第48話 細井との因縁


〜〜〜〜〜


「そうだ。おい、お前もやれよ、良夫!」


「ひぇっ、ぼ、ぼく!?」


 細井は郷田から急に声をかけられて、悲鳴にも似た声を上げた。


「くっ、ほ、細井……?」


 おれは、痛みにもだえながら細井の方を見上げた。


〜〜〜〜〜



 あの時、容赦なくおれの頭を踏みつけてきた細井。


 教室での嫌な記憶を思い出していた。郷田にけしかけられ躊躇なくおれを攻撃する側に回った細井を、あの時は許せなかった。


 だが時が経ち、今は寛容になることができた。あの時の細井の苦労は今ならわかる。あの状況で郷田に言われたら、そうするしかないということも。これが成長するということなんだろうか。そんな考えがぐるぐると巡っていた。


 そうしているうちに本人が目の前に現れた。


「ハァハァ、細井、久しぶりだな」


「影山、本当に久しぶりだね。こんなところでどうしたのかな? 何か探しものかい?」


「とぼけるなよ。ターニャを返せ。お前たちに連れ去られたのはわかってる」


「影山、君の活躍はずっと見ていたよ。にっくき郷田をやってくれて本当に感謝しているんだ。彼は本当に頭が悪く目障りだったからね。今彼はどうしてるんだっけ? 死んだんだったかな?」


 昔の、おれの知っている細井とはまるで別人だった。方向性は別として、彼もまた成長したようだ。


「よく喋るな、細井。その調子でターニャの居場所も教えてくれると、無駄な争いをしなくて済むんだが」


 細井のメガネの奥にある瞳がキラリと光った気がした。


「争い、か。僕はあまり好きじゃないんだが、どうやら避けられないようだね。君の能力はだいたい把握している。不公平だから、僕の能力も是非教えておこうか」


 本当によく喋る。細井のそんな態度は不安からくるものなんじゃないか。おれにはそう思えてならなかった。


「僕の能力は、魔石生成。持っている者の能力を限界以上に引き出す能力を持つ魔石を作り出すことができるんだ。つまり能力のブースト、と言い換えてもいいかもしれない。これがなかなかおもしろい能力でね。持つ者によってどれくらい伸びるかも変わってくるんだ。君にけしかけた増山だったけど、あれは残念ながら失敗だったね。彼の能力はもともと強力だったのに、僕の魔石を持ってしてもたいした伸びは見せなかった。それはつまり彼の潜在能力がその程度だったってことだよね。それからさっきの二人、桜坂と篠塚はなかなか見込みがあったね。彼らには魔石を3個ずつも渡したのさ。複数持たせることに意味があるということが実は最近わかってね。だから彼らの能力は桁違いにアップしているはずだ。だがどちらの場合にも実は本人たちに言ってないことがあるんだよ。それは何か……」


 細井の長々とした説明には飽き飽きしていた。だが、そんなぼんやりとした意識も次の一言で吹っ飛んだ。


「それはね……命を奪ってるということなんだ。魔石は持つ者に無限のエネルギーを与える。その代わりに、生命力を吸い取っているんだよ。これは誰にも言ってないことでもある。もちろんにもね」


「生命力を吸い取るだと……」


 おれは絶句した。命と引き換えに無限のエネルギーを生み出す魔石。なんてものを作りやがる。ターニャのことが気になった。彼女も魔石を持っているのだ。


「ああ、心配しなくてもあの女が持っていた魔石は回収済みだよ。ほら、ここにある」


 そう言って細井は上着を脱いでみせた。彼の上半身があらわになる。その体にはいくつもの魔石が埋め込まれていた。


「なんだその体……どうなってる!?」


「ひひひひ、僕自身びっくりだよ。体に直接魔石を埋め込んだんだ! この魔石たちは、すべて人に与えたものなんだ。それを回収したのさ!」


 細井の体に負のエネルギーが満ち溢れているのがわかる。それは凄まじいオーラとなって彼の体を包み込んでいた。


「見ろ! 与えた人たちから奪い取った生命力を僕の体に取り込んでいる! 僕の魔石の真の力はこれさ! 人に与えたエネルギーの引き換えに奪い取った生命力を、僕の体に注入することで僕自信が最強の存在になるのさ!」


 細井の言ってることはメチャクチャだった。整理すると、人から奪い取った生命力を己の強さに変換しているということだろうか。ということはターニャから奪い取った生命力も少なからず細井の体に取り込まれていることになる。


 細井の体には8個もの魔石が埋め込まれている。胸や腹、腕にあるそれらは怪しげな光を放っている。


「くううぅ! 力が溢れてくるよ。この全能感を君にも伝えたいよ! 影山! フハハハハハ、フハハハハハ! 今なら君を一瞬で殺せそうだ! その隣にいる犬っころも一瞬でね! フハハハハハ!」


「僕は犬じゃない! 猫だ!」


 ナイトが吠える。


「リョウスケ! あいつヤバいぞ。油断しちゃダメだ。僕も援護するよ! 二人であいつを倒してターニャを助けよう!」


「ああ、頼む、ナイト。おれもどうしようかと思ってたところだ」


 細井の体を取り巻くエネルギーがすごすぎて、足がすくんでいたのが正直なところだった。だがナイトに声をかけられて我に返った。


(そうだ。おれはターニャを救い出すんだ! こんなところで怖気づいていられねえ!)


 その時、細井が飛びかかってきた。おれは、ナイトに乗り込むと同時に透明化を発動させた。

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