第24話 罠
「こっちこっち、入って入って」
山田と少し話がしたいというと、小さな物置に案内してくれた。
「ごめんね、狭いところで……僕が影山と話してるところを他の人にバレたらまずいからさ……」
「いや、こっちこそいきなり現れて悪かった」
「そうそう、いつもどうやって入って来てるの? よく見つからずにウロウロできるよね。もしかして透明人間?」
「ははっ、まさか」
一瞬能力を勘ぐられてドキッとしたが、なんとかごまかせただろうか。
「それで、何を話したいの?」
「山田、お前さ……姫崎と堂島がやってること、ひどいと思わないか?」
「え、ひどい? 何が? 姫様はいつも僕に優しくしてくれるよ。えへへっ」
「あのさ、あいつら人間やゴブリンを動物に変えて、矢を撃ったりしてるだろ? あれって人間のやることじゃないと思わないか?」
「……そうかなあ。でも姫様に失礼な態度を取ったからバツを受けてるんじゃないのかなあ」
どこまで本気で言っているのかわからず戸惑ったが、おそらくこれも姫崎の能力なのだろう。まともな思考ができないように操られるか、洗脳のようなことをされるのかもしれない。
「山田、今日の昼間、この屋敷にゴブリンが来たよな? 宝石を売りに来たろ?」
「うん、来たね」
「そいつをどうした?」
「えっ、うーん、どうだったかな……」
山田のあからさまに隠そうとする態度にウンザリした。
「やっぱり、姫崎たちがやったんだよな? 隠さなくていいぜ」
「うん、なんか姫様をとても怒らせたみたいでね。ついやっちゃったみたい」
「なんで殺さなくちゃいけないんだ? 姫崎は他人を操れる能力を持ってるはずだろう? ゴブリンも操って宝石を手に入れることだって出来たはずだ。違うか?」
「それは……まあ、そうだよねえ」
「いや、すまん。山田、お前を責めてるわけじゃない。おれはただ真相を知りたいんだ」
山田は、少し黙った後、おもむろに喋りだした。
「姫様の能力はね、誰にでも使えるわけじゃないんだ」
「どういうことだ?」
「姫様に魅力を感じない者にとっては、姫様の能力による支配は起こらないんだよ。だから種族の違うゴブリンには能力が効かなかったんじゃないかな」
「なるほど。だから実力行使に出たってわけだ」
おれはそう言いながら、なんだか物凄い違和感を覚えていた。
(なんだ? 山田の言っていることはなにかおかしい、なんだろう、わからない)
「なあ、山田。その後ゴブリンの子供が来たことも覚えてるか?」
「えっ、あーわからないな。その時は屋敷の中にいたと思う。確か、宝石を寝室に運んでたんだ」
どうやら本当のことを言っている気がする。山田はとっさにウソがつける器用なタイプではない。
「そのゴブリンの子供がどうかしたの?」
「……姫崎と堂島は、親を探しに来たゴブリンの子供に矢を放って追い払った。矢はその子の腕に刺さったよ。今は闇医者に診てもらってる」
「……」
山田は黙っていた。今の話を聞いて何を思っているのだろうか。
「なあ、山田。お前は本当に今の状況がいいと思ってるのか?」
「……僕は、僕は……」
その時、遠くで誰かの笑い声がした。誰かが廊下を歩いてこの部屋に向かってくるようだ。
「影山、とりあえずこの部屋にいてくれる?」
山田はそう言って、おれを残して部屋を出た。
ガチャリ!
「おい、なんだよ」
山田はドアを閉めて外から鍵をかけたようだ。
(まさか、山田のやつ、おれを閉じ込めたのか?)
ドアの外の話し声に聞き耳を立てると、どうやら姫崎たちが来たようだった。
「武夫ー! 影山のヤツは? しっかり閉じ込めた!?」
「うん、この中にいるよ」
「へー、よくやったね! あんたなかなかやるじゃん!? ね? 聖羅もそう思うでしょ?」
「武夫、ありがとう。影山が屋敷に侵入したことも教えてくれたし、とても助かるわ」
どうやら、山田にやられたようだ。先日屋敷に入ったことをしっかり姫崎たちに報告していたのだろう。そして、またおれが侵入した時はこの部屋に閉じ込めるように言われていたに違いない。
正直山田がそういうことに頭が回るタイプだとは思ってなかったので驚いた。けれども、おれも山田に能力のことやここに来てる目的を隠しているのでお互い様だった。
おれは急いで周りを見渡したが、部屋の中には脱出に使えそうな物は特に置いてない。そもそも窓もなく、扉が一つだけの空間からの脱出は困難だった。
「とりあえず、このまま何日か閉じ込めましょう。どんな能力を持ってるかわからない以上接触するのは危険だわ」
「聖羅の言う通りね、衰弱するまで待ちましょ! 見張りはメイドに交代でやらせてね」
外から姫崎と堂島のやり取りが聞こえた後、静かになった。
(どうしたもんか。誰も助けにくる宛はない)
一番にターニャの顔が浮かんだが、むしろ来られては困る。彼女を危険に晒すわけにはいかない。彼女の性格からしておれが帰らないと心配するあまり、早まって来ないことを願うばかりだった。
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