第25話 高貴なる令嬢② 姫崎視点


「武夫、あんたやるじゃない! ノロマだと思ってたけど、キレッキレじゃーん!?」


「えへへ、そうかなぁ。そんなに褒められると嬉しいなあ。ねえ、姫様もそう思う?」


 武夫はとても嬉しそうな顔で、ワタクシこと姫崎聖羅に顔を向けてくる。


「えぇ、とても優秀な護衛ですわ。あなたがいるからワタクシも安心して暮らせるのですよ」


「えへへへぇ。そんなに言われると恥ずかしいなあ! 僕、庭の警備に行ってきまーす」


「あっ、こら! ワタクシの側を離れては──」


 ワタクシの言葉を聞く前に武夫は顔を真っ赤にして、駆け出していった。いざとなったら身代わりになってくれる護衛なのに側を離れては意味がありません。そんなこともわからないほど頭が回らないから、ワタクシたちにもいいように利用されるのでしょう。


 しかし、本当に単純な人です。利用するのがこんなにも簡単な人間がいることには驚きでした。


「武夫ってホント単純だよねー。聖羅としゃべるとき顔真っ赤にして緊張してさー。見てるこっちがなんかキツイのよ」


「まあまあ、それが武夫の良いところですわ。いざとなったら体を張ってワタクシを守ってくれますし」


「それがいいよねー。あたしたちの能力は鬼ヤバいけどリスクもあるしね」


「えぇ、ゴブリンの時もそうでしたけど直接触れないといけないのは少し怖いですわ。噛みつかれたりしそうですし、あのような醜い生き物に触るというのが耐えられませんもの」


「……聖羅ったら、言うよねぇ! でもあのゴブリンに聖羅の能力効かなかったんでしょ? だからあたしにやらせたんじゃん?」


「あら、気づいてらしたのね、悠乃ゆの。さすがですわ」


「わかるよ〜。あたしたち何年の付き合いだと思ってんのよ」


「ワタクシの能力が効かないなんて、ワタクシの魅力がわからないのも同然。そんな者はこの世にいてはいけませんわ。だから殺すのです。ふふふ」


「そういえばさ、影山のやつは何を企んでたんだろうね?」


「えぇ、怖いですわ。教室にいた時も喋ったこともないですのに、おそらくワタクシの美貌に惹かれて狙っているのだとしたら……」


「あはは! ないない。それはない! だってアイツは──」


 ワタクシの意見を真っ向から否定する悠乃を睨むと、彼女はそれに気づいて途中で言葉に詰まりました。


「ごめんごめん。そういうことじゃないよ。聖羅をカワイイと思わない男はいないよ。でもアイツって引きこもりだったじゃーん? だからたぶんそういうのとは無縁っていうかさ」


「あら、悠乃は影山のこと詳しいんですの?」


「詳しいってかさ、アイツがまだ学校にいた頃によく目が合ったかなあ。一回プリント運ぶのを手伝ってもらったことあってさ。その時アイツ妙に話しかけてきたと思ったら──」


 少し嫌味のつもりで言ったのですが、悠乃が意外とムキになって答えてきたことに驚きました。もしかすると悠乃は影山に気があるのでは、と思いましたがそれを言うとなんだか怒りそうだったので口をつぐみました。


「でも影山ったらさ、なんであたしたちに近づいてきたんだろうね。まさか一回プリント運んでくれたおかげであたしに惚れてるとか? でもアイツずっと学校来てなかったよね。たしか、郷田たちにイジられてさ。なんか土下座とかさせられてたっけ? あれはガチでひいた。やっぱり弱い男子は嫌だなあ、あたしは──」


 それから悠乃は堰を切ったように喋りだしました。ワタクシはほとんど聞いてませんでしたけど、たまには気の済むまで悠乃に喋らせてあげますわ。


 堂島悠乃、彼女はワタクシほどに容姿に魅力がありません。それは事実なのです。ワタクシといっしょにいるといつも比較され、惨めな思いをしてきたことでしょう。だからたまに話してくれる男子がいると、いつもその子のことを好きになってしまうのです。昔からそうでしたけど、まあ彼女は自分では認めたがらないので決して言いませんわ。めんどうですもの。




「そういえば、西園寺って何してるんだろうね?」


 お茶をしながらくつろいでいると、悠乃がイヤな名前を出してきました。ワタクシは彼のことは考えたくもなかったのですが、確かに動向は気になるところです。


「ねえねえ武夫、影山は他のヤツらのこと話したりしてなかった? 西園寺のこととか」


「さあねえ、特に他の人のことは話してないよ。影山は二人のことばかり聞いてきたから」


「はっはーん! いよいよアイツったらあたしたちのどっちかが好きなんだろうねえ、ったく! 女の敵だよ、あんなヤツは!」


 悠乃がまたいらぬ心配をしていますわ。影山が好きなのはどう考えてもワタクシでしょう。だってワタクシのほうが魅力的なんですもの。そんなことは言いませんけどね


「ねぇ、悠乃。影山を動物に変えるとしたら何がいいのかしらね。ハムスターにして飼ってみたらどう?」


 悠乃は一瞬だけイヤな顔をした。少し嫌味のつもりで言ったのが伝わったらしい。


「ハムスター、いいかもね。てか、またあたしにやらせるきだよね?」


「大丈夫ですわ。十分に衰弱してから近づけば何もされませんわ」


「しょうがないわねえ。まあ4、5日待てば動けなくなるでしょ。それまで何に変えるか考えとこーっと」

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