第42話 新たな刺客


 翌日、ターニャに会いに行くと、彼女は笑顔で出迎えてくれた。おれたちは通りを歩きながら少し話すことにした。


 ジュリアンや月見里と共に、雨宮を倒したという話をするとターニャは喜んできいてくれた。


「すっごいね! 涼介の活躍を見たかったなあ。ボクにできることがあったら頼ってくれていいのに!」


 その言葉は嬉しかった。だが、ターニャにはターニャの生活がある。そういえば、と思い出し一応伝えることにした。


「なあ、実はさっき話したジュリアンって剣士からパーティに誘われたんだ。いっしょにクエストとかダンジョン探索をしないかって」


「え、ええええ! ジュリアンさん、なんて積極的なの……それで、涼介はどうう言ったの?」


「返事はまだしてないよ。考えさせてくれって言った」


「そっか。もし涼介がジュリアンさんと組んだら、あんまり会えないかもしれないね」


「え、そうか? なんでだ?」


「……えっ! う、うん。だってほら、忙しくなるでしょ? それに涼介がボクと会ってるとジュリアンさんだっていい気しないんじゃないかな〜」


「それは、別に関係なくないか?」


「関係なくなくないよ! わかんないの!?」


「す、すまん。そうだ! ターニャもパーティに入らないか? 獣人族は身体能力が高いって聞いたぞ。ある程度戦闘もできるんだろ?」


 おれの突然の誘いを聞いたターニャはビックリして目を見開いていた。


「ほえぇ! ボ、ボク!? 一応戦闘訓練は受けたけど……」


「やっぱりそうなのか! じゃあいっしょに組まないか?」


「そ、それなら涼介と二人が……」


「きゃー!」


 ──その時、ちょうど通りの向こうから悲鳴が聞こえた。


「なんだ? 今の悲鳴は!」


「わかんない、あっちの方から聞こえたよ!」


「とにかく行ってみよう」


 おれとターニャは声のした方へと急いで向かった。




 悲鳴の上がった先へ行くと、通りの真ん中で男が一人立っていた。周りにいたであろう人々は、急いで周囲の建物の中に隠れたようだ。その男がそこで何かをしたのは明白だった。


「あ? ほんとにソッコーで来やがった。よぉ、影山、久しぶりだなあ」


 見覚えのある顔、その男はクラスメイトの増山だった。


「増山、か。何してるんだ?」


「おめーを探してたんだよ。めんどくせーからここで暴れてればくるかなーと思ってよ。そしたらほんとに来た。ウヘヘヘ」


 増山、クラスで悪い意味で一目置かれていた生徒だ。雑な言葉遣いと乱暴な素振りは誰からも嫌われていた。だが、態度が悪いだけで実害があるわけではないため、強制的に排除することもできずにクラスに紛れていた不穏分子だ。


「増山。ここでなにかしたのか?」


 こいつは何を考えているか本当にわからない。おれは恐る恐る聞いてみた。


「フヒヒヒヒ、今からタイリョーギャクサツをしよーと思ってたんだよ!」


 ……やっぱりこいつは何を考えているかわからない。


「何言ってんだ? 何でそんなことを」


「そうしたら来ると思ったんだよ〜ん。お前が!」


 話が通じねえ。いかれてやがる。隣りにいるターニャも不安そうな顔でおれと増山を交互に見ている。


「増山、お前はおれを探してたのか? 理由はなんだ?」


「お前を殺すために決まってんじゃん! しゃべるのめんどくせー、そろそろいっくぜー!」


「えっ──」


 増山がこちらに向かって右手をかざした瞬間、おれの体は動かなくなった。


 「な、なんだ?」と言ったつもりが声がうまく出ていなかった。体の自由が効かない。


「うひゃひゃ! チョロい! チョロすぎんぜー! あー、どうやって殺そうかなー」


 増山の能力か。相手の体の自由を奪うのか。まずい。先手を取られてしまった。


 おれはすぐさま能力を発動させる。


(とりあえず透明化して、あいつの能力の対象から外れなければ……)


 透明化したにも関わらず動かない体に違和感を覚えた。


(なぜだ! 動けない!? あいつの能力が解除されてないのか?)


「フハハハ! 透明化しやがったか! 予想通りだぜ。お前の能力は聞いてるぜ? 影山ぁ」


(おれの能力を知っている! だが、やはりあいつにはおれの姿は見えてない)


 それにも関わらず動けないことに動揺した。


「見えてなくても俺の念力からは逃れられないぜ! 俺には目で見えないものも感じとることができるんだからな!」


(バカな! そんなことが……)


「ヒヒヒ、お前の心の声もさっきから聞こえてるぜ? 俺の能力は最初はゴミだった! だがな! 飛躍的にレベルアップしたんだよ!」


(レベルアップだと?)


「そうだ! 細井のおかげでな!?」


 細井、まさかその名前が出るとは思わなかった。

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