第32話 終焉
二週間ほど経った今でも三人の目撃情報は出ていないため、町を出ていったものだと思われる。姫崎の能力が解かれ正気に戻ったウォーラン公爵はゴブリンたちの手を借りて屋敷を再建していた。
おれは、近況を聞くためにウォーラン公爵の屋敷を訪れていた。ウォーラン公爵は忙しそうにしていたが、話をしてくれた。
「ゴブリンたちはとても働き者で助かっています。まさかこんな形で他種族と共生することになるとは思いませんでした」
「それはよかったですね。しかし、姫崎たちを逃したことはやはり悔やまれます」
「まあ、でも人間でなくなったのなら安心ですよ。もう私のように惑わされる人が出ることもないでしょう。影山さんにも本当に感謝していますよ」
「いえ、そんな。おれはただゴブリンたちの力になりたかっただけです」
ゴブリンたちのリーダーとも話をした。おれが心配しているほど、彼らは復讐に燃えている、というわけでもないようだ。
「いつまでも復讐のことを考えても仕方ありません。我々は我々の幸せのために精一杯生きていくのです。そして、今後もいっそう人間と交流を深めて行くことが大切でしょう」
「そうですね。その通りだと思います」
「よりよい未来に向かって進む。それだけですよ。父親を失ったあの子もきっとたくましく育ってくれることでしょう」
リーダーはそう言って一人のゴブリンの子供に目をやる。姫崎たちに矢を打たれ腕をケガをしたゴブリンだ。闇医者の懸命な治療によりなんとか腕が動くレベルまで回復した。後遺症の心配もないらしい。行商人だった父親を殺されその子は、今はゴブリンのコロニーの中で役割をもらい、リハビリをしながら前向きに生きているようだ。
その後、屋敷を後にしたおれは、ターニャの元へと帰った。実はターニャの家には、あの猫がいる。ウォーラン公爵の家から姫崎たちに追い出された猫。ケガが治った後も、結局おれたちが引き取ることになった。
「ターニャ、ナイトの様子はどうだ?」
「元気にしてるよ。とっても」
「そっか。よかった」
猫の名前は『ナイト』と名付けた。強く逞しく生きて欲しいという理由からだ。
「ネズミ族のボクの家に猫がいるなんて、友達はみんなビックリしてるよ」
「あはは! それは確かに」
「この猫、ホントにいい眼をしてるね。なんだか力強くて、不思議な眼」
「うん。なんかいい血統らしい」
「そういえば、最近ここら辺をしゃべる犬が歩いてるって聞いたけど、涼介、なんか知ってる?」
「え、ホント!? 探してたんだよ、その犬」
おれは、堂島の能力によって人面犬に変えられてしまった担任の先生を探した。すると獣人地区の路地裏ですぐに見つけることが出来た。
「先生、こちらにいたんですね。やっぱり体は犬のままなんですね」
「ワン! お、おお。影山か。聞いたぞ? 姫崎と堂島に何かしたらしいな? あいつらあの屋敷からいなくなっていたぞ」
「あはは、まあいろいろありまして」
「そうか。まあ、先生は何も言わんよ。この世界で犬として生きていくことに決めたからな」
「そうですか。そういえば先生、犬になる前にケガしてたんですよね。山田に効きましたよ。誰にやられたんですか?」
「ああ、それは……細井だ」
細井良夫、意外な名前が出た。そういえば、山田が探していたな。
「え、細井って……そんな暴力振るう感じでしたっけ?」
「なんだ知らんのか。そうか。そういえばお前学校来てなかったもんな」
そういえば、か。そうだよな。おれが不登校だった時、この先生は一度も家に来なかったな。おれのことなんて忘れてると思ってたが。
「細井なぁ、あんな生徒じゃなかったんだけどな。他の悪い生徒たちに感化されてアイツもだんだんと暴力的になっていってなあ」
「そうだったんですね……細井はどこにいるかわかりますか?」
「いや、わからんなあ。そういえばあいつなら見たぞ。雨宮! 雨宮流星!」
「夜になると、酒場通りで女性と歩いているのを何回か見たな。それもいつも違う女性なんだ。あいつ一体何をやってるんだ?」
姫崎にしても雨宮にしても、なぜ
「先生、おれ、他のクラスメイトを探して会ってきます。姫崎のこともあって、他のクラスメイトたちがどんな生活をしてるのか見ておこうと思って」
おれは、そう言って先生と別れた。
次の目標は、とりあえず他のクラスメイトに会うことだった。
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