第10話 俺様の活躍④ 郷田視点


「おい! ケンタァ! 水がこぼれたのは俺様のせいだってのか?」


「いや、でも! ぼ、僕はちゃんと渡したよ? 郷田が欲しいって言ったんだろ!」


 その物言いに腹が立ち、俺様はケンタの胸ぐらを掴んだ。


「てめええぇ! 俺様のせいにする気か?」


「そんなことより、僕の水がぁ。僕も飲みたかったのに……」


「黙れケンタ! ぶっ殺されてえか!?」


 そこへマリエが割って入ってくる。


「もうやめてよ! 二人とも! 揉めてる場合じゃないよ! こんなんならやっぱり引き返したほうがよくない!?」


「うるせぇ! 女はすっこんでろ!」


「は!? 何その言い方!? 信じらんない! ちょっと冷静になってよ郷田!?」


 何もしてない女に言われて余計に腹がたった。


「うるせえなあマリエ! そうだ! てめえの水をよこせ!」


 マリエに近づいて水のビンに手を伸ばした。


「触んじゃねえ! これはあーしのだ!」


 パシッ!


 っとマリエに手を払い除けられた。


「……このアマ! 俺様に逆らうんじゃねえ!!」


土の弾サンドバレット!」


 ドガッ!


 マリエに掴みかかろうとしたその時、背中に強い衝撃が走った。


「ぐわっ!」


 そしてバランスを崩し、地面に倒れた。


「なんだ!?」


 振り向くと、ケンタがこちらを睨んで立っている。


「……あ? ケンタ? まさか俺様を攻撃したのか?」


 信じられないことだが、ケンタはまっすぐにガンを飛ばしていた。


「ご、ごめん、郷田。でも落ち着いてほしかったんだ……」


 落ち着けだと? 俺様をコケにしやがったケンタをぶん殴らないと気がすまなかった。


「てめぇ、ケンタ!」


 素早く立ち上がり、ケンタに向かって飛びかかる。


 ドガッ! バキッ!


「この野郎!」


「ぎゃあああぁぁ! やめて! 郷田あぁ! やめてくれー!」


「いやぁ! もうやめてよおおぉ!」


「……」


 ケンタとマリエの悲鳴が響き渡り、俺様は我に返った。


「あー、おい、ケンタ。すまなかった」


「ひ、ひでえよ郷田……僕たちトモダチだろ……」


 ケンタが腫れた顔を押さえながら言ってくる。目は涙ぐんでいた。


「そうよ。郷田! 信じらんない! ケンタは回復魔法使えるんだからさ! ケンタに何かあったらあーしたちだってヤバいんだよ?」


(くそ、何もしてねえくせに偉そうだなマリエのやつ……)


「だから、悪かったって……ケンタ、もう殴らねえから勘弁してくれや」


「わ、わかったよ、郷田。とにかく自分の傷を回復するよ。ヒール!」


 ケンタが回復するのを待っていた時、ダンジョンの奥にチラリと人影が見えた。それはありえない人影だった。


(なんだ? あれは確かこの前の女……)


 以前、町でぶつかったネズミ族の女を見た。ハゲ山のせいで逃してしまった女だった。


「あの女だ! ハゲ山といっしょに逃げたやつだ! なんでこんなところに!」


 俺様は猛ダッシュで女の影を追った。


「ちょっと郷田! どこ行くの!?」


 女の影を追いかけ、角を曲がると見失ってしまった。


「くそ、どこに行った! あの女め!」


 ズルッ! ズザザザー!


「うおっ!」


 突然足が滑り、体のバランスが崩れた。なんと落とし穴に落ちてしまった。


 ドシーン!


「いてて、くそ。やっちまった」


 穴はかなり深い。深さ10メートル以上もあり、壁は垂直なため登れそうになかった。


「おおおおーい! ケンター! マリエー! 助けてくれええぇ!」




 俺様が大声で叫んでいると、しばらくしてケンタとマリエが穴を覗き込んだ。


「郷田ー? あんた何してんのー!」

「郷田、大丈夫ー?」


 二人がのんきに声をかけてきたことに、苛立った。


「バカ! 落ちたんだよ。早く助けてくれ」


「助けるって言ってもどうするのー! ロープもなんにもないよー!」


 ケンタの他人事のような言動に対して、俺様は息巻いて言った。


「お前の魔法でなんとかしろよ!」


「そう言ったってどうしようもないよ」


「風だよ! 風魔法で俺様の体を浮かせろ!」


「そんな……無理だよ。僕の魔法はどれも弱いし郷田の体を持ち上げるなんて」


「このクソがっ! 役立たずがよ!」


「そんなこと言わなくたって……どうしたらいい?」


「うぅるせぇ! てめえで考えろ! いいから早く助けろっつてんだよ!」


「……。」

「……。」


 ケンタとマリエはしばらく黙っていたと思ったら、信じられないことを言い出した。


「なあ、郷田。悪いけど僕もう帰るよ。やってらんないよ」


「ごめんねー。郷田。あーしも、もうあんたに付き合いきれないわー」


「てめえら! 俺様を裏切る気かよ!」


「だって、郷田って僕のことを下に見てるよね? それが前から気に食わなかったんだ。こんな無茶なダンジョン攻略に付き合わせてさ。危うく命を落とすところだったよ」


「うるせぇ! ケンタ! 調子に乗りやがって! てめえは俺様の言うこと聞いてりゃいいんだよ! クソが!」


「あんたさー、野蛮すぎてあーしらちょっとついていけないって思ってたんだー」


「あ? マリエ、何言ってやがる……。てめえだってババァにすら手を上げてたろ。てめえも十分悪党だろうが!」


 俺様は穴の底で悪態をつくが、安全圏にいる二人はニヤニヤと笑っている。


「てめえら……覚えてろよ……」


「はははっ、自分の心配したほうがいいよー。もう終わりだね。郷田」


「キャハハ、郷田ー! あんたの分までこの世界楽しむからさー。バイバーイ!」


 その時だった。


 マリエの体がバランスを崩したように滑り、落とし穴に落ちてきた。




──────────────────────


あとがき


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次回、郷田たちに悲惨な結末が……


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