38話 交錯する思い1-人と屏風は直には立たず-
補講のために
(なんかすげー疲れた・・・)
玄関先で大きな
――『雇用契約書だ。中身は以前とあまり変更はない。気になるなら
(そういえば、アルバイトを始めてから親父と2人きりになるのは初めてだな・・・)
永遠は一呼吸おいてから、父親に声をかけた。
「――なぁ、親父」
「・・・なんだ?」
父は新聞から目を離すと、永遠のことをじっと見つめた。
「なんでバイトOKしてくれたんだよ。勉強に支障が出るからやめろって、絶対言われると思ってた」
永遠が言い終わると、父は再び新聞に目を落とし、2人の間にしばしの沈黙が訪れた。
(え?俺の言葉聞こえてたよな・・・?なんで無視・・・?)
「・・・お前は将来何をしたいと思ってるんだ?」
「は?」
「高校の3年間なんてあっという間だぞ」
「まだ将来までは考えてねぇけど・・・」
「芝山さんって言ったか、あの人は若いが大した人だ。陸上しかやってこなかったお前にとって、良い社会勉強になるだろう。それに・・・
「は?!」
突然出てきた柊の名前に永遠は変な声を上げた。
「柊・・・?あぁ、一緒にやってるけど・・・」
「なら、お前が手伝ってやれ。散々世話になってるだろ・・・だが、留年はするなよ。お前の選択肢が狭まるだけだからな」
「お前はって・・・?」
「俺は高校の時に不登校の時期があって留年した」
「俺に厳しく言ってたのって自分の経験があったから・・・?」
「――お前には後悔してほしくないんだ。俺が本当に後悔しているのは、出席日数が足りなくて留年したことじゃないがな・・・」
「留年以上に後悔していることってなんだよ・・・?」
「それは――」
父は新聞紙を折りたたむと、永遠に真剣な眼差しを向けた。
――バタン!
「ただいまー!」
玄関の扉が開く音と、
勢いよくリビングの扉が開いて、千羽がリビングに入って来た。
「あ!お兄ちゃん!補講終わったの?」
「あぁ、今日は数学だけだからな」
「大丈夫?卒業できそう?」と言いながら、千羽はニヤっとした。
「・・・お前な」
ここで、永遠の母・
「千羽!合宿用に買ったものを自分の部屋に運びなさい!」
「はーい!」
千羽は母から紙袋を受け取ると、階段を上がって自分の部屋へと向かった。
「あら、永遠。帰ってたのね。雨が降ってきたから洗濯物取り込むの手伝ってくれない?」
「母さん、今日は病院の日じゃなかったっけ?」
「そうよ。調子が良かったから、帰りに千羽の合宿の買い物を済ませて来たの」
「今日変わりやすい天気だって言ってたじゃん。身体強くねぇんだから、雨が降りそうな日に買い物まで行かなくても・・・次に肺に穴が開いたら手術って言われただろ・・・?」
永遠は母の身を案じたが、母は「そんなこと言ってたら買い物に行けないじゃない。もう7月なんだから」と笑いながら言った。
「そりゃそうだけどさ」
永遠の母は2年前に
永遠と母が会話をしていると、父が立ち上がって部屋を後にしようとしていた。
「お父さん、どこに行くんですか?」
「・・・ちょっと野暮用にな」
そう言って父は玄関を出ていった。
「そうそう。永遠、明日は夕飯いらないのよね?柊ちゃんと眞白くんと夏祭り行くんでしょう?」
母に尋ねられ、永遠は「そうだけど」と応えた。
「大変!浴衣出すの忘れていたわ!」
慌てふためく母を、永遠は「ちょい待ち」と制止した。
「俺、浴衣着ていくなんて言ってねぇけど」
「そうなの?せっかくのお祭りなのに?昔は柊ちゃんと眞白くんと3人で浴衣着ていったじゃない」
「いいよ。身動き取りにくいし」
(
「そうなの・・・」
母が悲しそうな顔をしたので、居心地が悪くなった永遠は「ちょっとトレーニングに行ってくる」と言ってリビングを後にした。
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