第38話 非情なる復讐劇の始まり


「おい! これはどういうことだ! なんで縛られてんだ!?」


 雨宮は目を覚ますなり叫んだ。周りに自分が眠らせたはずの五人の女性たちがいるのを見てどう思っているだろうか。彼女たちを見渡して状況を把握しようと必死なようだ。


 おれは透明化状態のまま、そばで見ていた。


「サラ! ジュリアン! 月見里やまなしも! なんで! お前ら眠ったはずじゃ!?」


「やっぱり飲み物に睡眠薬いれてたよね。それなら効いてないよ〜」


「しまった! 違う! オレの勘違いだった! とりあえず話し合おうじゃないか。この縄を解いてくれ!」


「それはムリ。とりあえずミミたちに何をしようとしてたのか、あんたの口から説明してよ」


 自分に向けられている眼差しが敵意に満ちていることを感じ取ったのか、雨宮は急に弱気な表情になった。おそらく演技だろうが。


「頼むよぉ! ジュリアン!! まず解いてくれないと冷静に話すことなんて出来ないよ! な?」


 一番情に弱そうなジュリアンに訴えかける作戦だ。


「リュウセイ。無駄だ。私は今すぐお前を切り裂きたくてたまらないのだ。口を割らないのなら、この大剣で頭を割ってやろうか?」


「ひ、ひええぇ!」


 自分を溺愛していた時とは、180度異なるジュリアンの態度に雨宮はビビり散らかしていた。


「ま、待ってくれ! な? な?」


「いいから説明しなさいよ。自白剤入りの薬物スイーツ食わせるわよ?」


「ひ、わかったよ。誤解なんだ! 闇ギルドの奴らに脅されてやったんだ! オレも被害者なんだよ」


 なるほど、雨宮は犯罪組織、常闇のダークネス旅団マフィアに責任転嫁する作戦のようだ。


「オレはアイツラに借金があったんだ! それも病気の薬を買うために借金したんだ。別に遊びの金じゃないぞ? それで、金を返せないなら別の方法で返せって言われて……」


「だからなに? は? それでミミたちを売ろうとしたわけ?」


 月見里が冷静に突っ込む。なかなか苦しい言い訳だ。結局は人身売買をしようとしていたのだから。まあこの言い訳はアタマからウソなわけだが。


「違う違う。ルチアーノってボスに脅されてやっただけで、オレはお前らを売るつもりなんてなかったんだ!」


 雨宮は涙を流しながら必死に演技を続ける。


「とりあえず眠らせてルチアーノたちを呼んだ上で、アイツラをボコボコにするつもりだったんだよ。もちろんお前たちはあとでみんな助けるつもりだった! あくまでルチアーノたちを倒したかっただけなんだ!」


「あのね……だいたいあんた能力持ってるんだから、常闇のダークネス旅団マフィアなんて簡単に潰せるわけでしょ、だから脅されたなんてウソじゃん?」


 その時、雨宮は何かを閃いたようだった。


「そ、そうだ! オレには能力があったんだ! アッハハハ! 忘れてたぜ! こんな椅子に縛り付けられていてバカみたいだ!」


 雨宮はこの雰囲気に飲まれて忘れていたが、自分に能力があることをついに思い出したようだ。


「お前たち! オレをこんな目に合わせやがって! 覚悟しろよ!?」


「どうしたの? 急に調子よくなって」


 月見里は表情を変えずにそう答える。 


「バカが! お前らにはちゃんと言ってなかったよな! オレの能力は超新星スーパースター、身体能力、五感、治癒力が大幅に強化されるスキルだ! つまりこんな紐なんてちょっと力を入れれば……ふん!」


 雨宮の能力はいわゆる超身体強化、大方予想通りだった。そして純粋な強化能力ほどやっかいなものはない。弱点らしい弱点がないからだ。


 だが実はこれも問題ない。なぜなら雨宮の能力はすでに失われているからだ。


「ふんぬぬぬ!」


 雨宮は体に力を込めて縄を千切ろうとしているが、なかなかうまくいかないようだ。


「なぜだ! こんな紐ごとき切れないはずが……! くそっ! 体に力が入らねえぞ。どうなってる??」


 月見里がニヤリと笑う。


「あんたが二つ目に食べたどーなつはね、ミミのとっておきの呪いが込めてあるんだよ♡ 相手の能力を封じ込んで、使えなくするの。その代わり、ミミもと〜っても痛い思いしたんだからね!」


 痛い思いというのはリストカットのことだろうか。確かに彼女は手首から出た血液を生地に混ぜていた。おれは彼女の作る様子を見ていたので、普通におやつとして作ってくれた何の効果もないお菓子にも、まったく手を付ける気にはなれなかった。


「ふ、ふざけんな! 能力を封じ込めただと!? そんなことできるわけが! くっそおおおおぉ!」


 雨宮はなおもふんばるが縄が切れる様子はない。彼の能力は完全に封じられていた。


「てめーら! 絶対許さねーからな! オレに手を出すとひどい目にあうぞ! 闇ギルドの連中が黙っちゃいねーんだからな!」


 雨宮がなおもイキる様子を見て、月見里はおもむろにナイフを取り出した。


「そーだ! 黒ひげ危機一髪ゲームしよっか♡」


「は?」


「まず、ミミからねー。えい!」


 グサッ!


 月見里はなんのためらいもなく、雨宮の左目にナイフを突き刺した。

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