第11話 底辺の争い
おれは、そっとマリエの背中を手で押した。透明化が解除されたが、またすぐに透明化した。
「ええわああええ! きゃああああぁぁ!」
マリエは叫びながら落とし穴へ落下していった。隣にいるケンタは目を丸くしてその様子を見ていた。
ドシーン!
この落とし穴はもちろんアナネズミ族たちが掘ったものだ。郷田の身体能力でも這い上がってこれないようにかなり深く掘った。壁も垂直に見えて若干反り返っているのでよじ登ることは不可能だろう。
「あわわわ! マリエー! だいじょぶー」
ケンタが穴の底に向かって叫んでいるのを、おれは近くで黙って見ていた。
(よし、ケンタにはバレなかった)
「いったーあああい! なに? なんで? いったあぁ……」
マリエは落ちた衝撃で身悶えていた。
穴の底を見ると、郷田がマリエに向かって何やら叫んでいた。
「ぎゃーはっはっは、ざまあみろ! バカが! 足を滑らせたか!?」
「違うのよ! 押されたの! ケンタ!? あんたが押したんでしょ!?」
マリエはケンタを疑っているようだ。それはそうだ。自分たち以外誰もいないのに押されたのだからケンタを疑うのは当然だろう。
「そ、そんな!? 僕じゃないよ! 信じて!」
「マリエ! やられたなあ!? どうだ? 仲間に裏切られる気分は。俺様の気持ちがわかったか!?」
「ケンタの野郎! ふざけんなよ! 絶対ぶっ殺してやる!」
マリエは大声で悪態をついている。
「おーい、ケンタ。てめえ、まさか財宝を独り占めする気じゃねえだろうな!?」
「そんなわけないよー! てか僕は何もしてないったら! 二人とも信じてよー!」
郷田たちは、この後に及んでまだ財宝の話をしていた。どこまでも強欲な奴らだ。
「ところでマリエ、さっきはよくも調子のいいことを言ってくれたな? 同じ立場になったからって許すと思うなよ? 覚悟しろよ?」
郷田がマリエに歩み寄る。
「は? 今こっちで争ってもしょうがないじゃん? 何考えてんだよ郷田」
マリエは郷田に敵意を向けられて焦っているようだ。郷田は落とし穴の底でいったい何をするつもりなのだろうか。
「こうなりゃヤケだ! マリエ! 一発ヤラせろよ! そしたら許してやる!」
「頭おかしーのかよ! 今はあーしたち、イノチの危機だろーが! 上に登る方法を少しは考えろよ!?」
「黙れ、メス豚が! 今度ナマイキな口きいたらその顔面ぶん殴るぞ!? おとなしくおっぱいを触らせろ!」
「あーしに触ったらあんたを操って自殺させてやるからな! 触れるもんならやってみろ!」
なるほど。マリエの能力は相手を操るような能力らしい。おそらく対象者に触れることで発動するのだろう。しかし、今更それがわかっても特に問題はなかった。透明化できるおれがマリエに触られることはないからだ。
「郷田ー! ちょっと落ち着いてよー!」
ケンタはテンパって、穴の中の二人に声をかけている。
(さて、マリエが郷田に襲われるところは別に見たくないし、そろそろこいつも落とすか)
おれは、そっとケンタの背中を押した。
トン……。
「えっ……」
郷田とマリエはあっけにとられたように、ケンタが落ちるのを見ていた。
ドスーン!
「ぎゃーはっはっは、ケンタの野郎、バカだ! 滑って落ちやがった!」
「郷田……笑ってる場合かよ。大丈夫か? ケンタ!?」
郷田は大笑いし、マリエはケンタを心配していた。
「いてて……、うん、大丈夫。でも足がちょっと……折れたかも……」
ケンタは自分の足にヒールをしている。ケンタはいろんな魔法が使える能力のようだ。
「てか、なんで落ちたの……。なんか誰かに押された気がしたんだけど……」
「なにぃ!? 押されただと? 自分で滑らせたんじゃねえのか?」
「いや、でも確かに……」
おれはついに郷田たちの前に姿を現すことにした。おれは透明化を解除して穴を覗き込んだ。するとちょうど上を見上げたケンタと目があった。
「あ、あああ……ああああ……」
ケンタは驚きの表情を隠さなかった。それをみた郷田とマリエも上を見上げた。
「え、ヤバ、あいつ……なんであそこに……」
「ハゲ山じゃねえか……なんでてめえが……!!!」
怒りと驚きの表情を見せながら、三人はおれを見上げていた。おれは、口を開いた。
「よっ! 久しぶりだな、郷田、ケンタとマリエも」
「ハゲ山ぁ! まさかてめえがやったのか!?」
「え、あいつが? ウッソでしょ……」
「お前ら、そんなところで何やってんだ? 落ちたのかー?」
おれは一応すっとぼけて返事をしてみる。
「てきとー言ってんじゃねえ! てめえの仕業だろうが!?」
あまり意味はなかったようだ。奴らもさすがにそこまでバカではなかった。
「ふふ、とうとう気がついたか……バカどもが……」
おれは、不敵な笑みを浮かべて三人を見下ろした。
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あとがき
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次回、命乞いをするマリエは……
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