2話 幼馴染の噂2-火のない所に煙は立たぬ-

――ガシャン!

何かが割れる音がして、大石華奈おおいし かなの言葉が遮られた。クラス全体が騒然としている。

「え、何の音?」

華奈も不安そうな表情を浮かべている。

「あっちからしたよな?」

橘永遠たちばな とわは音がした方角を確かめた。

「本当に嫌になっちゃう!」

しばらくすると、平沢美沙ひらさわ みさが周囲に聞こえるような大きな声を上げて教室に戻って来た。

「また茅野かやのさんでしょ?これじゃ七中の時と一緒じゃない!」

「美沙、声が大きいってば!」

吉川葵よしかわ あおいが慌てて注意をする。永遠は咄嗟とっさに美沙のところに駆け寄った。

「茅野がなんだって・・・?」

「橘くん・・・!」

美沙は永遠から声をかけられて嬉しかったのか、顔を赤らめている。

「平沢、教えてくれ」

永遠は真剣な表情で美沙に尋ねた。

「――女子トイレの窓が粉々に割れたの。茅野さんが先生から事情を聞かれているわ」

美沙は早口で説明をした。

「なんだよ、それ?」

永遠は女子トイレの方に向かった。

「永遠!」

後ろから一之瀬眞白いちのせ ましろが呼ぶ声がした。

「悪ぃ、ちょっと通してくれ」

永遠が廊下にできた人だかりをかき分けて進むと、女子トイレの前にしゅうと女性教師が1人立っていた。女子トイレは扉が開け放たれており、突き当り正面の窓ガラス4枚が粉々に割れている。柊は右のこめかみに手を当てて女性教師を見つめている。

「どうしてこうなったの?」

草薙くさなぎ先生。先ほどもお伝えしましたが、突然女子トイレのガラスが割れたんです」

「なにもしていないのにガラスが突然割れるわけがないでしょう?」

柊が落ち着いた様子で答えているが、草薙綾子あやこは納得しない様子で大きな声を出している。

「おい!」

その様子に思わず永遠が立ち入ろうとしたが、肩に手がかかり、思わずのけぞりそうになった。「任せて」という言葉とともに眞白が前に出る。

「草薙先生、茅野さんが本当にガラスを割っていたら、ガラスは外側に散らばっているはずですよね?」

「何なの、あなたは?関係ない生徒は下がっていなさい!」

草薙は大きな声で眞白を牽制けんせいした。

「ほら、見てください。ガラスは全て内側に落ちている。外側から強い力が加わって割れたのではないでしょうか?」

眞白は女子トイレの入口から指を刺し、動じる様子もなく話を続けている。

「確かに、それはそうだけど・・・!」

「大きな音は一度しか聞こえませんでした。4枚のガラスを彼女が同時に割ったというのは少し無理がありませんか?」

眞白は柊の様子を確認して、ハンカチを差し出した。

「柊、血が出てるんじゃない?ガラス片が残っているかも知れないから、病院で治療を受けた方が良い」

「眞白・・・ありがとう」

柊は頬に伝ってきた血を手でぬぐい、手渡されたハンカチを当てた。

「おーい!まもなく入学式が始まるから廊下に出席番号順に並ぶように!」

後方から男性教師の声がして人だかりが散っていく。

「草薙先生。もうすぐ入学式が始まります。この件はその後にしましょう」

青山あおやま先生・・・わかりました。」

柊と対峙たいじしていた草薙は、青山大輔だいすけの言葉にうなずいた。

「君は保健室に行きなさい」

「・・・はい」

柊は青山の言葉に表情を変えず、短く返した。

永遠は柊のところに駆け寄った。

「柊、大丈夫かよ?」

「永遠、心配かけてごめんね。保健室に行ってくるから」

柊はそう言ってその場を後にした。

「・・・永遠、整列だって」

周囲の生徒が並び始めたのを見て、眞白が永遠に声をかけた。

「そ、そうだな」

「心配なのは分かるけど、俺たちは入学式に参加しよう」

眞白の言葉に頷いて永遠も整列した。

「よし、整列できたな。じゃあ体育館に向かうぞ」

青山は生徒たちの整列を確認すると体育館へ誘導する。体育館に入場して席に着くと、司会の教師の合図で入学式が始まった。体育館はあまり大きくないため、在校生はスピーチを行う数名のみ参加しているようだ。

「新入生代表挨拶、一之瀬眞白」

代表スピーチのために眞白が壇上へ呼ばれた。

「満開な桜と共に私たちは無事に駒葉高校の入学式を迎えることができました。本日はこのような素晴らしい入学式を行なって頂き、誠にありがとうございます…」

眞白のスピーチが滞りなくスピーチを終えて着席する。その後も入学式が続いているが永遠はずっと上の空だった。



入学式が滞りなく終了し、ホームルームで担任や生徒の自己紹介が行われていく。そして連絡事項が終わると13時前には解散になった。永遠は真っ先に1年4組の教室をのぞくが、柊の姿は見当たらない。永遠は仕方なく1年3組の教室に戻ってきた。

「柊、いなかったわ。帰ってきてねぇのかも」

「入学式に参加している様子もなかったね。病院に行ったんだろうけど・・・」

永遠がスマートフォンのメッセージを確認する。

「この既読1って眞白だよな。じゃあ柊は読んでねぇか」

「柊、いつも返事遅いもんね・・・」

「なぁ、眞白は中学時代の柊のうわさを聞いてことがあるか」

「噂?いや、心当たりはないけど・・・」と言って眞白がまゆをひそめる。

「そうだよな・・・」

腕組みをしていると、帰り支度をしている華奈が目に入った。

「大石!」

永遠は帰ろうとする華奈の元へ駆け寄った。

「橘くん、どうしたの?」

華奈は驚いた様子で永遠に尋ねた。

「悪ぃ、さっき大石が俺に言いかけてた言葉がどうしても気になって」

「茅野さんの?」

「あぁ。教えてくれないか?」

華奈は周囲を確かめたあと、口を開いた。

「・・・分かったわ。場所を変えましょう。どこか人目がつかない場所あるかしら」

「近くに公園があった。そこにしよう。眞白も・・・一之瀬も一緒に話を聞いて良いか。あいつも小学校からの友達なんだ」

「もちろんよ」

華奈の言葉を聞いて永遠は眞白の腕をつかんだ。

「うわっ!急にどうしたの?」

「眞白、柊のことで話がある。一緒に来てくれるか」

「え?柊のことって・・・?」

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