11話 巡り合う運命1-竿竹で星を打つ-
(あれ・・・?寝ていたのか・・・)
「起きたか」
芝山は運転をしながら、ミラー越しに永遠の様子を伺った。
「はい・・・」
永遠が大きく伸びをしながら隣の座席に目をやると、どうやら
「何をやってるんだ?」
「報告書の作成」
「戦ったあとに?」
「ちゃんと提出しておかないと警察がうるさいから」
「大変なんだな・・・」
あれだけ戦闘した後に、報告書と格闘する柊の姿を見て、永遠は思わず同情の言葉をかけた。
「普段寝る時間あんのかよ」
「まあね」
柊は淡々と応えたが、目の下にはしっかりクマがある。
「看板が見えた、あれだ」
高速を降りてから5分ほど走ると、住宅街の中に【
小さな個人医院のようで、医院の前の駐車場も2台しか駐車できない。芝山が手早く駐車をして2人に降りるように促した。永遠は
「ようやく来ましたね」
車の音を聞きつけて、医院の中から白衣を着た女性が出て来た。身長は150cm前後、長い髪を三つ編みにして左側に流している。
「今何時だと思ってるんですか〜?到着時間が分かったら知らせくださいと言いましたよね・・・?今度こそ時間外料金付けますよ?」
「
「晴は何度言ってもできるようになりませんね。子供よりたちが悪くて困っちゃう」
美鶴と呼ばれた女性は満面の笑みだが、永遠はその迫力に押されて何も言えなかった。美鶴は後から降りてきた柊に目をやると、小さく息をついた。
「柊さん、顔が真っ青ではありませんか。また無理をしたのではないですか?・・・そんな戦い方を続けていたら寿命が縮んじゃいますよ〜」
「すみません、心配をかけてしまって・・・でも平気です、美鶴さんの心配には及びません」
「そういう訳にはいかないんですよ・・・。私と晴はあなたのお兄さんから、あなたを預かっているのですから」
「あの!柊が動けなくなったのは俺を庇ったからで・・・」
必死に訴える永遠の様子を見て、美鶴はまるで初めて永遠の存在に気づいたかのように、まじまじと永遠のことを見つめている。
「紹介がまだだったな。彼女がこの東雲医院の主治医である
「はじめまして。美鶴先生って呼んでくださいね。あらあら〜、あなたも怪我をされていますね」
「いや、俺は
「あら?あなたは怨霊のことを覚えているのですね・・・?」
「美鶴、彼には
「挨拶が遅れました。柊の幼馴染で橘永遠って言います」
美鶴は一瞬眉間に
「怨霊に遭遇しちゃったんですね・・・。それは怖かったですね」
「いや・・・」
怖かったというのはなんとなく恥ずかしく、永遠は言葉を濁した。
「永遠くんは足を怪我していますね〜。念のためレントゲンを取りましょう。突き当りにレントゲン室があります。入口に椅子が置いてありますから待っていてもらえますか。柊さんは点滴を打ちましょう。時間がかかりますから、先に始めましょうか」
そういって、美鶴は柊を院内へ案内した。
「なんか、美鶴先生ってすごいっすね・・・」
「昔から俺もあいつも美鶴には敵わなくてな」
「怒らせないように気をつけます」
「俺は各所に連絡してくる。橘はレントゲン室の前で待っててくれ」
「分かりました」
永遠は足をひょこひょこ引き摺りながら院内に入った。受付の先に真っ直ぐ廊下が伸びていて、診察室、病室と並んでいる。一番奥にあったレントゲン室を見つけて、前にある
「お待たせしました〜」
美鶴がレントゲン室の前に現れた。「お入りください」とレントゲン室に通されると、台の上に乗って板のようなものに足を乗せた。
「そのままじっとしていてくださいね〜」
そういって美鶴が撮影のため、部屋を出ていきまもなくして「終わりました」と言って戻ってきた。
「診察室で確認しましょう」
そういって診察室に誘導されて、照らされたレントゲンを確認する。
「良かったですね〜。折れてはいないようです。ただ、
「テーピングでお願いします」
「テーピング意外と巻くの大変ですけど大丈夫ですか?それは柊さんが巻いたんですよね?」
「陸上やってたんで自分で巻けます」
「・・・過去形なんですね」
「中2で右足の大きい怪我して・・・そこから大会出てなくて」
「高校で陸上部に入るんですか」
「どうっすかね。自分がやりたいのか分かってなくて」
「・・・きっと陸上を続けても続けなくても、永遠くんの中で悔いは残ります。でも、人に流されて選ぶのではなく、自分自身で決めた方が良いと思います」
「それは美鶴先生の経験談っすか」
「・・・ええ。生きていると後悔と巡り会う瞬間があるんです。その時に受け止める強さが必要になるんですよ」
「ちょっと話が見えないんすけど・・」
「・・・いつかその時が来たら永遠くんも分かります。さあ終わりましたよ〜」
美鶴に促されて、永遠は松葉杖を受け取り廊下へ出た。
「永遠くんは、晴に送ってもらってください。もう遅いですし、親御さんが心配されていると思います」
「でも柊は・・・」
「点滴は落とし終わるのに時間がかかるんですよ〜」
などと会話をしていると、芝山が診察室までやって来た。
「晴、ちょうどよかった。永遠くんをお家まで送ってあげてください。柊さんは点滴が落ちきるのにあと2時間かかるから私が送っていきます。晴は一回警視庁へ報告に行くんですよね?」
「そのつもりだが」
「・・・芝山さん、今日の任務は私が行きます」
柊が点滴スタンドを押しながら、診察室前までやって来た。
「その体では無茶だ。代わりに
「任務が続いて消耗しているのは冴木さんも一緒です。冴木さんにまで無理をさせたら・・・」
「分かっているだろう。今日遭遇した怨霊は相当強かった。お前が本気を出さなければならないくらいに。消耗も激しい状態で同日に続けて任務に入ろうものなら、本当に死ぬぞ?」
「でも・・・」
「”死ねない”んだろう?なら今は出るべきじゃない」
柊は芝山の言葉を聞いて唇を
「・・・柊さんは人の心配ばかりですね〜」
美鶴が
「すまないが、美鶴。茅野を頼む」
「大丈夫ですから、早く行ってください」
永遠は病院を出ると、芝山に続いてもう一度車に乗り込んだ。
「自宅の住所を言ってもらえるか」
「はい、
永遠が住所を伝えると。芝山はカーナビに住所を打ち込んで経路を表示させた。
「行くぞ」
芝山はエンジンをかけた。
「よろしくお願いします」
永遠は声をかけて助手席に乗り込みシートベルトを締めた。駒葉市内ということもあり、所要時間は15分と表示されている。大きな通りに出ると、駒葉市民なら見慣れた甲州街道が現れた。
「君は茅野とは知り合って長いのか」
芝山が永遠に尋ねる。思えば、柊との関係性については触れていなかった。
「柊が小3で転校して来てからずっと友達で。中学に上がってからはお互い忙しくてなかなか会ってなかったっすけど」
「そうか・・・」
「芝山さんはいつから柊の面倒を見てるんすか」
「茅野の兄が海外転勤になってからだ。確か中1からだな」
「・・・あいつそういうこと全然言わなくて。柊は今日みたいなことはしょっちゅうあるんすか。その怨霊と戦闘するみたいな」
「あのレベルの怨霊は少ないが、怨霊の浄化は毎日してるな」
「そうなんすか・・・」
「今日、怨霊と茅野が戦っている姿を見てどう思ったんだ」
「え?」
「怨霊に遭遇したあと記憶を留めておける人間は滅多にいない。こういう会話をすることはなかなかなくてな」
「怨霊は怖かったっすよ。あんな化物ほんとにいるんだって。
永遠は茶化して言ったが、頭の中では芝山の言葉が浮かんでいた。
――『分かっているだろう。今日遭遇した怨霊は相当強かった。お前が本気を出さなければならないくらいに。消耗も激しい状態で同日に続けて任務に入ろうものなら、本当に死ぬぞ?』
自分が学生生活を送っている間、柊はずっと命のやりとりをしていたのかと思うと、ぞっとした。永遠は見えるだけで力を持っていない。間一髪のところで柊に助けられた時のことを思い出すと、正直関わりたくないと思った。
芝山が大きな通りで信号待ちの間、永遠の方を向いて口を開いた。
「これは提案なんだが、本部で茅野と一緒にアルバイトをしてみないか」
「・・・は?」
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