第9話 復讐の除幕
「涼介さん、ブレッドさん。報告します。奴ら、このまま進むみたいです」
追跡部隊からおれたちのところへ連絡がきた。
「よし、狙い通りだな。ブレッドさん次の作戦に移りましょう」
「わかった。涼介くん。ここまでは作戦通りだな」
おれとブレッドさんは、郷田たちのいるエリアに向かうことにした。実はこのダンジョンはアナネズミ族たちが掘って作ったものだった。
郷田たちへの復讐のため、おれたちの立てた作戦はこうだ。
まずは郷田たちをワナにはめるためのダンジョンをいちから作り上げた。アナネズミ族たちは穴掘りが得意なので、ダンジョンをいちから掘って作り上げることは彼らにかかれば朝飯前だった。
その後、冒険者ギルドや他の冒険者にも協力してもらい、郷田たちをダンジョンにおびき出すことに成功した。
このトラップ満載のダンジョンにまんまと入ってきた郷田たち、奴らは勝手に揉めて仲違いしそうになったりしているようだが、本当の地獄はここからだ。
「ブレッドさん、奴らは食料を持ってないようですね。水だけしか持ってきていないようです」
おれは先を走るブレッドさんに声をかける。
「バカな小僧たちだ。ダンジョン攻略のイロハも知らずに冒険者気取りとはな」
ブレッドさんの声は低く冷たい。
「そうですね。郷田は自分の身体能力に絶対の自信を持ってます。一度虎人化した郷田を間近で見ましたが、まともにやり合ったらけっこうヤバいと思います」
「……ああ。私の兄がやられたくらいだ。真っ向からの勝負はせんよ。あんなクズどもたちと正々堂々の勝負などする気はない!」
「……おっしゃるとおりです。ブレッドさん、おれにいい考えがあります」
「なんだ?」
「奴らの水を奪いましょう。最後の希望を断つんです」
「それはいいアイデアだ。是非やってくれ。奴らはもう帰れない。必ずここで仕留める!」
現在ダンジョンの入り口のほうでは、アナネズミ族の穴掘り部隊が工事を行っているのだ。彼らが引き返したとしても道は途中でふさがっており既に出ることができなくなっているだろう。
ブレッドさんたちは、郷田たちをこのダンジョンから出さないつもりだった。おれはその作戦を聞いた時、その意味するところを考えた。
クラスメイトの死、それはおれにとってどういうことになるのだろうか。
かつて、郷田たちはおれを虐げた。おれの心が折れるまで……。
郷田にとってはもしかすると少しやんちゃをした青春の1ページに過ぎないのかもしれない。たが、おれにとっては悪夢のような時間だった。
郷田は異世界に来ても何も変わらなかった。よもや能力を身につけてしまい、横暴さに拍車がかかったほどだ。
(郷田、覚悟はいいかよ)
これはおれだけの復讐じゃない。奴らがアナネズミ族にしたひどい仕打ち、それらひっくるめた天罰だ。
(これは……おれたちの復讐だ──)
おれはブレッドさんとダンジョン内の裏道を通り、郷田たちのいるエリアに近づいた。アナネズミ族が掘ったダンジョンには、彼らが作ってくれた迷路のように入り組んでいる横穴や縦穴が無数にある。そこを通りおれたちは郷田たちの動向を探ったり、先回りするわけだ。
(いたいた。郷田……)
報告部隊の言っていた通り、郷田はケガを負っていた。しかし、深手には見えない。奴らは岩に座り休憩していた。
おれは透明化を使い奴らの近くに忍び寄った。郷田、ケンタ、マリエ、三人のうち誰もおれの存在に気づかない。
おれは、郷田が足元に置いていた水の入っているビンをこっそりと倒した。
コトン……ジョロジョロジョロ。
「うわっ! しまった──」
郷田は慌ててビンを戻したが、ほぼ全てこぼれてしまった後だった。
「くそっ、やっちまった」
郷田は、空になったビンを虚しく見つめていた。
ケンタとマリエはそんな郷田の様子を黙って見ている。
「郷田、何してんの……」
先に口を開いたのはマリエだった。
「うるせー! 気づいたら倒れてたんだよ! くそったれ!」
郷田はマリエに怒鳴ると、空ビンを遠くに投げ捨てた。
ビュンッ! バリンッ!
「……おい、ケンタ……」
「何? 郷田……」
「水くれねえか? ちっとだけ」
「え、えぇ。う、うん」
ケンタはしぶしぶ、という感じで水が入ったビンを郷田に差し出した。
「悪ぃな。さすがトモダチだぜ」
郷田がビンを受け取ろうとした瞬間、おれはそれに少し触れた。するとビンは郷田の手から滑り落ちて地面に落下した。
ガシャン! ジョロジョロロ……。
「うわ! おい! しっかり渡せよ!」
「いや、そっちこそ! ちゃんと受け取ってよ!」
「なあにぃ! てめぇ! 俺様が悪いって言いたいのか!?」
(よし、うまくいった!)
おれの能力、
郷田たちの空気が悪くなった中、いよいよ復讐も大詰めだった。
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