第4話 ネズミ族の娘、ターニャ
おれはターニャに手を引かれて、家に案内された。彼女の家があるのは町の角のほうにあるエリアでまだ足を踏み入れたことのない場所だった。
すれ違う人たちはターニャと同じようにケモミミや尻尾がついている。ここは獣人族が多く住む地区らしい。
「どうぞー、入って入って、ここがボクの家だよ。父と母は仕事に出かけてていないよ。今家にいるのはおばあちゃんだけかな」
「おじゃましまーす」
リビングに案内されて椅子に腰掛けた。ターニャは台所で何かやっている。おそらくおもてなしの準備をしてくれているようだ。
「はい、どうぞ、ハーブティだよ。さっきは森へハーブを採りに行った帰りだったの。助けてくれて本当にありがとね!」
「ありがと、あ、これ素敵なカップだね」
住居や小物などの文化は多少違いがあるが、異世界も現実世界と同じくらい発展している。さすがに電子機器のようなものは置いてない。
「ふふ、ありがと! 何か食べる? ドーナツかクッキーでも」
「じゃあ……ドーナツをいただこうかな」
獣人族も人間と同じ普通の家に住み、人間と同じような物を食すようだ。
それから、おれとターニャはあれこれと話をした。この世界に来て落ち着いて人と話すのは初めてだったため、町についてのこと、獣人族のことをいろいろと聞いた。
「泊まるところがないんだったらうちにくる? 部屋は空いてるよ」
「いやいやいや! さすがに大丈夫。ようやくお金も入ったから今夜からは宿をとるよ」
突然の女の子からの誘いにおれはドギマギしていた。
「あはは、遠慮しないでいいのに。涼介みたいな勇者だったら家族もみんな大歓迎だよ」
「だから、おれは勇者なんかじゃないって。なんでこの世界に来たのかもよくわかってないんだからさ」
「涼介はボクの勇者様だよ。あの悪いヤツらから救ってくれたもんね」
「そんなおおげさな。逃げただけだよ」
「涼介はあいつらのこと知ってるの? あいつらと何か話してたみたいだけど」
「まあ……一応ね。元いた世界では同じ学校で過ごしてたんだ」
郷田たちとの関係はあまり探られたくないのが本音だった。あいつらと同時に異世界転移したことは本当に不本意だ。
「えぇ! そうなの!? じゃ、じゃあ仲間みたいなもの?」
ターニャは少し焦りの表情を見せたのがわかった。
「仲間なんかじゃないよ。おれはみんなから嫌われていたしね。仲間外れさ」
「えぇー。ひどいじゃん。涼介はいいやつなのにぃ」
「そう言ってくれて嬉しいよ」
そういえば、と言ってターニャは少し暗い顔をして口を開いた。
「ここ最近、町でいろんな勇者たちの悪いウワサを聞いてる」
「え! そうなの!?」
「うん、さっきの奴ら以外にも、町中で暴れてる奴らを何度も見た。全部最近の話だよ」
「だとしたら、そいつらもおれと同じ学校の奴らかもしれない……」
「そっかー。なんか最近来た異世界人たちはみんなすごい能力を持ってるらしくて、国側もまとめきれなかったみたい。好き勝手してるってけっこうウワサになってるんだよね」
(やっぱりクラス全員
その時、玄関が開いて何やら騒がしくなった。
「ただいまー。あらターニャ。そちらの方は?」
「おいターニャ、どうしたんだ? 人間の男なんか連れてきて」
「パパ、ママおかえりー!」
どうやらターニャの両親が帰ってきたようだ。ターニャは軽くおれのことを紹介してくれた。父親のほうは、最初警戒していたが、ターニャの話を聞くとすぐに顔が穏やかになった。
「そうかそうか。ターニャ! 危ない目に合ったな! 涼介くん! 娘を助けてくれてありがとうな!」
ターニャの父親はブレッドと名乗った。大柄でガッシリした体つきだ。体毛が多くターニャとは違い、獣っぽい感じが身体中に色濃く出ていた。。
ブレッドさんはおれのことをなぜか気に入ってくれて、しばらくいっしょに話していると仕事の話になった。
「なあ、涼介くん! この世界に来てまだ日が浅いなら仕事を探してるんじゃないか? どうだ? 明日オレたちの仕事を手伝ってみないか?」
突然の誘いに戸惑ったが、この世界で何をやればいいのかもわからなかったのでやってみることにした。
「ぜひ、お願いします!」
話はすぐに決まり、次の日の集合時間を確認してから、その日はターニャの家を後にした。
翌朝、おれは宿を出てターニャの家に向かった。
「なーに、森で木を切って運ぶだけの簡単な仕事だ。心配いらないよ」
ターニャの父親のブレッドさんはそう言って仕事道具を与えてくれた。
「涼介。お仕事頑張ってね。ボクは自分の仕事があるから行けないけど。これ食べて頑張って!」
「え! マジ!? いいの? うまそー!」
なんと、ターニャはおれのために弁当を作ってくれていた。
(ううぅ、この世界に来て本当によかった。ここで暮らしていくのも悪くないよなあ)
「涼介。いってらっしゃーい! 帰ったらまたお茶しよーね!」
「ああ、ありがとう! ターニャ」
そして、ブレッドさんといっしょに仕事場へと向かった。
この時、このターニャの家が無くなるなんてことは想像もしていなかった。
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