第49話 執着と裏切り
細井の動きは思ったほど速くはなかった。普通に目で追うことが出来た。それよりも恐るべきはパワーだった。
おれがナイトに乗り込んで透明化をするとすぐさま細井から距離をとった。細井はおれたちがいた場所の側にある柱を殴りつける。すると轟音を立てて柱は砕け散った。
そして倒壊した柱によって出入り口が塞がれてしまった。砕け散った柱の破片が辺りに飛び散る。その勢いは凄まじく飛び散った破片に当たるだけでも致命傷になったかもしれない。
「ヒヒヒ! 影山くん、もう逃げられないよ。見えなくたって攻撃する手段はいくらでもあるのさ。例えばこの砕け散った破片。これをだなあ」
細井はそう言いながら破片のいくつかを拾い上げると、無造作に部屋中に投げ出した。
「どりゃああ! どこにいる!? 出てこいよ! 影山くん!」
ビュン! ビュンビュン! ビュン!
すごい勢いで鋭い破片が飛んでくる。ナイトは必死に避けていた。避けるだけで精一杯で細井に近づくことが出来ないでいた。
「あれ当たったらヤバいよね! リョウスケ! 確か実体を消すこともできるんじゃなかったかい?」
ナイトがいい質問をしてきた。
「そのとおりなんだが、今はなんとか避け続けてくれ。君を透明化していることが精一杯でいっしょに実体を消すことまでは今は出来ないんだ」
「そうなのか。それは残念だ。いつまで避けてればいい!? やつが疲れるのを待つのか? たぶん僕が先にバテちゃうよ!」
おれはなんとか活路を見出すために必死だった。こんな時にターニャがいてくれたら、なんて言ってくれるだろうか。なにかアドバイスをくれるだろうか。
「いつまで隠れていられるかな? 僕の体はエネルギーに満ち溢れているからあと1時間は続けられそうだよ。その間に君たちが降参するのが得策だと思うよお!」
降参したところで命の保証はない。なんとかして止めるしかないのだ。暴走した細井を冷静に観察した。
動きにムラがある。おそらく体に内包するエネルギーが大きすぎてうまく自分の体をコントロールできていないようだ。
「ナイト。なんとか細井の背後に回ってくれ。考えがある」
そして、おれを乗せたナイトは広間の中を縦横無尽に駆け回り、なんとか細井の背後をとった。
おれは背後から声をかけると、細井の顔に手を伸ばした。
シュッ!
ちょうど振り返る細井の顔面に手をかけて、彼のメガネを奪い取る。細井の視力は相当悪かった。その顔がメガネのレンズ越しに歪んでいるくらいだ。
「うわ、何をする! メガネが!」
メガネが無くなった細井は、周囲の状況がわからないのだろう。フラフラと体を前後させて、立っているのがやっとなようだ。
「影山! よくも僕のメガネを! 卑怯じゃないか! 君らしくないぞ!」
おれらしくないだって? こいつはおれの何を知っているというのだろうか。
何も見えてない細井に気づかれないように近づき、ナイトの鋭い前足で体に埋め込まれている魔石をぶんどった。
ゴリッ!
鈍い音と共に、細井の体から魔石が吹っ飛んだ。
カラン、カラン、カラン!
「ぐわあぁ! 何をした! 魔石が! 僕の魔石があぁ!」
こいつを強化している魔石を取り除けば弱体化するはずだ。
その後も何度も近づいては、細井の体にハマっている魔石を攻撃して取り除いた。
細井とは別に仲良かったわけでもない。だが、あの時郷田にいじめられている細井を見過ごすわけにはいかなかった。だがそれが思わぬ形で跳ね返ってきたことにショックを受けた。でも今なら大丈夫。すべてを許して次に進める。
カラン! カラン! カラン……。
最後の魔石を取り除いた時には、細井は疲弊してなのか、弱体化したからなのか、もはやフラフラだった。
「影山あぁ! どうして僕をいじめるんだ! 君も郷田と同じじゃないか! どうして僕を、みんなどうして僕をいじめるんだよおおおぉ! 西園寺くん! 助けて! 西園寺くん、助けてええええ!」
半狂乱になった細井は、ようやく黒幕の名前を口にした。西園寺、やはり一番の元凶はやつだった。前から抱いていた疑念が確信に変わった。
「細井! もう終わりにしよう!」
おれは、正気を失って立ち尽くしている細井を思いっきり殴り飛ばした。
ドガッ! バターン!
吹っ飛んだ細井は、うめき声をあげながらも、すぐに起き上がった。だが、勝負はすでについていた。
「細井、おれは前に進む! だからお前も、今後は自分の道を自分で切り拓け! 誰にも頼らず、自分で考えた道を進め」
「うるせー! 影山! 何を偉そうに! 僕は西園寺くんに認められたんだ! 彼は僕を必要としている! 僕はこの世界で西園寺くんと共に──」
ザシュッ!
その時、細井の胸から剣が飛び出した。彼の背後から投げられた短剣が背中に刺さり、胸を突き破ったのだ。
「ぐはあぁ! な、な……あああぁ!」
ブシャー! ボタボタボタ……。
剣が突き刺さった細井の胸からは勢いよく血が飛び出した。そして、細井は口から血を吐き出して倒れ込む。
細井の背後に立っていたのは西園寺だった──。
「やれやれ、無能ばかりで困る。本当に使えないやつばかりだ」
「西園寺、くん……どう……して……」
倒れながら背後を振り返った細井は、自分に剣を投げた者が西園寺だと気づいて動揺を隠せない様子だった。
「はぁ、細井くん、君はゴミだ。自覚しろ。そして死ね──」
西園寺は恐ろしく冷たい声で、ひれ伏している細井にそう告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます