24話 もう1人の自分1-鬼が出るか蛇が出るか-

しゅう、気づいたか」

永遠とわの高校の体育祭に現れた駒葉市中高生連続襲撃事件の犯人・鷲尾兼路わしのお かねみちとの激闘の後、東雲医院の病室で目を覚ました柊に永遠が声をかけた。柊は右の掌を開いたまま、じっと見つめている。

「おい、大丈夫か・・・?」

「ごめん。少しぼーっとしちゃって」

柊がぎこちなく笑みを作った。

「2日も寝てたしな」

「――そうね」

「休んでた間のノートは相内に頼んでおいたから」

「ありがとう。ねぇ、眞白ましろは・・・」

「眞白は塾だよ。お前の分の任務は冴木さえきさんが対応してくれてる」

「眞白はそっか、塾だよね。冴木さんにお礼言わなくちゃ」

永遠は柊の反応を見て、怪訝けげんそうな顔をしている。

「・・・本当にお前柊か?」

「いきなりどうしたの?」

「何年一緒にいると思ってんだよ。柊のふりしてようが、お前が柊じゃねぇことくらい気づくっつーの。幼馴染おさななじみなめんな」

永遠は真剣に尋ねたが、柊は笑いを堪えきれず、小さく声を漏らした。

「ふふふ。自分が間違っていたらとか思わないのね。、本当に面白い人。でも、私が悪い人だったらどうするつもりだったの?あなたが油断してる間に、殺しちゃってたかもよ?」

永遠は敵意を向けてきた柊に対し、丸椅子まるいすから立ち上がって距離を取った。

「冗談よ。柊が嫌がることを私がする訳ないじゃない」

「てめぇ・・・!」

澄義ちょうぎさん、永遠さんにはご説明差し上げた方が良いのではないでしょうか」

美鶴みつるさん・・・!一体どう言う・・・?」

永遠が驚く中、病室に現れた美鶴は柊のベッドまでやって来た。

「――分かったわ。特別に教えてあげる」

「お願いしますね」

美鶴がそう伝えると、柊は不気味に笑った。それは永遠が見たことのない笑みだった。

「私はあなたの言う通り、柊じゃない。私は柊の守護獣、澄義」

「守護獣・・・?何なんだそれ?」

「柊たち五麟ごりんはそれぞれ索冥さくめい炎駒えんく聳孤しょうこ角端かくたん麒麟きりんと呼ばれているでしょう?その名前は内に宿す守護獣の総称なの。内に守護獣を宿した人間には特殊なあざが現れる。あなたにも痣があるでしょう?」

澄義の言葉に永遠がうなずいた。

「柊は”索冥”と契約を結んだの。未来永劫みらいえいごう、私と魂を結ぶ契約。第二解放という強力な力を得る代わりに、柊の身体は柊のものでもあり、私のものになる」

「待ってくれ、ちょっと意味が・・・」

永遠は澄義の言葉をうまく消化できずに制止した。

「柊さんは第二解放をするために、守護獣の澄義さんと契約を結ばれているんです。結んだ契約者の魂は天国にも地獄にも行きません。永遠に守護獣の中に宿り続けると言われています。影響は死後だけではなく、契約後の身体は守護獣も自由に使えるようになります」と美鶴が澄義の言葉を補足した。

「美鶴先生、それは暗に、力を得た代わりに身体が乗っ取られるって聞こえるんすが」

「そうですよ」

「は?!」

「澄義さんは柊さんが望んだ時だけ身体を使っているんですよね。そんな守護獣は滅多にいないと思いますが」

「だって、柊のことが大好きなんだもん。どうして柊が嫌がることをしなくちゃいけないの?」

「お前は柊の味方なのか?」

永遠の言葉に澄義は頷いた。

「もちろん。もう一度私を必要としてくれてうれしかったぁ。私は柊が望む通りにしたいだけ。柊が傍に置いてくれればそれで良いの・・・守護獣にも色んな奴がいるから、要望はそれぞれ違うけど」

「永遠さん、彼女が信頼に足ることは私が保証します」

「美鶴先生・・・分かりました。でも今の話だと、俺の中にも守護獣がいるってことっすか?」

「守護獣と対話をして契約ができる関係になるには、守護獣に認められないといけません・・・。第二解放をするには最低数年のかかると言われています。それに第二解放は一生しない方もいるし、一生できない方もいる」

「一生しない理由は?」

「簡単よ。守護獣と信頼関係が築けなければ二重人格状態だから。自分が破滅することを恐れているのよ」

澄義が美鶴に代わって答えた。

「・・・待てよ。なんで柊はずっと、第二解放を使わなかったんだ?使えばめちゃくちゃ強いんだろ?お前も協力的だし、使わない理由がねぇ気がするけど」

「柊はあなたたちに知られることをずっと怖がってた。だから、なるべく使わないようにしていたの。でも、聳弧の能力は怨霊おんりょうや生霊を対処できても、実態がある神官本体には攻撃できない。それを知られないようにするには、あれしかなかった。柊の第二解放は生気をたくさん使うから、今は精神世界の深いところで休んでる。あと数日は戻って来れないと思う」

「無理をしたってことか?」

「・・・柊の性格はあなたもよく知っているでしょう」

澄義は少し悲しそうに笑った。

「そう・・・か・・・」

永遠はぎこちなく返した。

「では、その数日間はこちらに入院していてください。この医院の中にいらっしゃれば、私がフォローできますし、任務につくことを回避できるでしょう」

「ありがとうございます」

澄義は一礼した。

――ブー・・・ブー・・・。

永遠のスマートフォンが振動した。

「本部長からです。ちょっと出てきます」と言って、永遠は病室を後にした。

「・・・柊さんは無茶をしましたね。第二解放をして、回復スピードを急速に高めるということは、寿命を縮めることにつながります」

「もちろん、柊も分かっています」

「これ以上、無理をしないように澄義さんからもお伝えください」

「――柊は他の誰かが傷つくことが耐えられないの。だから前世だって・・・。あなたも知っているでしょう?無理をしてほしくないと一番思ってるのはきっと私よ?」

「・・・そうでしたね」

「もう一度生を享けたんですもの、柊の望む通りにしてあげたい。私は本当にそれだけなの」

「3年前、あのような仕打ちをした私に怒っていますか」

「それは別に。柊が望んだことだから。千年待っていたのよ?数年くらい、気に留めてないわ」

「言葉遣い・・・現世のものを使えるんですね」

「柊を通してずっと見ていたから。来たるべき日のために学んでいたの。でも勉強はちょっと心配」

澄義はくすりと笑った。

「そうでしたか」

「ねえ」

「なんでしょう?」

美鶴は真剣な表情で澄義を見つめた。

「あなたは柊の味方と思って良いのよね?・・・それとも、ひょっとしてーー」

「澄義さんのご想像にお任せします・・・では、食事を準備してお持ちしますね。少し待っていてください」

そう言って美鶴は病室を後にした。

「・・・味方だとは答えないのね」

澄義は美鶴が出ていった後の扉を見つめていた。





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