第50話 細井の最後


「西園寺くん、どうして……僕を──」


 ゴブホォッ!


 細井は血を吐き出しながら、声を絞り出していた。


「はぁ、君には失望してばかりだよ。細井くん。いや、むしろ俺にも責任があるんだと思う。だから最後はせめて俺の手で君を葬ろうと思うんだ」


「そんな、僕はずっと君のために……」


「愚かだね。一丁前に俺のために何かしていたつもりなのかい? あいにくだけど俺は誰の手を借りなくても目的を遂行できる。なぜなら有能だからだ」


 両手を広げ自信に満ち溢れた表情で喋る西園寺。彼の態度には恐ろしいまでの傲慢さと欲深さが現れていた。。


「西園寺……くん……」


 細井はそう言ってうつ伏せに倒れ込んだ。どうやら息を引き取ったようだ。


 クラスメイトが死ぬのを目の前で見ても、なぜかおれは落ち着いていた。そしてそれは西園寺も同じだった。


 そんな彼と目が合う。


 実は、まともに彼と対峙するのは初めてだった。教室でも一度も喋ったことはない。だが親が莫大な金と権力を持っている西園寺はクラスの中で一目置かれていた。


「西園寺……なんで細井を……」


「影山くん、君とこうして喋るのは初めてだよね」


「あ、ああ……」


 細井が死んだことなどもはや過去のことのように、西園寺は落ち着き払って語りだした。


「細井くんは、非常に優秀な能力を持っている。だが、彼自身は別に必要ないんだ。失敗続きだったしね。いい機会だから僕の手で処分を下したまでさ」


 答えになっているようでなっていない。正直意味がわからなかった。そんなおれの心うちを態度から悟ったのか、西園寺は口を開いた。


「俺は、細井くんの能力を使えるのさ。だから彼はもういらない」


「まさか……コピー能力か!」


「少し違うが、まあそんなもんだ。俺の能力は才能の資質ギフテッド。他人の能力を見たり聞いたりするだけで習得することができるんだ」


「そうかよ、まさに才能の塊だな。だけど仲間を殺す理由にはなってねえよ、それ」


「そこのゴミは別に仲間じゃない。俺には仲間などいらない。己の能力さえあれば、あとは忠実に動く下僕がいれば目的遂行には十分だ」


「細井は最後までお前のこと信じてたぜ!? 西園寺! それなのにお前は細井のことをゴミだっていうのか!?」


「そうだな。俺以外の人間はゴミクズだ。何か間違ってるとでも?」


「そうかよ。まあお前のことなんてどうでもいい! それよりターニャを返せ。お前が連れ去ったことはわかってんだ」


「自分で探したらどうだい? どこにいるかわかるならね」


「教えろよ。クソが!」


「嫌だね。まずは俺と遊んでもらうよ。せっかく俺が構ってやろうと言ってるんだ。無視することは許さない」


「っけ、わかったよ。お前に勝てばいいってことだ。そしてターニャを取り戻す」


「本当に君はおもしろいよ、影山。どうしてだろうな。俺は君に少し興味をもったようだ」


 西園寺は何を言っているんだろう。正直こいつのことはつかめない。クラスでも優等生ぶりを見せつけていたが、本当のところは頭がおかしいやつなのかもしれない。


「西園寺、ターニャを返せ」


「せいぜい頑張って探すんだな。生きてこの場を切り抜けることができたら、な」


「ナイト、いくぞ!」


「おーけー、さあ乗って」


 おれはナイトの背中に乗り込み、透明化した。


「ふふ、そうだ。君にはそれしかないもんな。だが、それじゃダメだ。暗黒波動!」


 西園寺が右手をかざすと、部屋全体に暗黒波動が立ち込める。次の瞬間、おれたちの透明化は解除されてしまった。


「こ、これはさっきの!」


 たしか篠塚の能力、異端の魔女オッド・ウィッチだ! 能力を無効にする波動を出していた。しかし範囲は彼女のものと比較にならない。広間全体を覆うほどの波動に逃げる場所はなかった。


「クソ!」


「どうする!? リョウスケ!」


 おれは切り替えて次の行動に移る。


「直接叩くしかねえ! 行くぞ、ナイト!」


 おれはナイトから降りて走り出した。能力が使えない以上、ナイトと二人で別方向から攻撃を繰り出すことが最善だった。


 すると、西園寺は左手を掲げて何かをしようとした。別の能力を使うようだ。


違法鍛冶屋ギルティスミス、ランチャー! ネット弾発射!」


 西園寺は左手に大きな銃を出すと、ナイトを狙って撃った。


 バサー!


「うわあああぁ」


「ナイトぉ!」


 大きなネットが発射され、ナイトの体を捕縛した。


「フハハハ! 珍しい生物を飼っているな、影山。神獣だよな。こいつはいい、俺のペットにしよう」


「ふざけるな! ナイトはおれの友達だ!」


「はぁ? 猫だろ? やめてくれよ。そういう青春お友達ごっこは」


「もらったぁ!」


 ボーッとしている西園寺の背後を取り、その顔面を思いっきり強打した。

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