34話 闘う理由と譲れないもの3-鳴かぬ蛍が身を焦がす-

永遠とわ東雲しののめ医院に見舞いに来た眞白ましろから、突然夏祭りに誘われた。

「は?夏祭り・・・?」

「ほら、3人で行ったつばめヶ丘がおかの夏祭りがさ、1ヶ月後にあるみたいなんだ。その頃には永遠も元気になってるかなって。しゅうも誘って3人で行こうよ」

眞白はカバンからチラシを取り出すと、永遠に差し出した。

「なんでまた急に・・・」

「久しぶりに3人で夏祭りに行きたくなって。中1の時に行って以来行ってないでしょ」

「そりゃそうだけど・・・補講になったら行けないかも知れねぇし」

永遠は眞白の誘いにしどろもどろになりながら答えた。神官や怨霊おんりょうが1ヶ月後にどうなっているのか見通しが立たない状況で、先の約束をしてしまうのは気が引けた。

「補講は夜までやる訳じゃないでしょ」

眞白はスマートフォンの画面で駒葉こまば高校補講予定表と書かれた一覧表を永遠に見せた。

「そうは言ってもなぁ・・・バイトのシフト外せるか分からねぇし・・・」

「アルバイトの件なら、さっき鷲尾わしのおさんに頼んでおいたよ」

「は?眞白はみおさんと会ったことないだろ?どこでつながったんだよ・・・」

「澪さんが俺に気を使って席外してくれてさ、その時に自己紹介されたんだよ。アルバイトが一緒って言ってたから頼んでおいたんだ」

眞白は永遠に付け入らせない雰囲気で答えた。

「なんでそんなに準備万端なんだよ・・・」と、永遠は少し引きながらつぶやいた。

「永遠は分かりやすいからね」

「・・・わーったよ。よほどの急用が起きねぇ限りは行くから」

「ありがとう。柊には俺から連絡しておくね」

「あぁ」

永遠の返事を確かめると、眞白は丸椅子いすから腰を上げた。

「じゃあ、俺行くね。夏祭りの時に少し話したいことがあるからさ」

そう言って眞白は病室を出ていった。

(話したいことってなんだよ・・・本部アルバイトの件か?話せって、隠し事すんなって言ったのは俺なのに・・・なんでこんなびびってるんだろうな・・・)



眞白は駅に向かいながら、スマートフォンを操作して画面を耳に当てた。

「――もしもし、柊?急にごめんね。今少し大丈夫かな?」

『・・・大丈夫だけど、どうしたの?急に電話なんて』

柊の困惑は電話越しでも眞白に伝わった。

「いや、LINEでも良かったんだけどさ、直接言いたくて」

『直接?』

「1ヶ月後のつばめヶ丘の夏祭り、永遠と3人で行かない?予定空けられそう?」

『たぶん空けられると思うけど、どうして急に?』

「ふふ、3人で行きたくなったんだって。2人揃って同じこと聞くんだから」

『もしかして、永遠に話すの?』

「話すというか伝えておこうかなって。永遠、自分で約束しちゃったから悩んじゃいそうでしょ。俺は別に言って欲しい訳じゃないからさ。少しでも長く2人と一緒に過ごしたいだけで」

『それは一体どういう意味・・・?』

柊は怪訝けげんそうな声で眞白に確かめた。

「深い意味はないよ。とにかく柊は気を張る必要はないから。今まで通り、話せないことは話さなくて大丈夫だよ。少なくとも俺にはね」

『そう・・・分かった』

「じゃあまた学校で」

そう言って眞白は電話を切った。




夜も更けた市立駒葉公園。周囲では警察が慌ただしく動き回っている。怨霊浄化のために柊と澪が待機していると、スキップでもしそうな雰囲気で入江いりえが2人に近づいて来た。

「ども〜!二人ともお疲れ☆」

「・・・入江さん、そのテンション、もう少しどうにかなりませんか?」

現場に現れた入江に対して、柊がげんなりしながら言った。

「柊ちゃんは相変わらず手厳しいな〜。ほら、澪くんの緊張を和らげてあげようと思って?」

「入江さん、お気遣い頂きありがとうございます。でも、心配無用ですよ。東櫻とうおう大学の記念祭が実質初回任務でしたし、怨霊の対応だけで言えば前世では索冥さくめいの次に多かったですし」

入江の顔を見ながら、澪は申し訳なさそうにしている。

「そうなの?それは頼もしいけど、ちょっと寂しい・・・」

「気を悪くされたらすみません」と澪が謝ったが、すかさず柊が「入江さんは頼られたい人なので重く受け止めなくて大丈夫ですよ」とフォローした。

ここで入江は「あっ」と言葉を漏らすと、何かを思い出したようでごそごそとし始めた。

「入江さん、どうしたんですか?」

リュックやポケットの中を確認しながら、焦る入江を澪が不思議そうにのぞき込んだ。

「あったー!なかなか見つからないから失くしたかと思っちゃったよ!はい!芝山さんから預かった書類だよ〜☆」

「入江さんありがとうございます」と言いつつ、澪はファイルを受け取った。

「・・・書類?」

「はい。3年前の珠川たまがわ河川敷爆破事件の資料です。ちょっと気になることがありまして、芝山しばやまさんに頼んでいたんです」

柊が反応したので、澪はすかさず答えた。

「――そうですか」

「大丈夫です。柊さんを邪魔するつもりはありませんよ」

その言葉を聞くと、柊はきびすを返して現場に歩を進めようとした。

「柊さんはアルバイトをする理由として、探しものをしているとたちばなさんに伝えていたそうですね?」

「・・・はい」

柊は振り向いて警戒心を含みつつ答えた。

「――探していたのは太陽のげきですか?」

「・・・さぁ、どうでしょう?」

柊は澪をじっと見つつ曖昧あいまいに答えた。澪は表情から読み取ろうとしたが、柊がどんなことを考えながら答えたのかを察することはできなかった。

(この質問では揺れませんね。ではあちらを聞いてみましょうか・・・)

澪はかねてより気になっていた質問をしてみることにした。

「柊さん、どうして”雷針らいしん”を使わないのですか?」



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