴブリンの足にケリを入れた。


 ゲシッ!


 あたしより頭一つ分背の低いゴブリンの体は想像通りの柔らかさだった。思いっきりスネに入ったから相当痛いはずだ。


「ピギ……プギ……」


 ゴブリンは痛みを堪えているのか、表情を歪ませる。何かいいたげな態度だが、聖羅の誘惑テンプテーション支配コントロールによって行動を制限されているため、文句も言えないだろう。いい気味だ。


「これに懲りたら、さっさと持ち場に戻ることね」


 あたしはゴブリンの小さな体をまじまじと見回した。


「しっかし、ほんとにひどい体型ね。ずんぐりむっくりで。あんたを見てると逆にあたしがスタイル抜群に見えちゃうわ。あんたって何かいいところあるの? クソみたいな種族よねぇ」


 あたしはボロクソに言いながら、右手でゴブリンの頭を小突いてやった。その時だった──。



 シュパッ! ガッ! ゴトン……。



「えっ、ゴトンって今何か落ちたわよ」


 あたしは床に落ちたを拾おうとして右手の違和感に気づいた。


「あれ、手が……あれ、手が? 落ちてる……えっ?」


 床に落ちているはあたしの右手首から先の部分だったのだ。


 ブシュッ!


 という下品な音を出しながら、あたしの右手があった部分から見たこともない量の血が噴き出した。


 そして、激痛が走った。


「な!!!! いっつうあああああぁぁ!」


 あまりの激痛に視界が揺らぐ、腰がくだけて床にへたり込んでしまう。


「いいいい、ひいいいいたあああああぁぁい!」


 あたしは大きな叫び声を上げた。すると周囲がランプで照らされる。


「堂島、お前はもう終わりだよ。こいつらは操られてなんかいない」


 聞き覚えのあるようなないような……誰だこの声。


 振り向くとそこには影山がいた。何体かのゴブリンたちもいっしょだ。


 あたしは、尋常じゃない痛みで狂いそうになりながら右手を腹に抑えつけて声を絞りだした。


「あんた……なに、なんで……!? た、助けて! 手が、手が!」


「バカか。誰が助けるかよ。まだわかんねえか。おれたちはお前たちに制裁を与えにきたんだよ」


(は? 制裁……なにそれ……)


 どういうことなのか聞き返そうとしたが、痛みでそれどころじゃない。声が出なかった。とにかくヤバい。こいつらあたしをどうにかする気だ。逃げないとヤバい。


 とにかく立ち上がって走ろう。邪魔な奴らは触ってハエにでも変えてしまえばいい。あたしはそう思い立ち上がろうと奮起した。


 しかし、胴体に強い衝撃を受けると共に、床に叩きつけられた。


 なんとゴブリンたちが、サスマタのような棒で抑えつけてくるのだ。


「ぐぎいいぃ! なによこれ! 影山、こいつらなんなの。なんでこんなことするのよ!」


「お前には触らねえよ。触れると動物に変えられるんだろ?」


「ぐっ! なんでそれを……まさか武夫のやつ」


「違う違う。武夫は裏切ってねえよ。この目で見てただけだ。お前や姫崎が能力を使うところをな」


 痛みと怒りで、頭が爆発しそうだった。とにかくこの状況をなんとかしたいが、棒で抑えつけられて立ち上がることすら出来ない。このままじゃ死んじまう。


「影山! わかったから! もう!! いいから助けて! この手ヤバいって、血が……血が……死んじゃうって……」


「堂島、お前たちはそうやって命乞いした人たちを、動物に変え、あざ笑い、殺したんだろう? その報いは受けてもらう」


「……ひいぃ、ゆるしてええぇ! お願いぃ! お願いだからぁ!」


「……まあそうだな。まだ死なれちゃ困る。これで止血しろ」


 影山はそういって大きな布切れを丸めて放り投げてきた。あたしはそれを拾って右手の失った部分にグルグルと巻いた。意識が飛びそうな痛みを必死に堪えながら。


(殺す殺す殺す殺す殺す! ぜってー殺す、こいつら……全員ウジ虫に変えて踏み潰す! いやそんなもんじゃ気が収まらねぇ! 動物に変える前に四肢切断して拷問してやる! 聖羅さえいれば行動を制限したうえで──)


 あれっ?


「なあ、影山! なんでそのゴブリンはあたしに攻撃できたんだ!? 聖羅の支配下にあったはずなのに! なんでだ!?」


 影山はあたしを見下ろしながら、不敵な笑みを浮かべていた。

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