第16話 戦いの後の宴
「涼介ぇ! 朝だよぉ! 起きて起きてー!?」
翌日、ターニャの元気のよい声に起こされたおれは、さっそく着替えて外へ出た。
早朝ともあって町中にはまだ数人しか人影は見えない。
おれはターニャに誘われて町を出た。そして、二人で森の中を歩く。
「ベリーの実を集めたいから手伝ってほしいんだ。ついでにハーブの葉っぱも採るよ」
おれは人に頼られることが嬉しかった。今までの人生であまりそうした経験はなかったし、クラスでも浮いていただろうから。
「ハーブ? それってターニャがよく煎れてくれるハーブティのやつ?」
「そうそう。あれおいしいでしょ?」
「うん。自前で集めてたんだな」
「そりゃそうだよ。ボクしか知らないハーブが採れる場所があるんだよ!?」
「秘密の場所? すごいね! ベリーの実はどれくらい集めるの?」
「とりあえずカゴにいーっぱい!」
この大きなカゴにか。ランドセルの2倍ほどもある大きさのカゴをベリーでいっぱいにするためにおれたちは奮闘した。
おれは転ばないように注意深く歩いた。異世界特有のものだろう見慣れない植物がちらほらある。ターニャと森を歩くのはとても楽しく、時間を忘れて植物採集に没頭した。
昼頃に町に戻ると、朝とは打って変わって賑やかになっていた。人々の元気な笑い声が町中に響いている。
広場には音楽や踊りを楽しむ人や、お酒を飲み談笑する人で溢れていた。
おれはターニャといっしょに広場へ向かった。なんでも友人たちといっしょにフルーツジュースを作るそうだ。新鮮な生の果実をしぼったジュースは、現在若者を中心に大流行しているらしい。
(この世界でも流行りとかあるんだなぁ)
「涼介! こっちがリス族のリーシャ、奥にいるのがキツネ族のフォーネだよ! ふたりともー! 涼介と仲良くしてあげてね」
「よろしくでス〜」
リーシャはニンマリと笑みを浮かべて挨拶をしてくれたのでなんだか和んだ。
「あら、そちらがターニャの彼氏? よろしくネ」
フォーネは真顔で返答してきた。
「か、彼氏じゃないよぉ! もう、フォーネったら!」
「アハハ、ごめんごめん。そっか、君が獣人地区の英雄なんだよネ。本当にありがとネ!」
真顔だったフォーネは、ニッコリとそう言ってくれてなんだか嬉しかった。
「いや……英雄だなんてそんな……」
どうやらおれがブレッドさんたちといっしょに郷田をやっつけたことは、この地区の人々に周知されているようだ。
「みんなでお祭り楽しめるのも、涼介のおかげなんだよぉ! ありがとぉ♪」
ターニャのご機嫌な顔を見ているとこっちまで嬉しくなってくる。
「ふふ、こちらこそお祭りに誘ってくれてありがとな!」
「うふふ、今日は楽しいなぁ! 嬉しいなぁ!」
ご機嫌なターニャたちはさっそくジュース作りに取り掛かった。おれは果実を押しつぶし、果汁を絞る作業を任された。
単純だがなかなかの重労働だ。たくさんの果実を絞り押しつぶし、ジュースを作っていく。
「新鮮な生搾りベリージュースはいかがー! 甘くておいしいよぉー!」
ターニャが元気な声で集客している。
お店はまさに大繁盛、お客さんがいっぱいで、終始大忙しだった。
「みんなお疲れぇ! 今日はこれにて店じまいにするから片付けしてご飯にしよぉ」
ベリーの実の特性生搾りジュースは好評だった。材料が無くなったため、予定より早いがお店は昼過ぎに終わりとなった。
「はい! どーぞどーぞ。みんな食べてねぇ!」
「うひゃぁ、ターニャの手作りサンドイッチだ! 嬉しいでス〜!」
リーシャの言う通り、ターニャの作ったサンドイッチは絶品だった。それをみんなで食べながらワイワイとおしゃべりした。
広場に集まる人たちを見ていると、本当に様々な種族の人がいた。この世界では多種族多民族が当たり前のようだ。獣人族たちのお祭りだが、エルフやドワーフ、もちろん人間たちも集まってみんなで楽しんでいる。
「なあ、エルフやドワーフってどのあたりに住んでるんだ? あんまり町じゃ見かけないけどさ」
おれは三人に疑問を投げかけた。ターニャとリーシャはもぐもぐしていたため、フォーネが代わりに答えてくれた。
「エルフやドワーフはネ。この町から離れた場所にそれぞれの集落があって普段はそこで暮らしてるわ。ただ、買い物やお祭りがあるとこうして町にくるの」
「なるほど、たしかにエルフは森とかに住んでそうだもんな。しっかしホントいろんな人たちが支え合って暮らしてる感じがしていいよなあ」
「ふふ、この町はネ。一応大陸でも最大規模の城下町でネ。人間や獣人族、小人族などがいて、みんな区画ごとに分かれて暮らしてるわ。それでネ、こういう催しがある時は他の区画に遊びにいくものなのよ」
「へぇ、そうなんだねえ」
その後も、みんなといろいろな話をしながら食事をして、夕方になったため広場を後にした。
リーシャとフォーネとは別れ、ターニャと通りを歩いていると、前から犬が駆けてくるのが見えた。中型犬くらいのサイズのその犬は目の前までやってきて、こちらを見上げる。まるで何かを訴えかけるように。
「なんだろ。野良犬かな?」
犬と目が合った次の瞬間──。
「お前、もしかして影山か? なんだ、お前も来てたのか」
なんと、犬がそんなことをしゃべって、おれは度肝を抜かれた。
「うお! えぇ!? なんだ?」
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