第52話 西園寺の最後


「すげえパワーだ。体に力がみなぎってくる!」


 おれは、細井の体から落ちた魔石を体にはめ込んでいた。1個持つだけでも数倍のエネルギーが溢れてくるという魔石だ。8個も持っていると想像を絶するほどのパワーが体の内側から溢れてくるのを感じる。


「くっ! なんだ! なぜ君が魔石を!? いつの間に!?」


 西園寺が鼻を押さえながら叫んだ。その顔は痛みに引きつっているようだ。


「西園寺!? おれはさっきお前にただふっ飛ばされてたわけじゃねえ! ちゃんと魔石の落ちている方向に吹っ飛ぶように誘導してたのさ。そして気づかれないように魔石を集めたんだよ」


「な、なんだと……」


「普通に魔石を拾ってたらバレバレだからな。だが危なかったぜ。正直痛みで意識が飛びそうだったからな」


「そ、その魔石の力、あなどっていたようだ……。まさかそれほどまでのエネルギーだとはな……」


 西園寺は細井の能力をナメていたようだ。だが、実はそれは正しかった。


「いや、細井の魔石の力はそんなに大したことなかったぜ。だがこれは少し違うんだ」


「な、どういうことだ……?」


「この魔石はさっき細井の体についてた時よりも数倍パワーアップしてるようだぜ。なぜならあいつは死ぬ間際、お前に裏切られたことを知ったことで憎悪を募らせていた。それが呪いのように作用してヤツの能力をレベルアップさせたんじゃないかな」


「そんなことが……」


「実際、この魔石からは負のオーラがビンビン感じるからな。これを長いことつけてたらおれもヤバそうだぜ」


「影山くん、君はやはり違う。他の奴らとは……ね。俺の見込みは正しかったようだ」


「なんだよいきなり、今更ほめても容赦しねーぞ」


「フフ、だが残念だったね。さっきから君が見せてくれたその透明になる能力。ようやく俺も使えるようになったよ」


「なんだと!?」


「それだけ散々見せられれば、さすがに把握したよ。沈黙のシャドウ黒歴史アンタッチャブル、発動!」


 西園寺がそう叫ぶと、忽然と姿を消した。


(マジかよ。まさかおれ自信の能力がコピーされるとは……)


 こんな展開は思ってもみなかった。実際に敵が目の前から消えるというのは恐怖でしかない。逃げるつもりなのか、どこかから攻撃してくるつもりなのか、それすらわからないからだ。


 おれは額にかいた汗を腕でぬぐいながら、ウロウロと辺りを歩くことしかできない。


(と、とにかく止まってちゃダメだ。狙われちまう)


 その時、後ろから気配がした。


「えっ」


 振り向いた瞬間、西園寺の姿が現れる。


「しまった──!」


 西園寺の手にはキラリと光る長い物があった。刀だ。


「残念でした……」


 シュバッ!


 ヤツが刀を振り払うと、おれの腹に鈍い痛みが走る。


「ぐわあぁ!」


 !!!!


 その時、気づいたおれは、右足で踏みとどまり、すぐさまヤツの首元めがけてカウンターの肘を入れた。


 グシャ!


 思いっきり肘を入れると、西園寺はひっくり返って悶絶した。


「があああああああっっ! がああっっ!!! な、なんでだ! 思いっきり腹を切ったはずなのに! なぜ反撃できるんだ!?」


 おれの腹は切れていなかった。


「お前の刀はこれに当たったんだよ」


 おれは体に埋め込んだ魔石を指さした。その魔石はほんの少し欠けていた。


(ありがとな。細井)


「おら! これは細井の分だ。もう一発食らっとけ!」


 おれは右足を思いっきり振りかぶると、西園寺の顔面めがけてシュートした。


 ズギャン! ゴキッ!


 首の骨が折れたんじゃないかってくらいヤバい音を立てて、西園寺は5メートルくらい吹っ飛んで柱に激突した。おそらくどこかしらの骨は折れただろう。


「……」


 西園寺は首を変な方向に曲げて、倒れ込んでいた。


「西園寺……おい、まさか、死んだか?」


「バカめ! これくらいで死ぬか! それより自分の体を見てみろよ」


「えっ」


 おれの体に埋め込まれた魔石はボロボロと砕け散り、チリとなって地面に落ちていった。


「な、なんだこれ……どうして」


「バカが。俺は細井の能力、魔石生成も使えるんだ。そしてその能力は、作ることもできるが壊すこともできる。だからお前の魔石を無効化したまでだ」


「くそ、マジかよ。お前、能力使いすぎだろ……」


 魔石が消滅したことで、増幅されていたエネルギーがしぼんでいくのがわかる。西園寺に勝てるかもしれないと思ったのも束の間、ヤツとの戦闘力の差が浮き彫りになった。


「さてさて、今度はその体、真っ二つにしてくれよう」


 西園寺はそう言って、いきなり立ち上がり、刀を抜いておれに攻撃してきた。


 カキーン!


 おれと西園寺の間に割って入り、刀を止めたのは女剣士のジュリアンだった。そして後ろには月見里やまなしもいた。

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