第8話 俺様の活躍③ 郷田視点


火の玉ファイアボール


 ボワッ! シュボッ!


「ふぅ、モンスターは雑魚ばっかりだ! これならラクショーだね。郷田」


 雑魚モブを倒してケンタがイキっていた。いっちょ前に仕事をしているつもりらしい。


「そうだな。虎人化するまでもねえ。しかし、モンスターが少ねえな。なんだこの楽なダンジョンは」


 戦闘は俺様とケンタが主に行う。マリエは特に何もしない。


「キャッ!」


 ドシンッ!


 その時、マリエが盛大にすっ転んだ。


「おい、マリエ! 大丈夫か?」


「いったーああいぃ!! 足ケガしちゃった。ケンタ! 回復してー!」


「はいはい、それ! ヒール!」


「あ、ちょっと足が楽になったかも? すごっ!」


 ケンタは、各属性魔法から回復、サポート魔法までいろんな種類の魔法が使えるが、どれも低レベルなものしか使えない。それが鼻垂れビギナー魔道士メイジ、ケンタの能力だった。


「おい、ケンタ。俺様にもヒールよこせ!」


「はいはい。ヒールっと」


 足にヒールをかけてもらったが、気持ち楽になった程度だ。スリ傷くらいしか治せないらしいし、こんなもの使えても使えなくても同じだ。


(ちっ、ケンタこいつのヒールは気休めにしかならねえ。低レベルの魔法しか使えないなんてカスもいいとこだぜ)


「おい、マリエ! 歩けるか? ちょっとペース上げるぞ!」


 マリエはガリガリで見るからに体力がない。現実世界むこうではそれでも生きていけるだろうが、異世界こっちでの冒険には不向きだった。


「えー! ちょっと待ってよ。もうちょっと休ませてよ!」


(食料もねえのに、チンタラ進んでたらどうなるかわかんねえのかコイツは)


「おい、マリエ! いいから立て。さっさと財宝を見つけてここを出るんだよ!」


「もう、わかったわよ! んしょっと! あれ? なんか踏んだ──」



 ポチッ!



 ビュン! ビュン! ビュン!

 ビュン! ビュン! ビュン!



 グサッ!


 突然、どこからか飛んできた矢が俺様の腕に刺さった。


「ぐわああああああぁ! いってえええぇ! なんだ!?」


「キャ!! ごめーん! 郷田! なにこれ!? トラップってやつ!」


「ぐっ! ぐおおおぉ! トラップだとぉ? いって! いってええぇ!」


「だ、だいじょぶ? ガチで痛い? うわ、刺さってんじゃん……」


 マリエが俺様のそばにかけよってくる。左腕に刺さっている矢、そこから流れる血を見てマリエの方が顔を青ざめていた。


「いいからあぁ!! ケンタ! 早く!! ヒールだよ!」


「う、うん! ヒ、ヒールぅ!」


「……おい、いてーままだぞ?」


「ご、ごめん郷田……キズが深すぎて僕のヒールじゃどうしようもできないみたい」


 ドガッ!


 俺様は右腕で思いっきりケンタを殴った。ケンタは吹っ飛んで地面に転がった。


「てめえええ!! この役立たずがよぉ! ぶっ殺すぞ!」


「ぎゃああ! ううぅ、何すんだよ、郷田!」


 ケンタは泣き叫んでいる。


「ちょっとぉ! 郷田! ケンタに当たってもしょうがないっしょ?」


 マリエはそう言って俺様の左腕を掴んできた。その瞬間、激痛が走る。


「いっ! てえええ! 離せやぁ!」


 ブンッ!


 マリエを振り払うように、俺様は左腕をぶんまわした。


「キャッ!」


 ドガッ!


 マリエは勢いよく吹っ飛び岩の向こうに転がっていった。


「マリエぇ! いてえじゃねえか! お前のせいで矢が刺さってんだぞ!」


「ご、郷田、マリエが……」


「あ?」


 俺様のいる場所からはマリエがどうなったかよく見えなかった。ケンタが指さした方向へ歩いていくと、マリエは吹っ飛んだ先で毒沼に落ちていた。


「ぐ、うぐぐぅ……痛いよぉ」


「お、おいマリエ……大丈夫か?」


「足が……痛い……。足がちょっと毒沼に浸かっちゃった……」


「うわ……」


 マリエの足は明らかにヤバい色に変化していた。


「そうか……。わりぃなマリエ。ちょっとイラっときちまってよ。わりぃわりぃ。おいケンタ、解毒魔法でもかけてやれよ」


「う、うん。マリエ、大丈夫?」


 ケンタはマリエを心配しながら、解毒とヒールをかけてやっていた。


(ちっ、マリエのヤツどんくせえな。トラップ踏んだ挙げ句に毒沼に落ちるなんてよ。役に立たねえ奴だ……戦闘にも参加しねーし足を引っ張るだけだ……)


 俺様は左腕に刺さっている矢を抜き、服でグルグル巻きにして止血をした。虎人化ウェアタイガーの能力を持っていることで身体能力が格段に上がっている俺様にとっては、矢が刺さったことは致命的なダメージではなかった。だがその原因には心底いらついた。


「わあ! 解毒効くわー! すごっ、足がだんだん楽になってきた!」


「おう、よかったな。マリエ。ケンタの魔法も役に立つじゃねえか」


「郷田、マジでちょっと休ませて。あーし、もう体力限界。郷田だって腕痛いでしょ?」


 原因となったヤツがのんきなことを言ってきた。


「俺様は大丈夫だ。こんなもん蚊に刺されたようなもんだ」


「そ、そうなの……」


(蚊に刺された程度なわけねえだろ、バカが! 普通にいてえわ)


 俺様はそう悪態をつきたくなる気持ちを抑えて一応マリエの心配もしてやった。


「マリエ。それよりお前の足は大丈夫なのか?」


「うん、解毒が効いたみたい。なんとか歩けるかな。町までは体力が持ちそー」


「そうか。さっきはぶっ飛ばして悪かったな。じゃあ、先に進むぞ」


「えっ! 進むの!? 奥に? 町に戻らないの? ヤバッ!」


「あ? ああん? ここまで来て手ぶらで帰れっかよ!」


 俺様はマリエの一言でまたブチ切れそうになった。


「こわっ……ちょっと休んだっていいじゃん……」


 マリエは青い顔をしてそう言った。ケンタは黙って下を向いていた。


「おい、お前ら! 元気出せよ! まだ水があるから大丈夫だ。財宝をがっぽり手に入れて帰ろうぜ」


「わ、わかったよ」

「わかったわよ……」


 こうしてなんとか二人を説得して、俺様たちは奥へと進んだ。

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