25話 もう1人の自分2-鬼が出るか蛇が出るか-
「
「・・・っす」
永遠はフェイスタオルを手にして座り込んだ。冴木も永遠の隣に腰をつける。
「体育祭の一件で、焦っているのかい?」
「それは・・・」
永遠は
「橘くん。五麟の能力を発揮するために大切なものは何だと思う?」
「大切なもの?・・・生気っすかね。生気がないと戦えないし・・・・」
「まあ、それも必要なんだけど、大切なのは胆力だよ」
「胆力?」
聞き慣れない言葉に永遠は首を傾げる。
「恐れない精神力、度胸って意味だよ。五麟の力は全て精神力を源にしている。気持ちの強さがそのまま戦闘時の強さに現れるんだ。今の君はどんな怨霊に出くわしてもやられてしまうだろうね」
「ははっ、はっきり言いますね・・・」
「仕方ないだろう!心の
「俺、勝手に五麟は正義の味方だと思いこんでたんすよ。だから、あいつの言葉で混乱して・・・冴木さんの言う通り心の隙が生まれたんだと思います。俺が自分のやるべきことを信じ切れなかったから・・・」
「信じる心も大切だが、僕は胆力の行き着く先は"覚悟"だと思うよ」
「覚悟・・・」
「何のために戦っているか、その答えを持ち合わせていないように見える」
「冴木さん、この間も言ってましたね」
「とても大事なことだから何度でも伝えるさ。橘くん、もし今後、命をやり取りする場面に出くわして、例え相性が悪く見えても絶対に気後れしてはならないよ。怨霊も僕たちが持つ力もそれぞれの特徴が可視化されているだけなんだ。実際に雷や樹を出している訳ではないからね。橘くんは初めてだから、余計にその感覚が難しいかも知れない。でも、気持ちの強い方が勝つんだ。自分が何のために闘っているのか、橘くんも見つけられると良いんだが」
その時修練場の扉が開いて、
「ごめん、使ってた?」
「いや、今休憩中」
「茅野くん、もう動いて大丈夫なのかい?」
冴木は柊の顔色を伺った。柊が
「休み過ぎたくらいですよ」
「この間はすまなかった」
「大丈夫です。分かっていますから。・・・ねぇ、永遠」
「ん?」と永遠が反応した。
「あれから
「あぁ、千羽はピンピンしてるよ。前後の記憶が
「そう。千羽ちゃんが元気なら良いの」
「お互いに手の内を見せたんだ。警察もマークはしているし、あいつもしばらくは動けないだろう」
「兼路は逮捕されてないんすか?」
「物的証拠が出てこないんだ。防犯カメラに生霊は映らないし、警察が逮捕できる条件を揃えるのは難しいだろうね」
その時修練場の扉が開いて、「
澪は体育祭の一件で一族から命を
「すみません。タイミング悪かったですか?」
「いいえ、大丈夫ですよ。今日はありがとうございます」
心配そうにしている澪に対し、柊はきっぱりと告げた。
「俺も上京してから手合わせするの初めてなので、鈍ってなければ良いですが」
「柊達がここ使うのか。じゃあ俺は休憩しとくわ」
「そうしてもらえると助かる。ほら、澪さん以外に剣術の手合わせできる人って他にいないでしょ。対人が鈍ってそうだから心配で」
2人の手には木刀が握られている。
体育祭以降、柊や永遠、冴木は澪のことを名字ではなく、名前で呼ぶようになっていた。
「では澪さん、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
柊が木刀を構えたのを見て、澪も木刀を構える。お互いの視線が一瞬交わった後、柊が一気に間合いを詰めた。木刀を振って来たのを見て、澪がいなしていく。
「冴木さん、2人の立ち回り早くないっすか?」
「あぁ、2人とも見事だ!
「あれって剣道ではないっすよね?」
「あぁ、より実践向きの剣術だろう。僕も詳しくはないが、型は通ずるものがありそうだね」
決めきれなかった柊は間合いを取り直した。すると澪は体勢を低くして、トップスピードで踏み込んで来る。
――バシィ!!
柊の木刀の剣先が後ろに大きく反った。澪は笑みを作ったが、柊はそのまま柄を握り直すと、
「・・・これは、参りました」
柊は小さく笑みを作る。
「素晴らしい勝負だったな!」
「勝ち方が本気すぎる・・・」
永遠は顔を引きずらせながら言った。
「茅野くんは負けず嫌いだからな」
冴木はうんうんと
「いや、久しぶりに本気で手合わせできて嬉しかったです。茅野さん強いですね」
「澪さんの間合いを詰める姿勢・・・知人にそっくりだったんです。姿勢が低すぎて、視野に相手の動きが入ってないというか・・・」
「知人?」
「・・・いえ、何でもありません」
柊は手を差し出して澪の体を起こした。
「身体を動かすとさすがに
柊はスウェットの上着を脱いで半袖になった。
「茅野さん、そのサポーターは?」
「あぁ、ここに火傷の跡があって・・・と周囲には言っていますが、五麟の
「火傷の跡・・・」
柊の言葉に澪が反応を示した。
「澪さん・・・?どうかし――」
――バタン!
扉が開いて
「訓練中にすまない。4人に話しておきたいことがある。上がって来てくれるか?」
「分かりました」
永遠が応えたあと、柊、冴木、澪の3人もそれぞれ頷いた。
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