第26話 高貴なる令嬢③ 姫崎視点
「はっ? 影山がいない!? どういうこと?」
紅茶を飲みながらくつろいでいると、急に
「何やってんの? 見張りはメイドたちに交代で任せてたでしょ? そいつらはちゃんと見張ってたわけ?」
「どうかしましたの?」
「聖羅、それがさー。閉じ込めてた影山がいないっていうのよ」
「は、はぁ、ちょっと待ってください、武夫。ワタクシがいいと言うまで絶対に開けるなと言いましたよね。それなのに物置を開けて確認しましたの?」
「姫様! いえ、中は見てません。でもいやに静かだから、逃げたんじゃないかと思って……一応報告しました」
山田武夫、こいつは本当に頭が悪いのです。ノロマな上にこうも頭が悪いときたら、さすがのワタクシもイライラを隠せませんわ。
「武夫、中を見てないのに何を焦っているのですか!?」
「だって姫様、物音一つしてないんですよ?」
「それは、とうとう衰弱して動けないんじゃないんかしら? ここで中を見てしまっては彼の思うツボですよ。扉を開けたスキに襲いかかってくるかもしれませんし」
ワタクシは武夫にイライラしつつも冷静に状況判断を行います。
「そうかなぁ。なんか気配を感じないっていうか、狭い物置だから。昨日様子を見た時は何かしら物音が聞こえてたんですけど……」
「わかったわ。じゃあ見に行きましょう」
悠乃と武夫と三人で物置の前まで行くと、メイドが一人立番をしていました。
「中はどう? 何か音は聞こえる?」
ワタクシがメイドにそう尋ねると、彼女は無言で首を振ります。
扉に近づいて耳を澄ましてみますが、確かに中から何も聞こえません。何の気配もないように感じます。
「聖羅? どう?」
「確かにいないかもしれないわ。悠乃。開けてみてくれない?」
「えっ、あたしが? ちょっと待って。開けた瞬間何か攻撃されたらヤバいじゃん! 聖羅が開けてよ。武夫が身代わりになってくれるんだしさ」
武夫の能力、
なので武夫にはいつもワタクシの側を離れないでほしいと言っているのです。彼は少し違う受け止め方をしているようですが。おそらくワタクシが彼に好意を持っていると勘違いしているのでしょう。
「しょうがないわ。じゃあワタクシが開けますわ」
扉を開けて、確認すると中はもぬけの殻でした。部屋の中は人の匂いもなく、人がいた気配もあまり残ってません。
「いないですわ。かなり前に逃げている気がしますわ」
いったいいつからいないのか。それが問題ですわ。影山を閉じ込めて今日で4日目、初日はまだ元気があり物音がしてたのをメイドが聞いていたようです。なので、昨日か一昨日のうちに逃げ出したことになりますわ。
「誰かが逃したんじゃ……」
悠乃の言葉にメイドと武夫はびくっと動きます。二人とも自分が疑われるんじゃないかと心配しているのでしょう。
「そんなことはありませんわ。ワタクシは彼らを信じていますから」
そう言ってメイドと武夫の方を見ると、彼は安堵の表情を浮かべています。ワタクシが信じているのは自分の能力なんですけどね。武夫は元々そうですが、この屋敷に仕えるメイドや召使いたちにもワタクシの能力は少なからずかけてあるので、裏切るということは考えられませんわ。
その時、ウォーラン公爵がワタクシたちのところへ飛んできました。
「た、大変だ! 屋敷をゴブリンたちが囲んでいる!」
慌てて、屋敷の外へ出て見ると、屋敷の門の前にゴブリンがずらりと並んでいます。その数は50体ほど。
「なにあれ、気持ち悪っ!」
悠乃があからさまに怪訝な顔をします。ワタクシももちろん直視しがたいものがあります。ゴブリンたちは、何か大声で奇声を発しています。
「こいつら何? あたしたちに何かする気?」
「どうだろう。彼らの言葉はわからないが、何か怒っているようだ。私がいない間に何かあったのか?」
ウォーラン公爵は何か勘ぐるようにワタクシの方を見てきます。
「先日いらした行商人のゴブリンを殺して宝石を奪い取ったことへの報復でしょうか。彼らは仲間思いなのですねぇ」
ワタクシがそう答えると、ウォーラン公爵は顔を引きつらせます。
「セイラ。君は、そ、そんなことをしたのか?」
「あら、いけないことかしら? だってゴブリンったら気持ち悪かったんですもの。ワタクシや悠乃にツバを飛ばしましたし」
「そーそー。あのキモいゴブリン1匹やっただけでこんな大騒ぎになるなんてねー。で、どうする? 聖羅」
悠乃は、またワタクシに任せるつもりのようです。
「はぁ、しょうがないですわ。ワタクシが行きましょう。武夫、ついてきて」
ここで引くのはきっとゴブリンたちの思うツボです。対話に持ち込んで能力で操ることを選びました。とりあえず武夫が側にいればワタクシが死ぬことはありませんもの。
「門を開けるから一体ずつ入って来てくれるかしら? ワタクシの言葉わかるかしら?」
先頭にいたゴブリンがコクッと頷いて、持っていた槍を納めました。どうやら理解してくれたようです。
(頭の悪い、醜い種族ね。チョロいですわ)
門から入ってきたゴブリンに握手を求めて手を差し出すと、向こうも手を出してきます。そっと触れたゴブリンの手は思ったよりも暖かく、人間のような温もりがありました。そして、ワタクシは
「ピギ……」
その途端、ゴブリンは大人しくなり、屋敷の方へと歩いていきました。本当にチョロいですわ。
こうして総勢30体ほどのゴブリンたちを次々と支配下に置くことに成功しました。もしかしたら、まだ応援部隊がせめてくるかもしれません。彼らをしばらく見張りとして使い、もし残りのゴブリンたちが屋敷に攻めて来たら、同士討ちさせて利用してやろうと思いました。
「さあ、問題も解決したことですし、そろそろ夕食の準備はできてるかしら?」
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