第14話 郷田とのタイマン


 無様に穴の底へと落下するケンタ。地面に落ちてもピクリとも動かなかった。


 その時、異変に気づいたブレッドさんが声を上げた。


「涼介くん、ヤツがいない!」


 郷田の姿が穴の底に見えなかった。いるのは倒れているケンタとマリエだけだった。


「まさか……潜ったか」


 虎人化して強化された郷田の腕力なら、落とし穴の内壁を掘るのは容易だろう。地面を掘り進め、地表に這い上がるつもりに違いない。


「みなさん、通路に避難してください。ここからはおれがやります」


 これも想定内だった。郷田との一騎打ち、こうなるだろうとは思っていた。


 異世界に来た時、おれは思った。ここで何かが変わるのだと。ここに来てからがおれの人生の本当の始まりなのかもしれないと。


 もう逃げてはいられない。ここで郷田との因縁にケリをつけ、おれは進む。




 しばらくして、地面から虎模様の手が這い出た。そして、郷田が姿を現した。


「ふう……。ようやく穴から抜け出せたぜ。俺様の身体能力を甘くみたんじゃねえかぁ? ハゲ山ァ!」


 郷田は体についた土を払いながら、静かになった周囲を見回した。


「おいおい、みんないなくなっちまったなあ? さっきまでいたドブネズミ共は逃げたか?」


 郷田は下品な薄ら笑いを浮かべていた。


「……郷田。おれはお前を許さない」


「ぎゃーはっはっは! そりゃこっちのセリフだ。俺様とタイマンしようってのか!? 命乞いしたほうがいいぜ!? しても殺すけどなぁ!」


「ああ……、タイマンだ。沈黙のシャドウ黒歴史アンタッチャブル


 おれは、ブレッドさんから受け取った槍を握りしめ静かに透明化した。


「バカだなぁ、てめえ。俺様のことをバカだと思ってるだろ? それがバカだって言ってんだよ!! どーせ透明になってどこかから槍で攻撃してくるんだろ? わかってるんだよなぁ」


「へえ……、脳筋ってわけじゃないんだな」


「ひと突き目はくれてやるよ。だが、そのひと突きをした瞬間に顔面にカウンターをくれてやる。お前の顔をグシャグシャにしてやるぜ。それで終わりだ!」



「そうか、じゃあ遠慮なく」



 グサッ!


 おれは、郷田の心臓を狙い一突きした。


「な!? なにぃ!?? い、いつの間に!? このやろう!」


 郷田はそう言いながらすぐさまカウンターをしてきた。


 ブオン!


 しかし、郷田の拳は空を切る。


「な、なぜだ! 当たったはず! くそっ、どうやって間合いに入ったんだ!? 匂いがしなかったのに!」


 郷田の狙いは予想通りだった。ヤツはおれの透明化が不完全なことを知っていた。匂いを消せない。透明に見えるだけで実体が消えるわけじゃないと。それは確かに当たっていた。前までは。


「郷田、お前の読みは当たってるよ。挑発して、おれを間合いに入らせようとしたんだろ? そして匂いで察知して近づいてきたおれを先に殴るつもりだったわけだ。だが、その読みは外れた。今のおれの能力はレベルアップしてたんだ。匂いも、ついでに実体も完全に消える」


「んだとぉ!」


 郷田の体には槍が刺さったまま。その槍は俺が握っている。だが、見えているのは槍だけだった。おれは、体を透明にしながら武器だけを実体化して攻撃することに成功していた。


 ブンッ! ブンッ!


「クソッ! クソッ! なんで当たんねえ! そこにいるんだろうが!?」


 しかし、郷田の拳は繰り返し空を切る。


 そして、おれは槍にグッと力を込めた。


 しかし、槍はこれ以上進まなかった。


(なんだ? 筋肉が分厚すぎてこれ以上刺さらない……)


「ふんっ! それなら……」


 郷田は、おれの握っている槍を掴み、そのまま胸から引き抜くとぶん投げた。


「うぉらあぁ!」


「うわっ」


 槍を握っていたおれは、透明化したまま槍といっしょに投げ飛ばされる。


(くそっ、槍が刺さらないなんて! 想定外に分厚い筋肉だ!)


「ぎゃーはっはっは! 残念だったなハゲ山ぁ! お前の非力な腕力じゃ俺様の心臓まで突き刺すことはできねえぜ!? さあ、どうする!? 俺様にどう勝つ!? 結局は圧倒的な力を持つ者が勝つんだよ!」


 その時、郷田の足がふらついた。


「な、なんだ!?」


 郷田はそう言って、地面に膝を付きその場に崩れ落ちた。


「ぐふっ、体が……どうなってる……」


 郷田はそのまま仰向けに倒れ込んだ。


「がっ、がはっ! クソ、何が起きた……」


(ふう、ようやく効いてきたか)


 力では勝てなくても策で勝つ。何重にも用意した策だったが、なんとか最後に功を奏した。






──────────────────────


あとがき


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次回、倒された郷田の運命は……

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