第36話 異世界に降り立つ流れ星② 雨宮視点


 次の日の夜。


 ──トントン。


「来たか? 入れよ」


 扉を開けるとサラが立っていた。昨日はあんなに怒鳴り散らしていたのに今日はやけに落ち着いている。女ってのは本当に気分屋だ。


「それで、お金返してくれるの?」


「まあまあ、座れよ。紅茶煎れるからさ」


 オレはサラをソファーに促して、紅茶を煎れてやった。彼女の好きな銘柄をきちんと覚えている。こういう細かな気配りが女を惚れさせるテクニックだ。そして、彼女から見えないようにコッソリと紅茶に睡眠薬を混ぜる。


「なあ、サラ。考えたんだけど。オレたちいっしょにならないか? オレにも道具屋を手伝わせてほしいんだ」


 サラの顔が赤くなったのは紅茶を飲んだせいじゃない。


「う、そ……今のホント? リュウくん、嬉しい」


 彼女は見る見るうちに満面の笑みになる。女ってのは本当に単純だ。


「なんなら、資金を貯めていっしょに店を開こうよ。うん。それがいい! いいアイデアだと思わないか?」


「うん! うんうん! そうだね! そうしよ! あ、でも、ちょっとまって! そう言ってまた私からお金を獲るつもりじゃないわよね!?」


「そんな、まさか! それに獲るだなんて、少し借りてるだけだよ」


「うそ! 返す気なんて……ない……くせに」


 サラはだんだんとろれつが回らなくなり、ソファに横になった。


「うん! そのとおり、返す気なんてまったくないぜ! それに今夜でお別れだ。アッハハハ!」


 オレはサラを別の部屋へ運び寝かせた。




 しばらくすると、次のバカ女が現れた。ジュリアンだ。


「リュウセイ! 家に上げてくれるなんて初めてだよな。なんだか嬉しいけど、恥ずかしいぞ。まだ心の準備がだな///」


 何を勘違いしているのか、ジュリアンは恥ずかしがりながら部屋に入ってくる。


「はは、狭い借家だけどくつろいでくれ」


「病気の方はよくなったか?」


「病気? ああ──」


 そういえば、そんな設定にしていたことを忘れていた。いろんな女に違うウソをついてるから誰に何を言ったのかたまにわからなくなってしまうぜ。危ない危ない。


「そうだね。ジュリアンのおかげで医者にも行けたし、回復に向かってるよ」


「そうか! リュウセイといっしょに冒険に行けることを楽しみにしているぞ!」


 彼女はそう言ってオレが煎れたコーヒーに口をつけた。睡眠薬たっぷりの。




 数分後、ジュリアンも眠ったので隣の部屋に運んでおいた。


「ふう、チョロいチョロい。もう三人来るけど、これならラクショーだな」


 それぞれちゃんと時間をずらして呼んでおいた。それぞれが来る間隔を念の為に多く見積もっておいたが、案外すんなり眠らせることができたため、次のターゲットが来るまで少し暇だったくらいだ。




 同じ調子で、三人目、四人目の女も眠らせることに成功した。


 そして夜も更けた頃、またもや扉がノックされる。最後の女、月見里やまなし美海みみが来たのだろう。


「にゃほ、雨宮くん! こんな遅い時間に会いたいだなんて初めてだね」


「ああ、どうしてもミミと話したくてさ。今日のクエストはどうだった?」


「うん、ぼちぼちかな〜。あ、お金入ったけど、必要だったら渡すよ?」


 ミミはそう言って1000ゴールド札を4枚渡してきたので、おれは素早く受け取った。


「ああ、さんきゅ。ミミの好きな紅茶煎れるから、ゆっくりしていきなよ」


 オレはそう言って、またもや睡眠薬たっぷりの紅茶を差し出した。


「え〜、うれぴ〜。なんかドキドキしちゃう〜。そうだ! お菓子持ってきたんだ。いっしょに食べよ〜」


 ミミはそう言ってかばんからいろいろ取り出した。


「まふぃんに、どーなつに、ちょこれーとなのだー!」


「お、いいねえ。手作りか? この世界では甘い物食ってないな〜」


 オレはマフィンを頂くことにした。


「あ、うま〜! マジうまいこれ。ミミの作ったお菓子さいきょー!」


「うん、どんどん食べてね! どーなつもオススメだよ? ミミも食べよーっと、あ、紅茶いただくね」


 ミミもドーナツを食べながら、紅茶をすすっている。これで眠るのも時間の問題だろう。チョロいチョロい。おれも、ドーナツを頂くことにした。


「ねえ、さっき誰か来てた?」


 唐突にミミがそんなことを言うので、オレはドーナツを吹き出しそうになった。


「え、何が? 誰も来てないよ? そんなことよりこのマフィンさいっこーだよ」


 オレは適当なことを言いながら、ミミが眠りこけないか観察していた。


「ふふ、もしかし、ミミがそろそろ眠らないかな〜って、思ってる?」


 ミミが一瞬何を言ったのか、理解ができなかった。


「……へ? な、なんて?」


「ミミもね。同じだよ。ふふ」


「お、おい……な……なにを……」


 オレはなぜかうまく喋ることができず、そして、だんだんと意識は遠のいていった。

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