第37話 真相


 月見里やまなし美海みみが持ってきたお菓子を食べて雨宮は眠りこけてしまった。計画通りだ。


 おれは、透明化を解除して姿を現した。


「作戦成功だな」


 月見里は、右手でピースサインを作ってニッコリと笑う。


「この雨宮クズ、自分は人に睡眠薬を盛るくせに、人の出したお菓子は疑いなく食べるの。ちょーうけるんだけど」


「確かに、こんなにあっさりといくとはな」


「うまくいったようだな」


 隣の部屋から女剣士のジュリアンが顔を覗かせる。


「ええ、もう大丈夫ですよ。みなさん、芝居がうまくてビックリしましたよ」


 隣の部屋へ行くと、ジュリアンの他に三人の女性がいた。そのうち一人はサラという女性だ。


 みんな、雨宮の出した睡眠薬入りの飲み物を飲んだが、事前に耐性薬を飲んでいたため実は効いてなかった。寝たフリをしていたのだ。


 全ては、雨宮を追い詰めるためのおれたちの作戦だったわけだ。


 真相はこうだ。




 昨日、雨宮流星の部屋に侵入したおれは、透明状態のままずっと行動を監視していた。


「ちょっとリュウセイ! 私以外にも女がいるんでしょ!? こんなにお金あげてるのに、いつになったら私のところにきてくれるの?」


 サラが雨宮に会いに来てもめている間も、おれはずっと近くで見ていた。そして彼女と別れた雨宮が犯罪組織のボスと密会している時もずっとその場にいたのだ。


「明日の夜できるだけ女をウチに集めておくから。頃合いを見て来てくれ。そうだ。睡眠薬みたいなものはないか? あったらコトがスムーズにいくんだが」


「……用意させよう。しかしガキのくせに人身売買を企むなんざ、末恐ろしいぜまったく」


 雨宮は最低最悪のクズだった。女性を利用するだけして利用価値がなくなれば奴隷商に売り払ってしまおうというのだ。こんな現場を見てしまってはなんとしても阻止しなければいけないと考えたおれは、さっそく動いた。




 次の日、雨宮の被害にあいそうな女性の中で唯一居場所がわかりそうな月見里を探すことにした。冒険者ギルドに行ったところ、さっそく月見里を見つけた。おれはさっそく昨日の雨宮のしていたことを、彼女に事細かに説明した。


 急に話しかけてきたおれに、月見里は警戒しつつも、話をしていくうちに聞く姿勢になってくれた。


「もー! 雨宮くん、ミミと会ってない時間何やってるのかわからなかったし、聞いても答えてくれなかったけど、そーゆーことだったわけね!」


 話を全て聞き終わった時には、月見里の様子に恋する乙女の要素は一欠片もなくなっていた。


「あのクソ野郎! ミミを騙してたわけね! 許さない! ぜったい! 破滅させてやる!」


 こうして、どうにか月見里を説得して味方につけることに成功した。そして結果的に月見里を最初に誘ったことは功を奏した。


 彼女の能力、乙女のヤンデレ黒魔法ナイトメアは最高峰の黒魔法を習得できるという能力だった。相手へのデバフという魔法の特性上、対象への感情次第で効果がものすごくあがることもあるらしい。


「この魔法はね、ミミのお菓子作りの趣味と組み合わせたとっておきなんだ」


 ミミは自分の手首をナイフで少し切りつけると、出てきた血液を生地に混ぜていた。この世のものとは思えないお菓子作りに、おれは戦慄していた。


薬物生成スイーツパラダイスはミミの血液をお菓子に混ぜることで様々な効果が期待できるんだよ♡めまい、嘔吐、下痢、幻覚症状、睡眠状態なんかにもできるよ♡」


「そ、そうか。すげえな……」


「影山くん、味見する?」


「──冗談だよな?」




 おれと月見里は夜になると、雨宮の家の前で張り込みを開始した。結局女性たちの居場所はわからないので、ここで待っているほうが一番いいと考えた。事前に雨宮の家の時計をコッソリと30分早めておいたうえで、おれたちは来る女性たちを説得する作戦だった。


 最初に雨宮の家を訪れたサラを15分かけて説得した。彼女はおれたちのことを最初は怪しんでいた。それもそうだろう。だけど雨宮に金を貢いでいた同じ立場の月見里が中心となって、雨宮の本性を伝えてくれたことで説得することができた。


「やっぱり! そんなひどい男だったのね! アイツは!?」


「そうなんだよ! ミミたちを奴隷として売り飛ばそうとしてんだよ。信じらんないよね!」


 こうしておれたちと打ち合わせをしたサラは、眠る演技をすることを了承した上で雨宮の家に入っていったのだ。


 それを残りの三人にも続けたわけだ。


 次に来たジュリアンなんかは、雨宮の裏事情を聞いた途端、剣を抜いて家に突撃しようとしたので止めるのが大変だった。




「さて、そろそろ雨宮に目を覚ましてもらおうか」


 おれたちは、雨宮を椅子に縛り付けた上で起こした。

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