第6話 絶望の咆哮
仕事を終えて町に戻ったおれたちが目にしたのはとんでもない光景だった。
「きゃあああああ! 家が! ボクたちの家があああぁ!」
「こ、これは! いったい何があったんだ!?」
ターニャとブレッドさんが悲鳴にも似た声を上げる。
周りの家屋もほとんどが焼けていて、獣人地区全体が壊滅していたのだ。辺りは騒然としており、他の地区からの野次馬たちも大勢集まっていた。
焼け落ちたターニャたちの家、そして変わり果てた獣人地区。
「家が……家が……、おばあちゃん! おばあちゃんは!?」
「母さんは無事かー! 一体何があったんだ……」
「おおおい! こっちこっち! ブレッドさんところのばあさんは無事だー!」
他の人に教えてもらい避難所へ行くと、ターニャのおばあちゃん、そしてブレッドさんの兄がいた。
ブレッドさんの兄は大怪我を負っていた。見るからに重症だ。ブレッドさんは、そんな兄にかけより声をかける。
「兄さん! 無事か! 何があった!?」
「ブレッド! 帰ってきたか……、すまねえ、本当に……」
「兄さんがどうしてこんな目に! 誰にやられたんだぁ!?」
「めんぼくねぇ……。このザマだ。母さんも少しケガをしてる……金も盗られた……」
ブレッドさんのお兄さんの話では、異世界から来た悪党三人組にボコボコにされ、家に火を放たれたが、なんとか自分の母親だけは救出したらしい。
ターニャはおばあちゃんに泣きついていた。
おれはそんな光景を呆然と見つめていた。
ブレッドさんの兄はこう続けた。
「あいつ……虎のような体に変身したが、獣人じゃねえ。あれは勇者の能力だ……」
虎化する能力の異世界人、郷田だった。
(郷田たちか……あいつらなんてことを……)
「あいつら……誰かを探してるようだった……探すのがめんどくせえから火をつけると……」
(郷田たち……きっとおれを探してたんだ……おれのせいで……ここのみんなが……)
「ターニャ……」
おれは祖母を心配してすり寄っているターニャに声をかける。
「ん? なに、涼介」
「ターニャ、すまない。あいつらだ……これをやったのは、昨日おれたちを襲った郷田っていう奴らなんだ……すまない。ターニャ……おれのせいだ……」
「……そっか。でも涼介のせいじゃないよ……うううぅ」
ターニャは絞り出すようにそう言ってから、静かに泣き続けた。
おれは、郷田たちが許せなかった。あいつらに対するドス黒い感情のようなものが心の中にフツフツと湧いてくるのを感じた。
(許せねえ……郷田……)
「涼介くん……」
ブレッドさんが、声をかけてきた。おれは申し訳ない気持ちでいっぱいでどんな顔をしたらいいかわからなかった。
「ブ、ブレッドさん。すいません……おれのせいなんです。あいつらが探していたのはおれで、それでこんなことに……」
おれは言葉に詰まってうなだれた。ブレッドさんと目を合わせていられなかった。
「そうか。君がここに来たからあいつらが来たということだな……。だが私たちが君を恨むのは筋違いだ。真に恨むべきはこの悪行を犯した悪党どもだ──」
ブレッドさんはそう言って、両手を強く握りしめ、体を震わせていた。
「涼介くん、君も異世界から来た勇者なんだろう? 手を貸してくれ……」
(おれは、勇者なんかじゃない。ただの不登校の引きこもりで……)
ターニャとブレッドさんを交互に見た。
(いや、ここで、変わるんだ……)
おれはブレッドさんの目をまっすぐに見つめてこう言った。
「おれは、勇者です……悪を討ち滅ぼすためにこの世界に来ました!」
獣人地区の火災は、家屋が全焼全倒壊する被害だったが、幸いにも死者は出ず、怪我人が複数名出ただけですんだ。
後でわかったことだが、郷田たちは家屋を壊した際に中にあった金品も奪っていたようだ。放火、強盗、殺人未遂、とんでもない悪の所業だった。
これほどの大事件にも関わらず国からの援助などは何もない。また同じような被害がないように、町では兵士による見回りの強化が行われるだけだった。
「獣人族は少数派。立場は低いのだ。だから国側も犯人探しは本気ではやってくれないだろう。自分たちの身は自分たちで守るしかない」
と、語るブレッドさんの顔には静かな怒りがこもっていた。
「復興させたところで、おもしろがってまた襲撃にくることは目に見えている。だからこそ、こちらから動くことが大切だろう」
「その通りだ。我らアナネズミ族の誇りを見せてやろう」
「奴らは、人じゃない。獣ですらもない。悪魔だ」
「悪魔に制裁を……」
おれと彼らの思いは郷田たちへの復讐ということで一致した。
それから一週間が経ち、獣人地区の復興活動が進められる中、同時に郷田たちへの報復作戦も遂行されることとなる。
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