因縁の出会い

第2話 郷田との遭遇


「へへ、ここだここだ! よーし、俺様のちからを見せてやるぜ!」


(え! 郷田!? なんでアイツがここに……)


 突然、冒険者ギルドにおれのクラスメイトの郷田と、その取り巻きのような二人(名前は忘れた)が入ってきたのだ。


「ねえ、郷田。簡単なクエストにしようよ?」


「ああん? ケンタぁ! ビビってんのか!?」


「いやいや、そんなつもりじゃ……僕あんまり強くないしさ」


「よし! この上級討伐クエストにするぜ! おい、マリエ! 女神から授かった能力の強さを見せてやるからな!?」


「あーしはなんでもいいよー! ノリでいこ、ノリでー!」


 郷田たちは、大声でイキり散らしながら掲示板の前でアレコレと喋っていた。ギルドの受付嬢や他の冒険者たちが迷惑そうな顔で見ているが、彼らは気にもしない。あの頃の教室での態度となんら変わりはない。


 おれは、そんな彼らをすぐそばで見ていた。


 そう、本当にすぐそばでだ。


 もちろん、彼らはおれには気づかない。


 これがおれの能力:沈黙のシャドウ黒歴史アンタッチャブル、他の生物から姿が見えなくなる。姿を現すのも消すのも、自由自在に切り替えることができる。半年間自宅に引きこもっていてコミュ症になり、そのまま異世界に来たおれにとっては出たり消えたりできることは都合のよい能力だった。


 しかし、まさかこんなところで一番会いたくない知り合いに出くわすとは思わなかった。


 郷田たちは冒険者の列に割り込み、無理矢理クエストを受注していた。受付嬢も困っていたが、誰も何も言えないでいた。


「おら! どけどけ! 勇者様のお通りだぞ! ぎゃーはっはっは!」


 そしてそのまま、大声でわめきながら冒険者ギルドを後にした。


 郷田たちが出て行った後、酒場にいた他の冒険者たちが、彼らのことを話し始めた。


「ちっ、調子に乗りやがってなあ、態度でけーんだよ」

「おい、悪く言うのはやめとけ。あいつら勇者だろう。女神とか言ってたし」

「ひいぃ、こえぇ。きっととんでもねえ能力を持ってるに違いない」


 この異世界では、転移、転生してきた者たちは勇者と呼ばれて一目置かれているようだ。女神によって選ばれた存在で、特別な能力が備わっているというのも周知の事実らしい。




 おれは冒険者ギルドを出て、郷田たちを追いかけることにした。


 郷田たちは通りのど真ん中を堂々と歩いている。街の人々は彼らを避けて歩いていた。


 おれは透明化して気配を消しながら彼らに気づかれることなく、すぐ後ろを歩いていた。


(郷田……相変わらずひどい態度だな……)


 郷田たちも異世界に来てからそんなに時間は経っていないはずだ。冒険者ギルドを知らなかったくらいなのだから。だとすると、やはりおれと同じタイミングで転移してきたのだろうか。もしかするとクラスメイト全員が異世界こっちに来ているのかもしれない。


 ──その時、通りを走ってきた少女が郷田とぶつかった。


「いっっってえなぁ! おい! 何すんだてめえ!」


 郷田は少女に向かって大声で怒鳴りつけるも、少女の方はあっけらかんとしていた。


「ご、ごめーん! でもフラフラ歩いてたのそっちじゃん!」


 その少女の態度を見て、郷田は怒り狂った。


「なんだと……ふざけんな! 俺様を誰だと思ってやがる!」


 郷田は少女に向かって拳を振り上げる。


「きゃー!!」


 少女は郷田のパンチをかわして、とっさに路地に逃げ込んだ。郷田たちはその後を追いかける。おれもすぐにその後を追いかけた。




 路地裏は先が行き止まりになっており、少女は追い詰められていた。


「逃げ足の速い女だ! へっへっへ! だが、追いついた。責任取ってもらうぜ?」


「ちょっとぶつかっただけじゃん! なんだよ責任って!」


 少女は強気な言葉を浴びせた。しかし、それは郷田には逆効果だ。


「俺様を怒らせた責任だよ! ナマイキな女にはしっかりとわからせてやるよ! おい! ケンタ! この女を押さえつけろ!」


 郷田は、ケンタに向かって命令した。するとマリエが郷田にこう言った。


「つーか、この女、ナマイキじゃん? 軽くボコったほーがよくね? あーしにもやらせてー」


「だな! 俺様たちに逆らうとどうなるか、教育しねえとな! おい、ケンタ。しっかり押さえつけろよ!?」


「アイアイサー!! 教育教育ー!」


 郷田たちは下卑た笑いを浮かべながら、少女に歩み寄った。


(こいつら……全員クズだな)


 おれは、グッと歯を食いしばって、少女に近づこうとするケンタを思いっきりぶん殴った──。


 ドガッ!!


「おぶううぅ!」


 ケンタは、吹っ飛んで壁に激突した。ケンタを殴ると同時におれの透明化は解除された。他人に触れると強制的に解除されるのだ。


 そして、振り向きざまにキョトンとしているマリエの足元に、蹴りを入れてすっ転ばせた。


 ガッ!! ステンッ!


「きゃああぁ! いったーい!」


 マリエはすっ転んで地面に尻を打っていた。


(よし、ここまではなんとかうまくいった!)


「……んなっ! てめえは……」


 そして、郷田と目があった。


 ヤツはあっけにとられた表情をして、おれを見ていた。


 しかし、その顔がすぐに鬼の形相に変わっていった。


「てんめええええぇ! ハゲ山ぁ! なんでここにいる!?」

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