第12話 愚者の悪あがき
「てめえ! ハゲ山! 降りてこい! ぶっ殺すぞ!」
落とし穴の底で郷田たちは喚いている。おれはそんな三人を見下ろしながら深く息を吸い、口を開いた。
「お前ら!! 自分たちが何をやったかわかっているのか!?」
こんな大声を出したのは生まれて初めてかもしれない。少しノドが痛いくらいだった。
「なんだぁ!? 俺様たちが何したって?」
「自分たちのした悪事を忘れたとは言わせないぞ!」
郷田たちは、目を見開いてこちらを見ていた。本当に忘れていたとしたらもう救いようがない。
「……悪事かなんか知らんが、この状況とどう関係あるってんだ!?」
「郷田……、お前って本当にバカなんだな」
おれは呆れながらそうつぶやいた。郷田の怒りのボルテージがまた上がったのがわかる。
「ハゲ山ぁ! 言うじゃねえか……」
その時、穴の周囲にアナネズミ族たちが集まって来た。ブレッドさんに促されてみんな隠れていた横穴から出てきたようだ。そして彼らは一斉に落とし穴を覗き込んだ。おれといっしょに穴を覗き込む彼らの顔は怒りに溢れていた。
「ふむ、あれが私たちの家を燃やした犯人か」
ブレッドさんは、殺したいほど憎んでいたカタキたちを冷静に観察していた。
「おいおい……クソネズミどもが。何をおもしろがって見てやがる! 殺してやるから順番に降りてこいやごらあぁ!」
穴の底でイキっている郷田を見ながらブレッドさんはため息をついてこうつぶやいた。
「あれで人間なのか? 顔つきはモンスターのようだな」
「郷田たちは人間の中でも異常者ですよ。おれが言うのもなんですが、同じ人間とは思えません」
「しかし、こうして上から見ると、何か哀れに見えるな。まるで怯えた小動物のようだ。奴らが本当にあの悪事を働いたのか……」
事実、郷田以外の二人は怯えていた。自分たちの置かれた状況にパニックになっているようだ。まあ無理もない。水も食料もない状態で、わけもわからず落とし穴に落ち、それが作為的なものだと知ってはそうなるだろう。
「ごらあぁ! ハゲ山! どういうこった! そのクソネズミどもといっしょに俺様たちをハメやがったのか!?」
おれは郷田の言葉を無視して叫んだ。
「お前らは、彼らの家を燃やし、財産を奪った! お前らは許されないことをしたんだぞ!」
「知らねえよ! さっさと俺様たちをここから出さないとひどい目にあうぜ!」
「郷田ー! そこで吠えるしかできないのは哀れだな! 落とし穴の底からすごまれても何も感じないぜ!?」
「ハゲ山! このクソ野郎が! くっそ……落とし穴はこいつらの仕業か、このドブネズミどもが……」
郷田は反省の色を一つも見せない。呆れたやつだった。もはや救いようがないので、おれは少し煽ってみることにした。
「郷田! お前らが仲間同士でぶざまに争ってるのは見ものだったぜ?」
「てめえ……、見てやがったのか! そうか。お前透明になれるんだったな!」
「お前ら、ホントに気づきもしなかったな! おれが水のビンを倒した時もさ」
「あ? ああ??……あれもてめえの仕業か。いい気になって言ってろよ? 今にぶっ殺してやるからな」
郷田は怒髪天を衝く勢いで怒ってるようで、もはや我を忘れて体が勝手に虎人化している。
「グオオオオオォ!!」
郷田は完全に能力を発動させた。そしてその体で力任せに落とし穴の壁に突進した。
郷田は思いっきりジャンプして勢いをつけて登ってこようとしたが、壁の岩肌が崩れて無様に落下した。
「ぐわああああぁぁ!」
声を上げて落ちる郷田。おまけに落下した岩がケンタやマリエの上に降り注ぐ。
「うわあああぁぁ!」
「きゃああああぁ!」
ドシーン!!!
崩れた岩とともに郷田は地面に背中から落ちた。
「穴の内壁はわざともろく作ってある。どうあがいても彼は登れやしないよ」
隣でブレッドさんがそうつぶやいた。
「くっそおぉ! 登れねぇ!!」
穴の底で悔しがる郷田に、ケンタが声をかける。
「郷田、岩が当たってマリエがケガを!」
マリエがこめかみを押さえながら叫ぶ。
「いったああぁい! 何してんの!? 暴れないでよ郷田!」
「──ああぁん? てめえら、役立たずのくせにギャーギャーギャーギャーうるせーんだわ! この状況で何言ってやがんだよ!」
「……う、うん」
「……ひど……、ひっく」
マリエが郷田から視線を切って、顔を上げた。その目からは涙が溢れているのがわかる。そして彼女はおれの方を見上げた。
「ねえ! 影山くん! お願い、助けて!」
マリエは涙をボロボロ流しながら、両手を合わせて懇願した。
「……えっ」
「あーしはこいつに……。郷田に無理矢理やらされてただけなのよ!」
「はあ……」
おれはマリエの手のひら返しに心底呆れていた。
「ほらっ! 頭から血が出てるの! 郷田のせいで! すごく痛い! ほら見て!」
マリエの姿を冷静に見ると、反省した態度を取っているが、そんなことはない。おれは知っている。彼女が本当はどんなヤツかということを。
おれは教室での、あの時の光景を思い出していた。
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