第15話 復讐の終わり
「クソッ! どうなってる?? ハゲ山ぁ! 俺様に何をした!?」
仰向けになった状態で郷田は叫んでいる。
「槍の先に神経毒を仕込んだのさ。こんなこともあろうかとな。その巨体だと効くのに時間がかかったみたいだがな」
虎人化している郷田の巨体は槍も通さない鋼の肉体だったが、さすがに毒には抗えないようだ。
「神経毒だとぉ……。がああぁ、体が動かねぇ……」
「ブレッドさん、出て来てください! もう大丈夫です」
おれがダンジョン内に響き渡るように叫ぶと、横穴に隠れていたアナネズミ族たちが続々と出てきた。
「涼介くん、よくやってくれたね。仕留めてくれて礼を言う」
「とんでもないです。ブレッドさんが作ってくれた毒槍のおかげですよ」
即効性の強力な神経毒は、ネズミ族たちが森で採った植物から作ったものだ。彼らの助けがなければ郷田を倒すことはできなかっただろう。
「それに、まだ終わってませんよ。こいつの処分は」
「うむ。もちろんすぐに殺すこともできるが、それでは私たちの気が収まらんな」
「どうするんですか?」
「我らの一族に昔から伝わる拷問だ。四肢をもぎ、止血した上で洞窟内に隔離する。毒蛇や毒虫が這い回る暗い洞窟の奥にな。そして解毒を繰り返す。すぐには死なせない。身体中を走る痛みに耐えながら暗い洞窟内で孤独に生きながらえてもらうのだ。まあ、そのうち死を願うようになるだろう。」
「……そうですか。じゃあ、後は任せます」
おれは、落とし穴の中に残っているケンタとマリエが気になった。先程からずっと穴の底で倒れているままだ。様子を見に行ってくれたアナネズミが戻ってきた。
「涼介さん、二人とも死んでますよ」
「……そうか。じゃあ、そのまま落とし穴を埋めてもらえますか」
「わかりました」
おれは郷田に近づいて声をかけた。
「郷田、ケンタとマリエは死んだみたいだ。ちなみにマリエはお前が殺したんだぞ? わかってるのか?」
「……ぐ、が……ごふっ……」
郷田は全身に毒が周っており、喋ることもできないようだ。かろうじて目を動かしている。その視線はおれを見据えている。
「郷田、苦しいか。それはお前が行ってきた悪行の報いだ。まだまだこんなもんじゃ終わらないみたいだがな」
「……」
郷田は目を見開いて瞳をギョロギョロ動かしている。声にはならないが、心の中ではどうせいつものように悪態をついているのだろう。こいつはおそらく反省などすることはない。だからそれに期待をしても無駄なのだ。郷田のような性根の腐ったやつは、存在を根本的に否定するしかないのだから。
「そうそう。一応やられたことはきちんとやり返すよ」
おれはそう言うと、足を高く上げて郷田の顔面を思いっきり踏みつけた。
グシャッ!
踏んだ瞬間、体がビクンと反応した。痛みに身悶えているのだろう。
「……ぐ……ぞ……」
郷田は言葉にならない声を出し、目をギョロギョロと必死に動かしていた。
「郷田、誰かの顔を踏むってのはさ……。やってみると最悪な気分だぜ。お前、よくこんなことできたよな。ホントどうかしてるよ」
郷田にそう言ってから、おれはあることに気づいた。
「あ、お前が踏んだのはおれの後頭部だったか。顔面じゃなかったな。間違えたよ。まあいいか」
その後、ケンタとマリエの遺体は落とし穴ごと埋められた。そしてアナネズミたちに引きずられて、郷田はダンジョンの奥へと運ばれていった。
ようやく、全てのことが終わりおれはダンジョンを後にした。地上に出た時の太陽の日差しの眩しさがなんとも心地よかった。
ブレッドさんやターニャたちと獣人地区へ戻った。一週間ほどで建てた仮住まいの住居におれもお邪魔して休ませてもらうことにした。
「涼介! いい? 明日は昼からお祭りがあるから、朝早く起きて準備手伝ってね! 明日はみんな大忙しだよ!?」
ターニャは嬉しそうに言っていた。ようやく彼女の顔にも笑顔が戻ったようでおれはホッとした。
「お祭りかー。楽しみだなあ。ちょうどいいタイミングでここへこれてよかったよ」
「んー? お祭りはね。ホントは二週間後なんだよ? でもね。今回のことがあったから、みんなが元気出せるようにって開催を早めたんだって。お父さんが言ってた」
獣人地区では、今回の郷田たちの放火によりたくさんの人々が住居を焼失してしまっていた。そのため落ち込んでいる人々を元気づけようと祭の日程を早めたのだった。
こうして、おれとネズミ族たちの戦いは終わった。
しかし、異世界でのおれ自身の戦いはまだ始まったばかりだということを、この時のおれはまだ知らなかった。
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