第13話 レベルアップ


 おれが以前教室で郷田に土下座させられていたあの時──。


「あれ誰ー? 郷田が踏んでるヤツ」

「影山? 誰それ、そんなやついたっけ。ウケる~w」

「マジで土下座してるよキモッ!! タヒねばいいのにw」


 マリエ、他の女子たちとそんな会話を繰り広げていたよな……。あれがお前の本質だろう。


「見苦しいぞ、マリエ。おれは騙されない」


 おれがそう告げると、マリエの表情は一変した。


「クソがっ! ざけんなっ! こんなことしてタダで済むと思ってんのかよ! 影山! お前絶対ろくな死に方しないよ!?」


「そうかもな。たがお前たちはここで死ぬ。それは変わらない事実だぜ」


「あーしが何をしたっていうのよ!?」


「おいおい、彼らの金品を奪っただろ、忘れたのかよ」


「うううぅ、それは……あーしは郷田に言われてやってただけなんだって!」


 マリエは、この後に及んで自分は無実だと言い張るようだ。


「許してよぉ! そうだ!! 一回ヤラせてあげるから! ね!? ね!?」


「けっこうだ。それより後ろ気をつけたほうが──」


 バキッ! 


 郷田が後ろからマリエを殴りつけた。マリエは吹っ飛んで壁に激突した。


「いったあああい! なによっ!? 郷田!」


「このクソビッチがっ! 黙って聞いてりゃふざけやがって! あんなカスに命乞いするなんてよ。マリエ! 俺様が今すぐ殺してやろうか?」


「ひど……。マジでひどぃ……。最悪だょ!」


「うるせー! バカ女が! 黙ってろ!」


 郷田は、マリエにそう怒鳴るとケンタの元へ行き、彼と何やらヒソヒソと話をした。何やら企んでいるようだ。郷田は現在、虎人化と呼ばれる能力で3メートルはあろうかというほどの巨大な虎人に変身している。


 そして、話が終わると郷田はケンタの体を抱え上げた。どうやら穴の外へ向かってケンタを投げるつもりのようだ。


「いくぜ、ケンタ! おらよっ! 上に投げるからあいつらを魔法で倒してこい!」


 郷田は思いっきりケンタの体を地表へとぶん投げた。


「予想通りだな」


 おれがそうつぶやいて周りを見渡すと、アナネズミ族たちは後ろ手に持っていた槍を取り出した。


 こんなこともあろうかと用意していた槍を、みんな一斉にケンタが飛んでくる方向へと向ける。


「う、うわああああぁ!」


 グサッ! グサッ! グサッ!


 何本かの槍がケンタの腕や足に刺さった。


「ぎゃあああぁ! 痛いいいぃ! やめてえええぇ!」


 泣き叫ぶケンタに向かって、他のアナネズミ族たちは次々と槍を突き刺した。とどめを刺さないように、みんな腕や足を狙う。


 グサッ! グサッ! グサッ!


「ひ、ひいいいぃ! なんでこんな!? なんでここまで!?」


「──なんでここまでされるかって? それはお前らも同じことをしたからだよ」


 おれはそこまで言って、ブレッドさんの方を見た。すると彼は鋭い視線をケンタに向けて口を開いた。


「ふ、こいつらにはお似合いな姿だな」


 串刺しになり、空中に浮いているケンタに向かっておれは言葉を続けた。


「お前、彼らの家々に火をつけたろ。それって彼らがもう死んでもいいと思ってたってことだよな。幸いにもみんな逃げることができたから死人は出なかったけどな」


「そ、それはっ! 死んでない、死んでないんだろ? じゃあ許してよぉ! 命だけはっ! 悪いのは郷田なんだ。一番悪いのは郷田だよ!?」


 呆れたものだった。マリエもケンタも、最終的には郷田のせいにするのだ。まあおそらくそれは間違ってない。元凶は間違いなく郷田だろう。


「なあ、ケンタ。郷田は確かにイカれた野郎だよ。だけど郷田とつるんでいっしょに悪さをしたのはお前の業だよ。それはもう間違いのないことだ。それすらわかんねえか」


「お願い許してよぉ! 腕が! 痛いんだ! なんでもする! なんでもするするするううううああああぁ!」


 泣き叫ぶケンタの顔が怒りの表情に変わり、こちらをまっすぐに見た。


「ちくしょおおおぉ! 影山あぁ! こうなったら道連れだ!」


 槍に串刺しにされているケンタの右腕が赤く光った。


「喰らえ! 火の槍ファイアジャベリン!!」


 それは想定外のものだった。ケンタの魔法は透明になっている時に何度も見たが、どれも低レベルのものだった。せいぜい火の玉ファイアボールくらいの魔法であり殺傷能力はそれほどない。その程度だと思っていた。


 だが能力は進化するのだった。おれは知っていた。なぜなら──。


沈黙のシャドウ黒歴史アンタッチャブル発動! ノンターゲッティング!」


 おれの体は透明になり、その空間を炎の槍が通過して地面に刺さって消えた。


「え! なんで? なんで当たらない! 透明になっても実体はあるからあたるんじゃ……」


「ケンタ、土壇場でお前の能力はレベルアップしたようだな。しかし、それはおれも同じだ」


 おれの能力も密かにレベルアップしていた。最初の頃は透明になるだけで体は実際にそこにあり、触れられると解除されていた。だが、今は完全に実態を消すことが出来ていた。


「ち、ちくしょおぉ……」


 ネズミ族たちが一斉にケンタに突き刺していた槍を抜いた。彼の体の傷口からは一斉に血が吹き出す。


 そして、ケンタは暗い穴の底へと再び堕ちていった。

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