復讐は異世界で! 〜問題児ばかりのクラス転移。異世界で悪行を働くクラスメイトたちに、チートスキル【透明化】を駆使して制裁を加えます〜

猫宮うたい

第1話 最低最悪のクラス


「弱いものイジメはやめろ!」


 おれは叫びながら郷田ごうだの前に立ちはだかった。いじめられている細井ほそい良夫よしおとはそんなに仲が良いわけでもなかったが、見過ごせなかったのだ。


 キョトンとした顔で、おれを見てくる郷田とその取り巻きたち。


「……ぎゃーはっはっは! おい、なんだお前! 正義の味方のつもりかよ!? ……てかこいつ誰だっけ」


 郷田が耳障りな声で取り巻きを見回しながら叫ぶ。


「あれ誰? 影薄すぎて覚えてないや」

「あいつ影山じゃん? 喋ってるとこ初めて見た。キモッ」

「郷田に逆らうなんてな、タヒぬぞアイツ」


 周りのクラスメイトたちのおれに対するそんな声が聞こえてくる。先日二年生になりクラス替えがあったばかりでほとんどどんなやつらかわからない。少なくともおれの味方はいなさそうだ。


「お前のやってることはイジメだよ。そういうのよくないからやめろよ。郷田」


 自分よりも体格のよい郷田の目を見上げて、はっきりそう言ってやった。


「てめえナマイキだな! 俺様に指図するんじゃねえ!!」


 ──いきなり掴みかかってきた郷田は、平均的な中学生の体格であるおれを軽々と持ち上げる。


「うおらああぁ!」


 ドシン!


 おれは床に押し倒された。


「くぁ! いってっ!」


「おい! てめぇ弱いくせに吠えてんじゃねえぞ! 俺様に逆らうんじゃねえ! 土下座して謝れ!」


(はっ!? ふざけんなっ!)


 と思っておれは、立ち上がろうとした。


 バキッ!


 ──なんと、郷田はおれの頭を踏みつけてきたのだ。


「おらおらぁ! 床に這いつくばれ! このカスが! ぎゃーっはっはっは!」


 なおもグリグリとおれの頭を踏みつける。


「おい! お前らもやれぇ!」


 郷田の合図で、何人もの男子がおれの身体中を踏みつけてきた。


 ドカッ! ボカッ! ズカッ!


「クスクス……なにあれ、ざっこw タヒぬんじゃないアレ」

「別にいいんじゃん? ノリでしょ」

「マジで土下座してたよキモッ!! タヒねばいいのにw」


 遠くで女子たちのそんな声が、笑い声と共に聞こえる。


(おれは、間違ってねえ! おれは……! おれは……!)


 その時、郷田が声を上げた。


「そうだ。おい、お前もやれよ、良夫!」


「ひぇっ、ぼ、ぼく!?」


 細井は急に声をかけられて、悲鳴にも似た声を上げた。


「くっ、ほ、細井……?」


 おれは、痛みにもだえながら細井の方を見上げた。


 すると、さっきまでとは別人のような冷たい目をした細井が、おれを見下ろしていた。


 ドガッ!


「ぐわっ」


 細井は容赦なくおれの頭を踏みつけてきた。体重を乗せてしっかりと。


「ワハハハ! いいぞ良夫! もっとやれやあ!」


 郷田が下品な声で煽る。


「細井っ! や、やめ」


 細井の顔を見上げると、彼はメガネの下で確かに笑っていた。



 ──この時、おれの心は完全に折れた。



 クラスメイトたちの下卑た笑い声が、教室中に響き渡っていた。




 次の日、学校へ行くと上履きがなくなっており、教科書も全部破られ捨てられていた。おれのあだ名は『ハゲ山』となり、クラス中から様々なイジメを受けた。


 何日かして、おれは学校に行かないことに決めた。


 これが、中二の春のことだ。




 あれから半年が経ち、おれは今、異世界にいる。




 目の前には探していた猫がいた。


(よし、ようやく見つけたぞ……。今回のクエストのターゲット)


 こいつは相当逃げ足が早い。並のスピードじゃ追いつけないのだ。


 しかし、おれには関係なかった。


 気配を消して、後ろから近づくと、いっきに捕まえた。




「すっごいねアンタ! 誰も捕まえられなかったウォーラン公爵のペットを捕まえるなんてね!」


「いやぁ……はは。たまたまですよ」


 冒険者ギルドにクエスト達成の報告に行くと、姉御肌の受付嬢がべた褒めしてきた。一ヶ月間、誰も達成できなかったクエストをおれが一時間で達成したことに驚いているらしい。


 周りの冒険者たちもざわついている。そんな大したことはしていない。ただ猫を一匹捕まえただけなのだが。


「ほれ、報酬の40万ゴールド! これでいい装備でも買いなよ! 新米勇者君!」


 駆け出しの冒険者が手にするには破格の報酬だ。依頼主が公爵家だったためだ。他の者もうらやましそうにおれを見ていた。


(よし、これでしばらく食べ物には困らないぞ! 服もこの世界観に合ったものに新調するか!)


 三日前に異世界に来たおれは、クエストをこなして冒険者として成果を出す道を選んだ。


 まだまだ慣れてはいないが、だんだんと異世界こっちのこともわかってきた。部屋着のジャージのまま異世界に飛ばされた時はどうしようかと思ったものだ。ここに来る前に女神と会話したような記憶があるが、夢だと思っていてあんまり覚えていなかった。


 しかし、たった一人で異世界に来たと思っていたおれに、運命の出会いが待っていた。




「ぎゃーはっはっは! ここか! 冒険者ギルドってのはぁ!」


 扉が乱暴に開くと共に、ギルド内に聞き覚えのある不快な笑い声が響き渡った。

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